女優の波瑠さんと俳優の成田凌さんが共演した映画「弥生、三月 -君を愛した30年-」(遊川和彦監督、3月20日公開)は、運命に翻弄(ほんろう)されながら30年にわたって相手を思い続けた男女の半生をつづったラブストーリーだ。結城弥生役の波瑠さんと、“サンタ”こと山田太郎を演じた成田さんの主人公を演じた2人に、今作の役作りや初共演の感想、10年後の未来像などについて聞いた。
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映画は、弥生と太郎、そして、杉咲花さん演じる弥生の親友・サクラが通学バスで乗り合わせた3月1日、3月4日の卒業式、3月5日の結婚式というように、“30年間におよぶ3月のある1日”を舞台に描かれていく物語。16歳から50歳までを演じるにあたり、波瑠さんも成田さんも衣装やメークの力を借りて年齢の変化を見せていった。
ただ、そういった「分かりやすく年齢を重ねることを表現することより、弥生という女性が、何年を生きていくとどうなるかということのほうが、私にとっては重要でした」と波瑠さんが語るように、2人が腐心したのは、弥生と太郎の内面をどう表現するかだったという。
映画には出てこない「空白の時間を埋める」ために、「高校のときに亡くしたサクラのことを何度も思い出しただろうなとか、不安なときはきっとサクラの声を聞きたかっただろうなという気持ちを積み上げて、それが年齢に重ねたものとして共有できればいいなと思って演じていました」と波瑠さんが語れば、成田さんも「サンタという人間は、人生に疲れたような、何かをあきらめたような人間です。16歳と50歳で心が大きく変わるような人間はそんなにいないだろうし、いろんなことを経験していくなかで、1本筋がうっすらとでも見えれば、と思いながら演じていました」と役作りを振り返る。
メガホンをとったのは、ドラマ「過保護のカホコ」(2017年)や「同期のサクラ」(2019年)などの脚本家として知られる遊川さんだ。波瑠さんと遊川さんが一緒に仕事をするのは今回が初めてだが面識はあった。遊川さんが脚本を担当したNHK連続テレビ小説「純と愛」(2012年)のオーディションを波瑠さんも受けていたのだ。残念ながら出演はかなわなかったが、そのとき波瑠さんは遊川さんに対して、「私はあまりよく思われていないのだろうなという印象でした」と打ち明ける。それだけに今回のオファーは「すごく不思議に思った」という。
脚本を読むと、「読み応えもあり、とってもすてきなお話でした」と語る波瑠さん。半面、30年という歳月の中には、「震災が描かれていたり、サクラを失う原因が病気だったりします。そういうものが描かれている中で、私に(役を)まっとうできる気がしませんでした」と正直な思いを明かす。
そこで、そういった不安を、「きちんと自分の口からお伝えするつもり」で遊川監督に会いに行ったところ、監督からの熱烈な説得に、「これほどまでに、弥生をあなたという人にやってほしいんだと話してくれる方と仕事をしてみたい」と翻意した。「自分の口で、『分かりました。やらせていただきます』と言ったからには、その責任で、きちんと(役と)向き合うことは、自分の中できっと大きな経験になると思いました。迷っていたのに、やらせていただきます、というふうに終わってしまって、あれ、おかしいなと思いながら帰りました(笑い)」と当時を振り返る。
一方、成田さんは今回の太郎役をオーディションで得た。オーディションを受けたのは、台本を読んでその面白さに魅了されたこともあるが、成田さんいわく「大胆さと敏感さ」という、相反するものを持った太郎に興味を持ったからだ。一人の男性の30年を演じることは、「大変そうだ」と思ったものの、「30年間を演じることは、なかなかない機会なので」と、あえて飛び込み、サンタ役を勝ち取った。
初共演の2人。今回一緒に仕事をして、成田さんが波瑠さんに抱いた印象は、「いい意味での緊張感がありました。波瑠さんが真ん中にいると、物事が巡っていくんです」と、波瑠さんの存在自体に感銘を受けた様子。
成田さんの言葉にじっと耳を傾けていた波瑠さんは、「そんなことはないです。もうちょっとちゃんとできればと思うことはすごくたくさんありました」と自省しながら、「太郎の魅力でもあり、成田さん自身の魅力でもあると思うのですけど、(成田さんは)人の懐に入るのがうまいと思います。それに、まだお若いですから、皆さんに可愛がられるんです。そうやって気に入られて、応援したくなる気持ちになる人を増やせるというのは、とても強いことだと思います。私にはない“強み”です」と成田さんの人懐っこさをうらやましがっていた。
弥生とサンタは、サクラから「大人になっても、ずっと変わらないでいてね」という願いを託される。波瑠さんと成田さんにも「これだけは変わらないでいたい」と思うことを聞いてみた。すると、波瑠さんは「ちゃんと自分の信念に従える人間でありたいと思います」と答えた上で、「例えばその信念というのは、いろんなものに影響を受けて変わっていくと思うんです。でも、自分の中に、そのときある軸みたいなものにうそをつくことはしたくありません。つまらない大人にならないためにも、それを貫けるよう気をつけたいと思います」と言葉を続ける。
隣で聞いていた成田さんは、波瑠さんの答えとの“ギャップ”に恐縮しながら、「父の日に、毎年、ナイキの真っ白のエアフォース1というスニーカーを渡しているんですけど、それを続けたいと思っています。父はもったいないと言って履かないのでたまっていくんですけど、それもいいかなと思っています」と、親孝行の一面を見せていた。
映画では、30年にわたる弥生とサンタの関係がつづられていく。波瑠さんと成田さんの、30年後ならぬ10年後の未来像とは? 現在26歳の成田さんは「分からないです。毎日、本当に何が起きるか分からないので。10年後は36歳。健康でいられればいいです」と気負いのないコメント。
一方、年齢が一回り上の友人が多く、よく一緒に食事をするという28歳の波瑠さんは「皆さん、仕事でも私生活でも、とっても生き生きと楽しそうにしていらっしゃるんです。そういう姿を見ていると、(年齢を重ねることで)いろいろなものに余裕ができたりするというのは、その通りなのかなと思います。ですから、私にとって10年後は、すごく楽しみな未来です。10年たったらそれなりに大人ですから、現場でも私生活でも頼りにされる人になれていればいいなと思います」と真摯(しんし)に語っていた。
(取材・文・写真/りんたいこ)
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