ダンダダン
第7話「優しい世界へ」
11月14日(木)放送分
声優の鈴村健一さんが総合プロデューサーを務める豪華声優・俳優陣による即興劇「AD-LIVE(アドリブ)」。その名の通り、大まかな世界観とステージ上で起こるいくつかの出来事が決められている以外は、キャラクター設定もせりふも全てアドリブという舞台で、2008年のスタートから今年で15周年を迎える。鈴村さんは15周年への思いを「声優はすごく即興劇に向いている」「だからこそ、ここまでやれてきたのではないか」と語る。「AD-LIVE」への思いや今後の“野望”、8月26日にスタートする「AD-LIVE 2023」の見どころを聞いた。
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「AD-LIVE」は、2008年にインターネットテレビ番組「鈴村健一の超人タイツ ジャイアント」で制作したドラマCDの発売記念イベントで即興劇を企画したことをきっかけにスタートした。即興劇には大きな反響があり、2011、12年にもスピンオフイベントを開催。2014年についに「AD-LIVE」と名を改めて鈴村さんが総合プロデューサーを務めることになった。鈴村さんは、2014年が「大きな転機になった」と話す。
「元々は、ウェブ番組を盛り上げていくためにイベントを開催していたのですが、それを番組のためだけではなく、独立したコンテンツにしたいという野望をずっと抱いていました。2018年に番組は終わってしまったのですが、『AD-LIVE』だけでやれるようにシフトして、今の形になっていったので、夢はかなってきたのかなと感じています。毎回一生懸命やっているうちに15年たってしまった感じはしますが、最初から続ける気満々でした(笑い)」
「AD-LIVE」は、毎回人気声優、俳優陣が出演し、巧みなアドリブで予測不可能なストーリーが展開するのが大きな魅力の一つだ。「AD-LIVE 2023」では、新木宏典さん、武内駿輔さん、内田雄馬さんが初参戦するほか、下野紘さん、鳥海浩輔さん、津田健次郎さん、森久保祥太郎さん、蒼井翔太さん、浅沼晋太郎さん、岡本信彦さん、小野賢章さん、梶裕貴さん、木村良平さん、陳内将さん、福山潤さんという豪華キャストが顔をそろえる。
鈴村さんは「声優に即興劇は向いている」と考えているという。
「声優はあらゆるエンターテイナーの中でも非常にマルチだと思うんです。僕が声優業界にいて誇りに思っていることです。ラジオ番組、アニメ、外画、テレビ番組、演劇にも出演していて、歌も歌っていて、そんなタレントはそうそういないと思うんですよね。でも、声優業界にはそんな人がゴロゴロいる。声優は本当にエンターテイナーで、だからこそ即興劇は向いていると思っているんです」
中でも、即興劇に必要なスキルが「ラジオスキル」だと説明する。
「お芝居は、『起きた出来事に対してどうリアクションしていくか?』ということに重きを置いていると思います。声優の仕事は『せりふをどう言うか?』に焦点が当たりがちですが、プロとして活躍している人はその先にある『今、こんなことが起きたから、この言葉が出た』という“リアクション”をずっとやり続けているんです。そこで大事なのが『何を出すか』ではなく『相手の話をよく聞くこと』。ラジオは相手の話を聞きますし、メールを読んで感じたことを言葉にするので、リアクションの連続です。ラジオが得意な人は、やはり即興劇に向いていて、そんな人が声優業界には多いんです。だからこそ『AD-LIVE』はここまでやれてきたのかなと感じています」
「AD-LIVE」は、一般募集した「アドリブワード」と言われるキーワードが書かれた紙が重要なアイテムとして登場するのも特徴だ。出演者は、アドリブワードが書かれた紙が入ったバッグ(アドリブバッグ)を持ち、ステージに上がる。随時、好きなタイミングで取り出せるが、引いたものは必ず使用しなくてはいけない。アドリブワードには、鈴村さんのさまざまな思いが込められている。
「即興劇には、キーワードが書かれた紙を床に置いて、それを出演者が拾いながら、設定やせりふに取り入れていくペーパーズというスタイルがあるのですが、それを過去見に行った時にめちゃくちゃ面白かったんです。引いた紙を全て演技に変えなければいけないので、役者のパワーがすごく必要なんです。その推進力のようなものにとても興味をひかれたので、『AD-LIVE』にも取り入れようと。また、『AD-LIVE』に出演していただく役者さんはすごく巧みなので、アドリブワードがないと、するっと物語が終わってしまうんです。だから、強制的にアクシデントが起きる仕組みとして、時にはその場をスムーズにしてくれる潤滑油にもなる装置としてアドリブワードを取り入れています」
アドリブワードを通して「お客さんが介入できる」ことが最も重要とも考えている。
「僕は、お客さんが放った何かがステージ上にも影響を与えるということが、エンタメにとってとても大事だと思っていて、ただ見るだけではなく、インタラクティブなものにしたいと考えています。そのためには、アドリブワードが必須なんです。自分で書いた言葉が観劇している舞台のせりふになるって、すごくすてきなことだと思うんですよね。きっとめちゃくちゃうれしいだろうなと。僕は、ラジオがすごく好きで、たまに自分でもお便りを投稿するのですが、読まれるとやっぱり死ぬほどうれしいですよね。あれが何度も訪れる可能性があるのが、アドリブワード。『AD-LIVE』にとって、とても大きい要素の一つ、根幹なのではないでしょうか」
「AD-LIVE」の今年のテーマは「運命のやりなおし」。過去に一度チャレンジしようとした「人生の分岐」というテーマが、今回のテーマを決めるきっかけになったという。
「『人生の分岐』は、過去に検証してみたのですが、あまりうまくいかず、別のテーマになった年があったんです。ただ、心のどこかに即興劇で“人生を分岐させる”ということをやるべきだという思いがあって、今回の『運命のやりなおし』につながりました」
今回は、出演者がより運命に翻弄(ほんろう)される仕組みにしようと、運要素も取り入れた。
「今年の公演は、出演者同士がお互いのことを探りながら物語が進んでいきます。出演者の皆さんには『即興劇は否定より肯定のほうがより面白い』ということを共通認識として伝えていて、例えば『あなたは僕のお父さん』と言われたら『そう、俺はお前の親父だ』と返したほうが面白い。そんなふうに、お互いに乗り合いっこになって、その場でどんどん構築していくので、非常に即興劇らしい、原点に近い『AD-LIVE』になると思います」
15周年を迎えた「AD-LIVE」。鈴村さんに今後について聞くと、ある“野望”を語ってくれた。
「『AD-LIVE』の仕組みは、実は何にでも応用できるというか。現在は、年に1回、声優がメインで出演する公演が『AD-LIVE』ですが、野望としては、このコンテンツをみんなが好きに使ってほしいんです。演劇界の『AD-LIVE』があってもいいですし、規模も関係なく、小さい小屋で毎日公演している『AD-LIVE』があってもいいですよね。僕は今、総合プロデューサーとして、脚本や構成など骨子に当たる部分をほとんど担っているんですけど、それさえも皆さんに自由にやってもらって、『AD-LIVE』という枠に皆さんが好きなものを入れられるような、そういう存在になっていったら面白いなと考えています。そうなれば、もっと『AD-LIVE』は大きくなるし、本当の意味で総合プロデューサーになれるかなという気がしていますね」
鈴村さんは、「AD-LIVE」は子供たちだけでもできるような、幅広い可能性を秘めていると感じているという。
「僕は、自分のワークショップでも『AD-LIVE』をやるんですけど、誰がやってもすごく面白いんですよ。クオリティーを求めれば、どこまでも難易度は上げられるんですけど、まず触れるだけであれば誰でもできる。将来、誰でも参加できる『AD-LIVE』のワークショップをやってみたいですね。『一度、演劇の入り口に触れてみませんか?』と」
鈴村さんのエンターテインメントへの思いが込められた「AD-LIVE」。声優・俳優陣が作り上げる予測不可能なドラマを堪能したい。
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