超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、ダウンロードソフトの販売が終了したニンテンドー3DSとWiiUについて語ってもらいます。
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既報の通り、ニンテンドー3DSシリーズとWiiUの「ニンテンドーeショップ」における販売が3月28日に終了した。買い逃したダウンロード版ソフトや、追加ダウンロードコンテンツなどがないか、久しぶりにゲーム機を起動したユーザーも多かったのではないだろうか。そこで今回は両ゲーム機についての振り返りを行いたい。キーワードは「社会との関係性」だ。
まずニンテンドー3DSシリーズから振り返ろう。3DSは2011年に発売され、全世界で7549万台を売り上げた携帯ゲーム機だ。数字だけを見ると大ヒットだが、前機種にあたるニンテンドーDSシリーズが1億5402万台を販売しており、約半分にすぎない。理由の一つにスマートフォンの台頭と、基本プレー無料のアイテム課金モデルの広がりが上げられるだろう。
同じく2012年に発売されたWiiUも、全世界で1356万台の販売に留まった。前機種のWiiが1億163万台を販売したのと対称的だ。大型のタッチスクリーンつきモニターを搭載した専用コントローラーと、Wiiリモコンを継続して使用できる点が特徴だったが、低迷にあえいだ。カジュアルユーザーがスマホゲームに流れる中、多くのゲーマーは伝統的なゲーム体験を求めていたのだ。
ここからいえるのは「ゲーム機の売り上げは専用ソフトの完成度もさることながら、社会との関係性の中で決まる」ということだ。マリオやポケモンといった強力なIPを持ち、世界最高水準のゲーム開発力を持つ任天堂も、この点は例外ではなかった。そのためには、ゲームを日常生活の中でどのように位置づけるかが重要になる。
逆に言えばWiiやNintendo Switchのヒットは、「母親に嫌われないゲーム機」「家でも戸外でも場所を選ばずに遊べるゲーム機」というコンセプトが、正鵠(せいこく)を得ていたからだ。見た瞬間にユーザーの潜在的な欲求を掘り起こす要素、マーケティング用語でいう「インサイト」をしっかりと反映した商品になっていたからこそ、世界中でヒットしたのだと考えられる。
それでは任天堂は今後、ゲームを生活の中でどのように位置づけていくべきだろうか。現在、同社ではゲームソフト開発に加えて映画・テーマパーク・ショップ展開などを進め、IPとのタッチポイントを増やす戦略を進めている。しかし、同社の強みであるハード・ソフト一体型の商品開発を進めるためには、さらなるインサイトの探究が必要だろう。
この点で2015年に急逝した故・岩田聡氏は大きな宿題を残している。それが健康領域の新事業だ。2014年の経営方針説明会で発表され、2016年には定款の事業目的に「医療機器および健康機器の開発、製造および販売」を追加している。もっとも、その後の任天堂の動きは「睡眠と疲労の見える化」をテーマを計測機器を開発中と報道されただけに留まっている。
その一方で、血圧や心拍数が計れるスマートウォッチをはじめ、健康器具の市場は拡大中だ。こうしたIoTデバイスとAIを組み合わせ、プレーヤーの生態情報をゲームの展開に応用する研究が、全世界で進められている。他に高血圧症治療で医師と患者を支援するアプリが日本でも薬事承認を取得するなど、ゲームと医療の融合に対する期待感は高い。
ゲームは健康でなければ楽しめない。健康で楽しい生活を送ることは、人間の究極的な願いの一つだ。そこにゲームおよびゲームの開発技術が貢献できる時代が、次第に近づきつつある。もっとも、これは5年、10年という期間で実現できるような話ではない。いわば人類の究極のニーズ充足にむけて、研究開発が進むことを期待したい。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。
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