やくならマグカップも:アニメで多治見活性化 採算度外視で続けて10年 地元企業「続けることが大事」

「やくならマグカップも」のビジュアル(C)プラネット・日本アニメーション/やくならマグカップも製作委員会
1 / 1
「やくならマグカップも」のビジュアル(C)プラネット・日本アニメーション/やくならマグカップも製作委員会

 岐阜県多治見市が舞台で、伝統工芸品・美濃焼がテーマのマンガが原作のテレビアニメ「やくならマグカップも(やくも)」が、4月からCBC、TOKYO MX、MBS、BS11、AT-Xで放送される。「やくも」は、2010年に多治見市の有志や企業が集まり、プロジェクトが始動。2012年から地元IT企業のプラネットがフリーコミックを発行している。多治見の活性化を目指し、約10年も続ける中で、ついにテレビアニメが放送されることになった。プラネットの小池和人会長は「赤字でも続けることが大事だと思っていました。続けないと地域活性化はできない。気付いたら10年です」と振り返る。小池会長に「やくも」、多治見への思いを聞いた。

あなたにオススメ

 ◇多治見に新しい物語を

 「やくも」は、脱サラした父親と幼い頃に亡くなった母の故郷・多治見市に引っ越してきた豊川姫乃が、母が伝説の陶芸家であったことを知り、陶芸の世界に引き込まれていく……というストーリー。小池会長は、1995年に多治見市でプラネットを設立。「多治見の活性化」を目指して「やくも」を企画した。

 「多治見は昔、栄えていたこともありましたが、衰退していきました。プラネットを設立した頃、たまたま(東京ディズニーランドの日本誘致の立役者の)堀貞一郎さんと出会い、多治見に物語を作ってほしいとお願いしたことがあります。ディズニーランドとは、街づくりでもあり、街づくりには物語があります。多治見に新しい物語を作ろうとしたんです。物語を作れば、100年後には、それが昔話になります。『多治見ものがたり』という本を作りました。その後、堀さんの孫から連絡があったんです。『これからはマンガですよ』という話でした。そこから『やくも』が始まりました」

 小池会長はそれまでマンガやアニメに特別詳しかったわけではない。そこで、マンガ、アニメファンに話を聞いて、「やくも」を作ることにした。

 「東京でマンガ、アニメファンを集めたんです。その時の一人が、東京から多治見に引っ越してくれて、今も一緒に『やくも』を作ってくれています。多治見と言えば陶芸ですし、観光の中に体験があった方が面白い。陶芸をする4人の女の子の物語を作りました。フリーコミックを3カ月に1冊発行して、全国のアニメショップなどに広めてきました」

 ◇民が続けるからこそ、行政が動いてくれる

 「多治見のために」という思いがあり「赤字でも続けることが大事だと思っていました。続けないと地域活性化はできない。気付いたら10年です」と採算度外視でフリーコミックを発行し続けてきた。アニメ化も考えていたが「いつかアニメに……とは思っていましたが、全くアプローチしていませんでした。弊社はIT企業で、グラフィックにも強い。自分でスタジオを作ろうかな?とも考えていました」と積極的に動いていたわけではない。

 そんな中、「ちびまる子ちゃん」や「世界名作劇場」シリーズなどで知られる日本アニメーションからアニメ化の相談があった。

 「こちらからアプローチをしたわけではないので、連絡があった時は驚きました。だって、日本アニメーションさんですよ。最初は詐欺かな?と(笑い)。日本アニメーションさんに多治見出身の『やくも』のファンがいて、地元の作品をアニメに!と企画を出していただけたんです」

 約10年にわたってまいてきた種が花を咲かせた。「続けることが大事」という考えは間違っていなかった。

 「弊社はアップルのソフトウェアを開発しているのですが、会社を作った1995年は、アップルにスティーブ・ジョブズが帰ってくる前で、アップルはもう危ない……とも言われていた時期でした。でも、10年スパンで考えないと、成果は出ないと思っていました。やっぱり続けることが大事なんですよね。地域活性化は行政に頼りがちですが、民が続けるからこそ、行政が動いてくれる」

 「夢を諦めずによかった」と笑顔を見せる小池会長。しかし「まだまだこれから」とも話す。

 「ここがゴールではなく、ここからスタートです。アニメは世界に誇る日本の文化です。期待しています。コロナが落ち着いて、世界中の方々が多治見に来てくれるとうれしいですね。さらにこの先、10年以上愛されるコンテンツになれば」

 多治見の「やくも」から世界の「やくも」に。小池会長がまいた種は、やがて大樹となるはず。そして、100年後には“昔話”として語り続けられることに期待したい。

アニメ 最新記事