主人公の“逃避劇”を描いた映画「そして僕は途方に暮れる」(三浦大輔監督)が2023年1月13日に公開される。2018年に上演された舞台を映像化したロードムービーで、舞台に続いて主演を務めたのが人気グループ「Kis-My-Ft2(キスマイフットツー)」の藤ヶ谷太輔さんだ。藤ヶ谷さんは今作の撮影で心身共に追い込まれ、「自分のキャパを知った」と振り返る。今回の体験を通して、自身が活動する上で大事にしたいことにも気がついたという。藤ヶ谷さんにとっての挑戦の日々に迫った。
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主人公は、ばつが悪くなるたびに逃げ出してしまうフリーターの菅原裕一。特にやりたいことや目標もなく、自堕落な日々を過ごす中、ほんのささいなことをきっかけに恋人、親友、家族とあらゆる人間関係を断ち切っていく。
映画の撮影が行われたのは2021年。舞台で演出を務めた三浦大輔さんがメガホンをとり、藤ヶ谷さんは3年の時を経て再び裕一を演じることになった。「映画化の話をいただいたときは、またあの裕一をできるんだと喜びましたが、それは一瞬でしたね。舞台があまりにもしんどかったので、その三浦組で映像に挑むとなったら……自ら死に向かっていくような覚悟をしなければ、という気持ちになりました」と打ち明ける。
完成作を見たときには、逃げれば逃げるほど、やつれて疲弊していく裕一の姿を実感。「役作りで計算して出したというよりは、三浦組をやったら自然と出てしまったみたいな感じでした」と話し、「こういったジャンルの映画に出演するのは初めてですし、皆さんがどう受け取ってくださるのか、すごく楽しみです。絶対に見てほしいですね」と力を込めた。
「裕一の感覚を取り戻すため、初日の最初のシーンはとにかく回数を重ねました」と振り返る藤ヶ谷さん。「三浦さんは、舞台上で一番いいところを映像でつないでいくというか。だから全然OKも出ませんでした」と苦労を語る。
「やっぱり芝居の新鮮度とか、人間の集中力というものはあって、プロとして前よりもいいものを求められているのは分かるんですけど……」と葛藤も抱え、「役は逃げ回る割に、現場では一切逃げられず、裕一いいなって何度思ったことか(笑い)。車で休憩しますって言って、そのまま運転してどこかへ行ってしまおうかと考えたこともあったくらい。つらくて逃げたいというよりは、もう耐えられなくなりそうで」と率直に明かした。
そんな中、“逃げてしまえる”裕一には、ある種の憧れもあったという。
「きっとみんな、『逃げたい』と思う瞬間はあるはずなんです。でも、もし逃げたら……といろいろ考えるじゃないですか。僕の場合は、現場から逃げたら事務所に連絡が入って、最終的に事務所にいられなくなってしまうかもしれない、とか。メンバーにどう説明すればいいのか、改心して戻るにしても、どんな表情、言葉で何を伝えればいいのか……そんなふうに考えると、怖くて逃げられない。それでも裕一は、逃げたいと思ったら逃げる。みんなができないことをできるかっこよさがありますよね」
今作で感じた苦しさは、撮影後まで続くことになった。藤ヶ谷さんは「以前は、作品が終わると打ち上げがあって、そこで役から解放されていたような気がしていて。でも、今回はコロナ禍だったので打ち上げもなく、スケジュール的にもリフレッシュする期間がないまま、ライブのリハーサルに移りました」と話す。
当時は「心が動かなくなっていた」といい、「もっとコミュニケーションが取れるはずなのに、人が好きなはずなのにと思うことが、終わってから半年間くらいはありました。自分ってこんな人だったっけ、冷たかったっけみたいな。でも、なぜそうなっているのかも分からなくて」と吐露する。
そんな状況で迎えたライブの本番について、藤ヶ谷さんはこう振り返る。
「ファンの皆さんにはご迷惑をおかけしたと思います。ちゃんとできない状態なのにステージに立ってしまった。すぐに作品が発表されれば、もしかしたら納得してもらえたのかもしれませんが、撮影してから発表までも長く、ずっと言えずにいたこともあったし、本来であれば支障が出ないことが一番なので、心からおわびしたいです」
さらに、活動していく上での輪郭もより明確になった。
「グループ活動ができないならソロ活動はするな、というのが答えだと思うんですよ。この映画を経て、僕は自分のキャパシティーを知ったので、グループ活動に支障が出るほどのソロ活動はしないと決めました」
その上で「余裕がないとそうなってしまうから、僕は常に心の中に余白と遊び心を持っていないとダメなんだって。だから、自分のことを見つめ直す期間にもなったと思います。限界値もそうですし、芝居への集中力が時間や回数でいったらどれくらいなのか、とか。できなくなってしまったことも含めて、それだけ役に向き合えたとプラスに捉えて、いろいろな気づきになったとポジティブに考えています」と語った藤ヶ谷さん。苦しみを乗り越えた先にあったその姿はとてもすがすがしく、力強かった。
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