ドラゴンクエスト ユア・ストーリー:山崎貴総監督が明かす“大人気ゲーム3DCGアニメ化に込めた思い 豪華キャスト起用のワケは…

劇場版アニメ「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」で総監督と脚本を務めた山崎貴さん
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劇場版アニメ「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」で総監督と脚本を務めた山崎貴さん

 人気ゲーム「ドラゴンクエスト(ドラクエ)」シリーズの劇場版アニメ「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」が8月2日に公開される。同作は「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」(1992年発売)のストーリーが原案で、シリーズ初の3DCGアニメ。「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズや「永遠の0(ゼロ)」などで知られる山崎貴さんが総監督と脚本を担当した。誰もが知る大人気ゲームを映画にするにあたり、山崎総監督は「ドラクエ」を愛する周囲のプレーヤーたちに取材を重ねたといい、「リアルなプレーヤーの体験をどれぐらい入れ込めるかがすごく大事だった」と語る。山崎総監督に劇場版アニメへの道のりや主人公リュカ役の声を務めた佐藤健さんら声優について、さらに3DCGと2Dアニメーションのこれからなどを聞いた。

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 ◇大人気ゲームの劇場版アニメ化に葛藤 「懐疑的だった」

 「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」は八木竜一さんと花房真さんが監督を務め、「ドラクエ」の“生みの親”堀井雄二さんが原作・監修を担当、シリーズの音楽を手がけてきたすぎやまこういちさんの楽曲を使用している。佐藤さんがリュカ役の声優を担当するほか、有村架純さんがビアンカ、波瑠さんがフローラの声を務め、山田孝之さん、坂口健太郎さん、古田新太さん、吉田鋼太郎さん、井浦新さんらも声優として出演する。

 山崎貴総監督は、「国民的ゲームであり、ユーザーの多いビッグヒット作。ゲームの代表の一つで、誰でも知っている大きな存在」と「ドラクエ」に対する印象を語る。3DCGで劇場版アニメ化する話を聞いたとき、はじめは「ゲームと映画は相性が良くない」と即答で断ったという。「ゲームは体感時間が長くてインタラクティブだけど、映画は一方通行だし尺が限られている。ゲームの映画化でうまくいった試しがないでしょう、と言いました」と打ち明ける。

 加えて、大人気ゲームが原案ゆえのプレッシャーもあった。また、「なによりCG映画はすごく時間がかかる。2~3年は何人かの人生を削らないと作れないんです。果たしてそれでいいのか自問自答しました。そもそも、ゲームの映画化に懐疑的な自分がいて、そこにたくさんの人たちが関わる。そんな中で映画化に舵(かじ)を切っていいのか、悩みました。作らなければならない物量がすごく多い作品なので、スタッフはかなり疲弊します。関わる人たちの数年間を背負うだけの作品を作れるか分からなかったので、怖いな、とも思いました」と葛藤を明かす。

 だが、劇場版アニメの成否をも左右するような、ラストシーンのあるアイデアを「思いついてしまった」と山崎総監督。そこで初めて「映画にする意味」も見えたといい、「同時に、キャラクターの開発を始めました。で、作るならどういう世界観かと試しているうちに、だんだん情が湧いてきてしまい(笑い)、『これならやれるかもしれない、いや、やりたい』となった」と経緯を語る。

 ◇シナリオのためプレーヤーに“取材”も 「戦場ジャーナリストみたい」

 今作では、同時に脚本も担当した。誰もが知る大人気ゲームを劇場版アニメ化するにあたり、「いろんな人たちが『この物語の中にいたことがある』という感覚を思い起こせるものを書きたいな、と思っていました」と山崎総監督。脚本執筆前は、プレーヤーたちの体験や思いを知るために“取材”もしたという。「『ドラクエ』にすごくハマっている、仕事で会った人や友人たちに取材しました。『ドラクエってどこが一番面白かった? どこがショックだった?』と。いろんな人たちが共通して挙げることは、大事にしないといけないと思ったんです」と明かす。

 その結果、いわゆる“ビアンカ・フローラ論争”や、主人公が実は勇者ではなかった、という部分に多くのプレーヤーの驚きがあったと知り、「『やっぱりそこなんだな』と分かって、シナリオを固めていきました。膨大な内容を、ダイジェストではなく映画の尺に収めなければいけないので、取捨選択が難しかったですね。リアルなプレーヤーの体験をどれぐらい入れ込めるかが、すごく大事でした。戦場ジャーナリストみたいですよ(笑い)。いろんな人たちに『あなたは、あの世界の中で何を体験しましたか』と聞き、それをシナリオに落とし込んでいきました」と語る。ちなみに“ビアンカとフローラ”の選択については「どちらも好きになってもらわないと、リュカと同じ苦しみが味わえないので、2人とも好きにさせることが重要なミッションでした」と笑顔で語る。

 製作中は想像通り、苦労が絶えなかった。「情報量が本当に多いんです。衣装は何枚重ねにもなっているし、ロードムービーなのでいろいろな場所に行くから、そのためのアセット(必要な素材データ)を全部作らないといけない」と苦労の一端を明かし「どっちを向いても負荷が多い、という状況で、よくやり切ったなと思います。全方位的に面倒くさいという(笑い)」と振り返る。

 リュカのターバンの巻き方までこだわったという花房監督や八木監督の妥協のなさに、山崎総監督は「彼らに任せておけばすごくよくなる、という思いと、任せておくとチーム自体が崩壊するかもしれない、というバランスの中での戦い」と苦笑する。ただ、「僕が用意するのは、苦労しても『やってよかったね』と思えるものを最終的に提供すること。関わった人たちが『人生が3年削られたけど、必要な3年だったな』と思えるものにしたかったんです」と力を込める。

 ◇声優に“豪華俳優”がそろい踏みしたワケは? 

 録音はせりふを先に収録して、その声に合わせて口の形やキャラクターの表情などを作画するプレスコ方式。声優陣にはリュカ役の佐藤さんをはじめ、有村さん、波瑠さん……と豪華俳優が顔をそろえた。「実写でもできるような方たちを集めたかったんです。プレスコという方式は特殊で、役者さんが作ってくださるものにすごくインスピレーションを受けてキャラクターやアニメーションを作っていくんです。だから、実写で撮ったとしてもちゃんと見られるようなお芝居が欲しいんですよ。プレスコの収録を見ていたことが、のちにCGに影響を与える出発点になるので、そういう意味で役者さんでやりたかったんです」と明かす。

 リュカ役を佐藤さんに演じてもらうことは最初から決めていた。「この役を実写でやるなら誰だろうと考えたとき、最初に浮かんだのが佐藤君でした。それで、佐藤君の声でキャラクターがしゃべったらどんな印象になるか、試しに別の映画から声を移植して入れてみたらめちゃくちゃ合っていたので『俺たちの勘は間違っていなかった』となりました」と語る。にらんだ通り、劇中では佐藤さんが人間味あふれるリュカを好演。山崎総監督も「セルアニメほど情報量を乗せず、リアルな生身のお芝居ほど情報量を制限しない、中間ぐらいのテンションで物語を語るということを、佐藤君はよく分かっている気がしました」と太鼓判を押す。

 長きにわたって人々に愛される「ドラクエ」の魅力とは何だろうか。改めて山崎総監督に聞くと、「人生そのものが入っている、ということじゃないかなと思うんです」との回答。「困難を乗り越えながら、主人公が成長していく。人生をRPGという形にきれいに落とし込んでいる。それを成し得ていることは、すごい」と続ける。山崎総監督が今作で見せたかったのは、まさにそうした主人公の“人生”そのものなのかもしれない。「『人生というのは、素晴らしさとつらさを背負っていくことなんだよ、でもすてきじゃないか』ということをやってみたかったんです。そういう一切合切が今回やりたかったことですね。父親の子供への思いや、主人公が責任を背負って前に進んでいく感じ……そういうものが映画から伝わればいいな、と」と語る。

 ◇3DCGと2Dアニメのすみ分けは? 

 「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」の大きな見どころの一つに、3DCGによるダイナミックで美しい映像が挙げられる。山崎総監督といえば、「STAND BY ME ドラえもん」(2014年)を手がけたVFXの名手。そんな山崎総監督に、今後、3DCGアニメと2Dアニメのすみ分けはどう進むのかを聞いてみると、「3Dアニメーションは実写とアニメーションの中間のような存在」と立ち位置を説明し、「日本はすごく2Dアニメが好きな国。ディズニーはあっという間に2Dをやめて3DCGアニメに全振りしたけど、日本は2Dアニメを愛(め)でている国なのでそう簡単にはとって変わらないと思います」と予想する。

 一方、「3DCGの持つリッチさ、というのはありますよね。質感、色味、カメラワークのゴージャスさ。そのリッチさは、劇場に行く人の背中を押してくれているような気がする。だから劇場用映画の場合は、3DCGの方が優位性があるのかな、とは思います」と3DCGならではの利点も説明。続けて、「ただ、日本は浮世絵の時代から2Dの国。向こう(海外)が一生懸命に立体表現をなんとかしようとしていた時代に『2Dでいいのだ』と(笑い)。日本人って、2Dに対する思いが他の国の人とは全然違う気がするんです。だから、これからどうなるのかは全然分からない」と思いを明かす山崎総監督。最後に「自分の中では3DCGで作る面白さがありますし、また違う挑戦ができたらと思っています。作っていいと言われている限りは、作り続けたいですね」と意欲を語った。

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