09年のカンヌ国際映画祭<ある視点部門>審査員特別賞を受賞した「あの夏の子供たち」が恵比寿ガーデンシネマ(東京都渋谷区)ほか全国で順次公開中だ。働き盛りの男性の自殺と、父親を失った家族の再生の日々を見つめ、強さと美しさが感じられる作品だ。ミア・ハンセン・ラブ監督は、まだ20代という若さの、フランス映画界の期待の星だ。このほど来日したハンセン・ラブ監督に話を聞いた。(上村恭子/毎日新聞デジタル)
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−−この作品を撮ることになったきっかけは?
私にとって“映画の父”的な存在だった映画プロデューサーのアンベール・バルザンの自殺です。人間味あふれる人物で、私はまるで養女のように親しくしてもらった。バルザンの一家が映画のモデルになりました。
−−映画業界の裏側を赤裸々に描いていました。不況によって小さな会社が衰退していくという意味でも興味深く見られました。
映画業界の表の世界をそのまま描くものはこれまでもありましたが、裏側をそのまま語り出すというものはなかったかもしれせん。私は特に楽屋の部分、裏側で頑張る人たちを語りたかったのです。
−−働き盛りのグレゴワールが製作の資金繰りに奔走する姿は頼もしく、リアルです。と同時に、父親としての優しい面、家族と過ごす時間も丁寧に描かれています。
私は形式的なドラマを作りたくはなかった。プロデューサーの仕事は資金繰りと闘うことです。一方で、娘たちと父親の世界は、官能的に繊細に描き出したいと思いました。父親の大きさを娘たちに伝えたかった。
−−娘役の3人の女の子たちがかわいくて癒やされます。どうやって演出したのですか?
過去にも子どもと一緒に仕事をしましたが、子どもはさらなる可能性の扉を開いてくれます。子役にはせりふを覚えてもらうのではなく、アドリブで会話をしてもらって調整していきました。そのために、長時間カメラを回し続けましたが(笑い)、これには価値があったと思っています。
−−見ていて簡単に想像がつかない独特の展開でした。
この映画には、「時間」「死」「家族」「人のきずな」……普遍的なテーマがちりばめられています。私の父と母は哲学の教授で、一個人が考える自由というものを尊重してくれ、私は自分の道を自分で見つける努力をしてきました。映画にもそれが出ているのかと思います。
−−父親との思い出が夏という季節の中に描かれているからこそ、不況と自殺という厳しい現実を描きながらも、透明感のあるとても美しい作品に仕上がっています。
夏は私の好きな季節です。これまでの作品もすべて「夏」でした。フランスの評論家に「東洋的な作品だ」ともいわれました。悲劇的なテーマでいながら、あからさまな表現ではないためでしょう。ヨーロッパ映画で悲劇を描くとき、とってつけたような表現を余儀なくされますが、私はそういった表現が好きではないのです。私は控えめな表現が好きなのです。父親は自殺してしまっても永遠の存在。存在してないのだけど存在している。父親の存在を、光を通じて表現したつもりです。そこが、作品の透明感につながったのかもしれません。
<プロフィル>
1981年パリ生まれ。オリビエ・アサイヤス監督作で女優デビュー後、国立高等演劇学校で学び、映画誌「カイエ・デュ・シネマ」で批評活動を行う。短編映画を監督後、初の長編作が独立系の映画製作者アンベール・バルザンの死によって、別会社に渡った経験を生かして、本作を監督した。09年、オリビエ・アサイヤス監督の娘を出産。
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