超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、小野さんの「ゲーム批評」時代の思い出を語ってもらいます。
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筆者が新卒で配属され、創刊から携わったゲーム雑誌には、「広告を取らない」という特徴があった。実際は書籍コードで出版されたため、雑誌風の体裁をしていても、広告を掲載できなかったのだが、それを全面に押し出して、辛口の批評を掲載したのだ。そのため毎号、取り上げるゲームを購入する必要があったが、まれにメーカーからサンプル品が送られてくることがあった。そうしたゲームはたいてい、担当者の熱意があふれていて、面白いことが多かった。
プレイステーションで1995年に発売された「ジャンピングフラッシュ! アロハ男爵ファンキー大作戦の巻」(SCE)も、その一つだ。本作は超高度までジャンプできる「ロビット」を操作し、3Dのステージを自由に飛び回りつつ、ゴールをめざすアクションシューティング。それまでの3Dゲームは、ドライブゲームやフライトシミュレーターをはじめ、水平に移動するものが一般的だったが、本作は「上下に移動する」3Dゲームだった。ジャンプ中、強制的にカメラを下側に向かされて、落下時の恐怖感を煽る演出も特徴的で、「高所恐怖症にはつらいゲーム」とまで言われたが斬新で魅力的な作品だった。
デバッグ用の特別なゲーム機を携えて、メーカーの宣伝担当者が発売前のゲームのデモに訪れたこともあった。小売店からの発注に満足できず、編集部を直接回ってアピールしているのだという。この一件を良く覚えているのは、そのメーカーとは創刊号の記事内容を巡って、半ば絶縁状態が続いていたからだ。その会社はカプコン、持ち込まれたゲームを初代「バイオハザード」という。巻頭特集で推したところ、「ゲームを「批判」していない」と驚かれた。ヒット作の影にはこうした人々の熱意があった。
「Little Lovers SHE SO GAME」(NTT出版)も印象的なゲームだ。6人のヒロインから1人を選び、3年間の高校生活で恋人になることが目的の恋愛ゲームで、イベントシーンが合計で約30時間、作画枚数が1万枚を超える「大作」だった。後に「428~封鎖された渋谷で~」などを手がけるイシイジロウ氏が企画・総監督を務めており、編集部に本人から電話がかかってきた。「ぜひ遊んでみてほしい。どう評価されてもいい」と、喫茶店で熱弁されたのを覚えている。当時すでに新作ゲームが市場にあふれており、電話がなければ気づかない一作だった。
今やゲームの多くがデジタル流通される時代になり、ゲームメディアやジャーナリストへのサンプル提供もメールでダウンロード用のプロモーションコードが送られてくるようになった、その一方で、こうした気骨のある業界人に出会う機会が減っているようにも感じられる。そうした人々に育ててもらい、恩義を感じている筆者としては、一抹の寂しさを感じてしまうのだ。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。
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