ドラえもん:原点が分かる“0巻”の見どころ シッポが青、ヘリトンボ… 現在との違いも

コミックス「ドラえもん」0巻のカバー
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コミックス「ドラえもん」0巻のカバー

 このほど発売された、藤子・F・不二雄さんの人気マンガ「ドラえもん」の約23年ぶりとなる新刊コミックス「0巻」(小学館)。発売前から予約が殺到し、発売前に2度重版されたことも話題になっている。「ドラえもん」には、6種の第1話が存在し、0巻にはその全てを収録。0巻の編集を担当した同社のドラえもんルームの徳山雅記さんは「6種の第1話で、それぞれにドラえもんとのび太の出会い方が描き分けられている。まとめて読むことで、その違いを楽しめる」と語る。見どころを聞いた。

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 ◇のび太の年齢も描き分けられた6種の第1話

 徳山さんは、0巻を企画した経緯を「『こういうものがあったら絶対に自分も含めてファンはうれしいだろうな』と思って企画した。それは、てんとう虫コミックスと同じ装丁で、1巻の隣に並べられる0巻だった」と話す。

 「ドラえもん」は、1969年12月1日に「よいこ」「幼稚園」「小学一年生」、同3日に「小学二年生」「小学三年生」「小学四年生」(いずれも同社)と、六つの雑誌の1970年1月号で連載がスタートした。当時は、幼児雑誌、学年誌の場合、同じ作品でも読者の年齢によって、内容が描き分けられていたため、「ドラえもん」にも6種の第1話が存在する。当時のそれぞれの第1話に登場するのび太の学年は、その雑誌の読者と同じ学年で描かれている。

 「『よいこ』『幼稚園』の第1話ののび太は幼く、幼児のような頭身です。『よいこ』の第1話では、のび太はセワシに『おとしだまにどらえもんをあげる』と言われますが、『いらないよ そんな へんなの』と反応する。ドラえもんを初めて見た子供らしい素朴な反応です。学年が上がるにつれて、のび太が疑い深くなったり、理屈が出てきたりする。ドラえもんとのび太の出会い方がそれぞれに変えてある。幼児雑誌、学年誌を並べて読む醍醐味(だいごみ)だと思います」

 0巻では、掲載当時のカラーページを再現しているため、ドラえもんの外見にも今とは差がある。

 「皆さんが知っているドラえもんのシッポは赤色だと思いますが、連載当初は赤ではなく青なんです。キャラクターは手探りで完成形に近づいていく。最初は、体の色と同じ青色だったんです。また、0巻の表紙は、『小学二年生』1970年2月号(連載開始号の次号)に掲載されたものなのですが、ドラえもんの足が白ではなく、犬や猫の肉球のようなピンク色をしています」

 さらに、カラーページ中心の「よいこ」「幼稚園」などのほうが入稿時期が早かったため、同時期に掲載された6種の第1話を比べても、キャラクターが固まっていく様子が分かるという。「よいこ」第1話のドラえもんはひみつ道具を出さずにのび太を助けるが、学年が上がるにつれ、ひみつ道具を出すようになっていく。

 ◇タケコプターとヘリトンボ

 てんとう虫コミックス「ドラえもん」1巻には、「小学四年生」版の第1話を藤子・F・不二雄さんが加筆・修正したものが収録されている。そのため、「小学四年生」で実際に掲載された第1話と異なる部分がある。掲載当時の「小学四年生」第1話は、「藤子・F・不二雄大全集」にも掲載されているが、そこにも載っていないコマが、今回の0巻には掲載されている。

 それが、ドラえもんが出したタケコプターを見たのび太が「なんだい、その竹とんぼみたいの。」と言うコマだ。この問いにドラえもんは「ヘリトンボ きみにもつけてやる。」と答える。

 「今は『タケコプター』という名称に統一されていますが、当時は『ヘリトンボ』と『タケコプター』の両方の名称がありました。『小学四年生』第1話ののび太の『竹とんぼ』という言葉に対して、ドラえもんが『ヘリトンボ』と答える流れに非常に意味がある。藤子先生のネーミングセンスのすごさを感じます」

 ◇「ドラえもん」誕生秘話も収録

 0巻には、「小学四年生」の「ドラえもん」連載開始号の前号に掲載された予告ページも掲載されている。予告ページには、ドラえもんの姿もタイトルも描かれておらず、机の引き出しの中から「出た!」という吹き出しが描かれている。

 「これが全ての始まりだったんです」と徳山さん。藤子・F・不二雄さんは、予告ページの締め切りまでにアイデアが思いつかず、「出た!」という吹き出しで主人公の姿を描かずに告知したと言われている。

 その翌月の連載開始までの約1カ月の間に、どのようにして「ドラえもん」が作られたのか。その誕生秘話を藤子・F・不二雄さんが描いたドキュメンタリーマンガ「ドラえもん誕生」も0巻には収録した。6種の第1話、予告ページ、「ドラえもん誕生」を1冊に収録することで「価値のある一冊になる」と徳山さんは考えたという。

 またドラえもんルーム室長の松井聡さんは「6誌で連載する以上は、同じ話ではいけないということで、藤子先生は大変だったと思います」と想像する。

 「しかも、予告で机から出るということを描いてしまったので、そのスタートで6話違う話を作るということを最初に課された。同じような話を学年によって描き分けるということもあり得たでしょうが、藤子先生はそれを潔しとせず、内容もオチも全て違う話にした。それは、藤子先生のプロとして、マンガ家としての矜持(きょうじ)だったのではないでしょうか」

 50年前、「ドラえもん」が誕生した12月1日。くしくもそれは、藤子・F・不二雄さんの誕生日でもある。「ドラえもん」0巻で、原点に触れることで、改めて味わえる感動もあるはずだ。

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