10月から第2クールがスタートした人気アニメ「SPY×FAMILY」(テレビ東京系)。「世界卓球2022」の影響で、8日に放送された第14話の放送時間が前倒しになったことから、SNSなどで録画に失敗してしまった視聴者の声が相次ぎ、急きょ再放送する事態となった。一度は放送され、見逃し配信や配信サービスもある中、どうしてここまでの騒動になったのか。アニメコラムニストの小新井涼さんが分析する。
ウナギノボリ
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今期、第2クールの放送が開始され、ますます好評の「SPY×FAMILY」。しかしその人気の高さもあってか、今月放送された第14話がスポーツ放送の影響で放送時間変更となった際には、多くの人がリアタイ視聴や録画に失敗したことでフォローを求める声が挙がり、結果的に再放送が行われる運びとなりました。
当該放送回は、放送後も無料の見逃し配信が行われていましたし、それでなくとも本作は多くの動画配信サービスで定額見放題となっています。それにも関わらず、どうしてこれほど大きな騒動となったのでしょうか。
そもそも、スポーツ放送等によるアニメの放送時間変更は昔からよくあったことで、最近の録画機器には、そうした事態に対応できるものも多くなっています。ではどうして今回に限って、多くの人が録画を失敗し、リアタイ視聴を逃してしまったのかというと、その時間変更の内容がかなり特殊であったことが原因でした。その日放送されていた「世界卓球2022中国」の放送延長を受け、一度通常の放送開始時刻から変更が生じたかと思いきや、直前になってまた別の時刻からの放送が決定するという、結果的に2度にわたっての放送時間変更が行われたのです。
これには多くの録画機器も対応できなかったようで、SNSでは一時「録画失敗」がトレンド入りするほどでした。また、実際の放送が一度変更された時間からの“繰り上げ”でもあったため、いったん最初の変更時間を信じてリアタイ視聴に挑んだ人たちがチャンネルを変えるころには放送も終盤間近、という状態で、視聴や録画に失敗した多くの人から、再放送を求める声が挙がったのです。
確かに、その日については、当初から時間変更の可能性があるとの告知がされており、実際の放送時刻が決定した際には公式からのアナウンスも行われました。加えて前述の通り、当該放送回については無料で視聴できる見逃し配信も行われていましたし、今でも多くの動画配信サービスで定額見放題となっています。
しかし、誰もが公式からの発信を放送直前まで逐一チェックできるとは限らず、配信サービスを利用していない人もいるはずです。それに、たとえ視聴自体は配信で代用できたとしても、全話録画しようとしていた人にとっては、レコーダーにその話数だけが欠けた録画データが残ることにもなってしまいます。こうしたこともあって、番組を楽しみにしていた多くの人達からは遺憾の声が挙がったのでしょうし、それに対して、再放送というフォローまで行われたのでしょう。
今回の出来事は、すっかり動画配信サービスが定着した中でも、未だ“最初の視聴方法”として、テレビ放送の視聴や録画が重宝されていることがよく分かるものでもありました。
いくら定着したとはいえ、アニメ視聴において配信サービスは“そこで作品人気が生まれる”というより、後から知った話題作の放送に追い付くために“後追い”をしたり、“布教”に役立てたりと、あくまでテレビ放送との相互補完的な面もあります。そのため、既に1クール目で人気に火がついていた本作については、ことさら第2クール開始の時点で、配信サービスではなく、テレビ放送のリアタイ視聴や録画を、最初の視聴方法として選ぶ層も少なくなかったのでしょう。
加えて今回、人々の声に対して再放送というフォローがなされたことからは、昨今のテレビ放送におけるアニメの存在感が、より大きくなっていることもうかがえます。
そこにはもちろん、“アニメのテレ東”ともいわれ、従来からアニメの放送や製作にも力を入れているテレビ東京だったことや、これだけ大きな声があがるほど、本作の人気高いといった理由もあるでしょう。しかし、曲がりなりにも一度放送されたにもかかわらず、反響を受けてすぐに再放送を検討し、他の番組もある中で次のエピソードの放送前に再放送が実施されたことは、長年さまざまな理由でアニメの放送時間が変更されてきた中でもかなり珍しい対応でした。
その意味で今回の騒動は、配信サービスが定着し、さまざまなアニメブームを経た中で、“アニメにおけるテレビ放送の存在意義”と、“テレビ放送におけるアニメの存在意義”を同時に再確認させられた出来事だったと思います。
こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。
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