M-1グランプリ2024 決勝戦
決勝戦 FIRST ROUND 前半戦 1~5組目
12月22日(日)放送分
放送中のNHK連続ドラマ「これは経費で落ちません!」(総合、金曜午後10時)の主人公の経理女子・森若沙名子や、9月20日に公開される三浦春馬さん主演の映画「アイネクライネナハトムジーク」(今泉力哉監督)でヒロイン・本間紗季を演じている女優の多部未華子さん。2002年に女優デビューして以来、映画、ドラマ、舞台に途切れることなく出演が続き、演技派女優としても評価が高い。そんな多部さんの魅力に迫る。
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多部さんのこれまでのキャリアを見ていると、主役やヒロインを堂々と務める力強さや華やかさがありつつ、非常に幅広い役柄を演じ、作品に奥行きを与えるような助演でも、抜群に光る芝居を見せる。非現実的なキャラクターを怪演するという振れ幅よりは、日常的にいる人物を、破綻なく立体的に表現する、視聴者に共感性の高いキャラクターを演じる女優というイメージだ。
最初に多部さんに対して強い印象を持った作品が、2005年公開の映画「HINOKIO」。本作で多部さんは、不登校になってしまった本郷奏多さん演じるサトルの代わりに登校するロボット「ヒノキオ」のクラスメート・ジュンとして登場する。男の子と間違えてしまうようなボーイッシュな姿は、いまの多部さんを考えると、とても新鮮だが、意地悪だった少女が、徐々にヒノキオと心を通わせて、自身の過去に触れていく後半は、物語を支配するような存在感だった。続けて、2006年に公開された「夜のピクニック」でも、誰にも言えないが、他人から見ればそれほどたいしたことがない秘密を抱えながら葛藤する姿を、みずみずしさいっぱいに披露した。
内に秘める思いを抱える繊細な少女を演じる一方で、2007年に放送されたドラマ「山田太郎ものがたり」(TBS系)では、玉の輿(こし)を夢見る妄想女子を、2008年のドラマ「ヤスコとケンジ」(日本テレビ系)では、三つ編み女子高生ながら、松岡昌宏さん演じる、元暴走族の兄ケンジとバチバチにやり合うヤスコを演じるなど、コメディエンヌとしての素質を見せる。
その後も、2011年放送の「デカワンコ」(同)や、2015年放送の「ドS刑事」(同)で、多少デフォルメされる部分がある人物でありながらも、絶妙なラインでリアリティーを維持し、見ている人が共感するキャラクターを作り上げている。現在放送中の「これは経費で落ちません!」でも、一見、真面目で融通が利かなそうに見えながらも、テンポや間などで“おかしみ”を作り出し、人間味あふれるキャラクターを作り上げている。
さらに2010年公開の映画「君に届け」では、クラスメートから“貞子”と呼ばれる濃いキャラクターだった女の子が、仲間と好きな人ができたことで変わっていくさまは、演じ方によってはあざとさが見えてしまう危険性もあるが、多部さんの表現力により、最後までほほ笑ましく応援したいと思わせるキャラクターに形作られた。
その他、濃厚なキスシーンや大胆なベッドシーンを披露した「ピース オブ ケイク」(2015年)や、小林薫さんとの芝居が心を打つ「深夜食堂」(2015年)、73歳の頑固なおばあちゃんが、突如20歳の自分に若返ってしまったというファンタジックな設定のなか、笑って泣けて共感できるヒロインを好演した「あやしい彼女」(2016年)などの映画、さらには「大奥 〜誕生〔有功・家光篇〕」(2012年)、「わたしに運命の恋なんてありえないって思ってた」(2016年)、「ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~」(2017年)などのドラマなど、多部さんが演じた心に残るキャラクターは枚挙にいとまがない。中でも、元々声色や発声の美しさには定評があった多部さんだが、「あやしい彼女」で披露した「悲しくてやりきれない」を情緒たっぷりに披露する姿と歌声は、彼女のポテンシャルの高さをまざまざと見せつけられた。
なぜ、多部さんが演じるキャラクターに視聴者は感情移入してしまうのだろうか。多部さんの最新作「アイネクライネナハトムジーク」でメガホンをとった今泉監督は、彼女の魅力を「作品を面白いものにしようとする純度が高い」と表現していた。芝居をする中で、自分を良く見せたいとか、可愛く映りたいという意識が一切ないというのだ。独りよがりの芝居をしないからこそ、多部さんの演じるキャラクターは、作品の世界観になじみ、対峙(たいじ)する相手への感受性が強くなることで、見ている側もより共感を覚えるのだろう。
今泉監督は「とにかく相手の芝居を受ける能力が相当高い」と絶賛する。今年1月に30歳を迎えた多部さん。映画「トラさん~僕が猫になったワケ~」のインタビュー時には「これからは、何をしても楽しいのではないかと思っています」と語っていたが、その楽しさが、ますます彼女の芝居に磨きをかけるのではないかと感じられるほど、その魅力は増していっている。(磯部正和/フリーライター)
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