ディズニー&ピクサーの最新劇場版アニメーション「2分の1の魔法」(ダン・スキャンロン監督)が、絶賛上映中だ。内気で自分に自信がない少年・イアンと陽気で好奇心旺盛な兄・バーリーが、“亡くなったお父さんに会いたい”という願いをかなえるため、魔法で足だけ復活した父を完全によみがえらせる冒険の旅に出る……という本作。意外に思えるかもしれないが、実は“魔法”を主軸に据えたピクサー作品は少なく、本作は異例ともいえる。本作のストーリー・アーティストのルイーズ・スマイスさん、スーパーバイザーとして、ストーリー制作に携わったケルシー・マンさんに、魔法の誕生秘話を聞いた。
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ピクサー作品といえば、「メリダとおそろしの森」などはあるものの、人気シリーズとなっている「トイ・ストーリー」や「ファインディング・ニモ」「カーズ」など、魔法とは縁遠く、現実社会にあるものをモチーフとした作品が多い。「2分の1の魔法」の舞台は、“魔法が消えかけた”世界。リアル志向のピクサーであるため現実的な町並みが描かれているが、そんな中にファンタジー要素たっぷりの魔法が登場するのが、本作の特徴だ。
魔法を作るためのリサーチとして、「ピーターパン」「ファンタジア」「アラジン」といった魔法が登場するディズニー作品を鑑賞したところ、魔法がそれぞれの作品コンセプトに沿った形で登場することに気がついた。そこでスマイスさんが考えたことは、「2分の1の魔法」の世界観に合う、「自分たちならではの魔法を作りたいと考え、そのためにはまず、独自のルールを作り出す必要がありました」と振り返った。
スマイスさんは「魔法を考えるにあたっては、感情、言葉、物体、動きという要素も考慮する必要があります。中でも、動きを考えるのはとても楽しい経験になりました」と振り返る。シャイな主人公・イアンが魔法を唱えるときにとるポーズは、イアンが自身の殻を破るのに役立ち、感情の要素はキャラクターに変化を与えたり、兄のバーリーとの関係を描いたりする上でも使えたという。
また、魔法を唱える呪文がどのような言葉であるのかを決める必要もあった。スキャンロン監督からは「どんな呪文を考えてくれてもいいよ。ただし、短くないとダメ。それに、聞いた時にそれが何を意味するのか想像できないとダメだ。あとは、あまりバカバカしく聞こえないこと」というオーダーがあったという。そこで、ピクサーのどの部署に所属する人でも参加できるグループを作り、呪文を作っていた。
グループでは呪文に使えそうな単語をボードに並べて組み合わせ、アイデアを出すという作業を行い、時には「自分たちの考えた呪文を言い、ダンに、それがどんな魔法なのかを当ててもらうことにしました」という。そこで出てきたアイデアを、イアン役のトム・ホランドさんに実際に発声してもらい、語感のいいものを絞っていったという。
魔法という、いわば“万能の手段”を取り入れるにあたって、検討を重ね、独自のルールを作るところから始めたというのもピクサーらしいエピソードだが、そもそもどうして魔法を取り入れようと思ったのか。そこには、一つの必然があった。
スキャンロン監督自身が1歳のころに父親を亡くした経験からインスピレーションを受け、制作がスタートしたという今作。マンさんに、ピクサーが魔法を描く意味を聞くと、「この映画に魔法が出てくるのには、大きな理由がある。これはダン(・スキャンロン監督)の話。彼は亡くなったお父さんのことを思った。彼はまだ赤ちゃんでお父さんにしっかり会えなかった。それで、お父さんと一日だけでも一緒に過ごせたらいいのにと思った。それができるとしたら、何なのか? 魔法だ」と強調。
続けて「つまり、僕らの映画で、魔法は内面の感情から来ているんだよ。必要があるからこそ、魔法はこの映画に出てくるのさ。それに劇中でイアンは感情がこもらないと魔法は使えない。この映画で魔法を使うためには、呪文があり、物があり、さらに感情がなければいけないんだ。心がこもっていないと使えないというのは見たことがないよね? ピクサーにおけるこの映画の魔法はそこが独特なんだよ」と、本作で描かれた魔法について語っていた。
亡父との再会を描くという目的から取り入れることが決まった魔法。しかしただ単純に“万能の手段”として取り入れるのではなく、丁寧に設定を作り込み、そこに気持ちという制限を取り入れたことで、物語に大きな彩りが加わった。魔法がもたらした感動のストーリーをぜひ楽しんでほしい。
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