辻仁成:「子どものことを思い出さない日はない」 アントニオ猪木主演映画「ACACIA」

インタビューに応じた辻仁成監督
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インタビューに応じた辻仁成監督

 元プロレスラーのアントニオ猪木さん(67)主演の映画「ACACIA(アカシア)」が12日、公開される。同作を手がけた辻仁成監督(50)に作品への思いについて話を聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 「ACACIA」は、息子に十分な愛情を注げなかったことを後悔しながら生きる初老の元覆面プロレスラー・大魔神(猪木さん)が、母親に置き去りにされ、誰にも心を許さない少年・タクロウ(林凌雅さん)と出会う。一緒に暮らしはじめた大魔神とタクロウは、それぞれが本当の家族と再会し、過去の痛みを乗り越えていく……という物語。

 辻監督は同作品について自らの離婚がきっかけだったことを明かし「いつも会ってあげることのできない子どものことは後悔している」と語り「その子のことを思い出さない日はない」と言葉を選びながらゆっくりと話した。さらに「たぶん世の中に僕だけじゃなくて、そういう人たちがたくさんいると思うんです。そういう人たちの子どもは何も関係なく社会の中で生きていかなきゃいけない。親がいない子たちに向けて、作家として何か書こうって決めた」と続けた。

 なぜ今回、映画という手段をとったのかというと「小説だと読まない人たちもいる。映画はエンタテインメントの芸術だから、多くの人の心に残る。フィルムは1回焼き付ければ、見続けることができる」と話し、「同じような思いをしているお父さん、お母さんのために作品にしなきゃいけないと思った」と心境を語った。

 また辻監督は現在の家庭にも触れ、「今の子どもにはまだ話してないけれども、いつか、『お兄ちゃんがいるんだ』って気がつく瞬間があると思う。そのときにこの映画を見たら、彼なりに考えると思う」と語り、「自ら逃げられない断罪の一つだったと思う」と話している。

 猪木さんの起用については早い段階から決まっていたといい「猪木さんのためにプロレスラーに話を変えたし、プロレスのシーンを入れた」という。当初、タクロウは紙袋をかぶり、社会を遮断しているという設定だったが、猪木さんがキャスティングされたことによってプロレスラーのマスクをかぶることに変更。辻監督は「プロレスというある種エンタテインメントだけど、ショービジネスの混ざった虚構っぽい世界を真実に結びつけられないか」と考えたという。

 「人間は記憶を失うことが一番の苦しみだと思う」という辻監督は、「記憶があると過去のことを思い出してそのことで苦しむこともある。でも、その記憶のおかげで死ぬ間際に幸せだったなって思うこともできると思うんです」と語り、「そういう記憶を抱えた老人・大魔神と、今は記憶さえ持っていない少年・タクロウの出会いは未来と過去が出会って、そこで一つの世界を作っている。青少年のための映画っていうより、むしろ大人がもうちょっと深いところを見てもらって、感じてもらえたらいいな」と作品に込めたメッセージを語った。

<プロフィル>                       つじ・じんせい。59年10月4日生まれ。85年にロックバンド「ECHOES」のボーカルとしてデビュー。その後、89年に処女小説「ピアニシモ」ですばる文学賞、97年に小説「海峡の光」で芥川賞を受賞、99年に小説「白仏」の仏訳版がフランスの文学賞フェミナ賞の外国小説賞を受賞するなど作家として活躍。映画監督としては、99年に初監督し、脚本、音楽も手がけた「千年旅人」などがあり、「ACACIA」は6作目。現在はロックバンド「ZAMZA」のボーカルとしても活動している。

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