ソーシャルディスタンスドラマ:肝は「役者の技量」 ドラマPが語る“コロナ後”の可能性

「ソーシャルディスタンスドラマ」と銘打った特別ドラマ「世界は3で出来ている」で主演を務める林遣都さん(C)フジテレビ
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「ソーシャルディスタンスドラマ」と銘打った特別ドラマ「世界は3で出来ている」で主演を務める林遣都さん(C)フジテレビ

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、リモートでの撮影や打ち合わせを駆使して制作したドラマが増加してきた。そんな中、6月11日に「ソーシャルディスタンスドラマ」と銘打った、俳優の林遣都さん主演の特別ドラマ「世界は3で出来ている」(フジテレビ系)が放送される。この作品を通して「大きな収穫があった」と語るプロデュース・演出の中江功監督に撮影の工夫のほか、今後のドラマ撮影がどのようになっていくのか、その可能性を聞いた。そこから見えてきたのは……。

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 ◇「カメ止め」、「Living」などリモート作品が増加

 “リモート作品”として話題となったのが、「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督とキャストが再結集して、全編リモートで製作された短編映画「カメラを止めるな!リモート大作戦!」だ。スタッフとキャストが一度も会わずに、ビデオ通話の画面やキャストがスマートフォンで自撮りした映像を編集して制作された。NHKは、打ち合わせやリハーサル、本番収録などで直接会わずに「テレワークドラマ」と銘打って制作した「今だから、新作ドラマ作ってみました」や、「リモートドラマ」と位置づけた「Living」が放送された。

 一方、4月期の連続ドラマは次々と放送を延期。各局、過去に放送された人気作を特別編として放送し、出演者がリモートで収録した映像を冒頭に入れ込むなどし、視聴者を楽しませる工夫を取った。そんな中、テレビ朝日は、「警視庁・捜査一課長2020」で出演者がリモート撮影で芝居を披露するミニドラマ「テレワーク捜査会議」を挟んで放送し、「家政夫のミタゾノ」では、リモートで制作された「家政夫のミタゾノ 特別編~今だから、新作つくらせて頂きました~」を放送。ステイホームによる特別サービスで一日分のおかずを届けに行ったミタゾノが事件に巻き込まれるという今のご時世を反映した内容ながら緊迫感のある展開で、SNSでは“神回”の声も上がるなど好評だった。

 各局のバラエティー番組でも、リモートを駆使した制作がなされている。6月19日に放送されるトーク番組「さんまのまんま 35周年SP」(カンテレ・フジテレビ系)では、MCとゲストの間に巨大な透明のパネルを立てて収録を行うなど、ドラマやバラエティーを問わず、制作側が試行錯誤でチャレンジをしているのが現状だ。

 ◇SDDは林遣都が一人三役 せりふの掛け合いに苦労

 そんな中、制作されたのが「ひとつ屋根の下」「若者のすべて」「Dr.コトー診療所」など、フジテレビの名作を手がけてきた中江監督の手による「世界は3で出来ている」だ。唯一の出演者・林さんが一人三役に初挑戦して一卵性三つ子の望月勇人、勇人の兄の泰斗、弟の三雄を演じる。脚本はNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「スカーレット」などの水橋文美江さんが担当。会社を辞めたいと思っていた“落ちこぼれサラリーマン”の勇人は、ある日、緊急事態宣言が発令され、仕事環境が一変。宣言解除後、泰斗と三雄が勇人の元にやってくる……というストーリーだ。

 今作の特徴は、リモートによる撮影ではなく、“密”を避けて社会的距離を取った中で撮影をするという様式が取られた。撮影は3日間。東京・湾岸スタジオで行われた。中江監督は撮影について「3密を避けて安全な形での撮影を徹底しました。スタジオの真ん中に一軒のセットを建てて、林さんとカメラマンがスタジオの中に入り、ほかのスタッフは外でバラバラに待機するという形です。林さんとカメラマンは距離をしっかりと取って、スタジオの扉は開放して空気の循環をしました」と説明する。

 苦労したのは、出演者が一人なので「芝居の合わせ方をどうするか」ということだった。せりふの応酬といった“掛け合い”ができないため、事前に録音した林さんのせりふをスピーカーで流して、林さんが演技を合わせたり「せりふが先行するようなシーンは編集で」工夫を凝らした。

 ◇SDDの魅力は役者の技量を堪能

 さまざまな方法を模索しながらの制作となった今作だが、中江監督は「一度きりの企画のつもりだったけれど面白かった! シリーズ化したいぐらい(笑い)」と手応えを感じたという。その理由には「制作する側からすると、一人の役者でいろいろなキャラクターを見られるのは本当にうれしいこと。芝居の技量をじっくりと見ることができました。そして林さんの力をまざまざと見せつけられました」と、大きな収穫があったと明かす。

 林さんは、中江監督がメガホンを取った特別ドラマ「教場」(フジテレビ)でクラスの落ちこぼれ、平田和道を演じ、クラスメートを道連れにして自殺を図ろうとするシーンでは鬼気迫る演技で視聴者を圧倒した。中江監督は「もっと見たいと期待感が生まれた」と、その林さんの演技に魅了されたという。

 実は、撮影前に林さんが一人で三役を演じるために、メガネやひげを付けたり、ヘアスタイルを変えたりするという構想もあったというが、林さんと話して「外見でなく、中身でやってみよう」ということになった。中江監督は「キャラクターに特別な癖も付けていません。でも明らかに微妙に違う。最後は3人の人物がいるようにしか見えません。まさに“林遣都ワールド”」と胸を張る。

 最後に、ずばり「今回のようなソーシャルディスタンスを用いた撮影方法は、連続ドラマに増えてくるか」と聞くと、中江監督は「この状況が続けば増やさざるをえない」とコメント。「以前のように普通に撮影したドラマが見られるのが一番良いと思いますが、この方法ならそれに近い状況を作ることができる可能性があると思いました。まだ改善の余地はありますが」と言葉に力を込めていた。

 コロナ禍で「リモートドラマ」「テレワークドラマ」「ソーシャルディスタンスドラマ」といった新たな撮影方法で制作された作品が増える中、「役者の技量」が楽しめる作品が誕生するのは、視聴者にとっても楽しみなところだ。さらに、今回のように一人が複数の役を演じる場合は、一本の作品の中で俳優のさまざまな面を同時に見られることから、複数の面を見比べてこそ浮き彫りになる新たな魅力も生まれるのではないだろうか。まずは、今回の“林遣都ワールド”をじっくりと堪能してみたい。「世界は3で出来ている」は6月11日午後11時から放送。

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