冲方丁:直木賞落選1時間後に語った心境 異例の発表待ち公開の意図は?

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インタビューに応じた冲方丁さん

 毎年2回、賞の行方が世間の注目を集める直木賞。第143回直木賞の発表が15日あり、悲喜こもごもが展開された。作家の冲方丁(うぶかた・とう)さんもその中の一人。09年11月に刊行し、第31回吉川英治文学新人賞、10年の本屋大賞を受賞した「天地明察」(角川書店)が直木賞の候補作に選ばれていた。冲方さんは同賞の結果発表を待つ間、パーティー「大・待ち会」を東京都内で開き、報道陣やお世話になった人々にその様子を公開した。異例の公開“待ち会”には報道陣約50人とファンら関係者約80人が集まり、賞の行方を見守ったが落選。選に漏れた直後「くやしいー!」と声を上げた冲方さんに、結果連絡から約1時間後、その心境を聞いた。(毎日新聞デジタル)

 −−大勢の報道陣に取り囲まれて結果を待って、嫌な気分にならなかった?

 自分一人や編集の方だけだと、“知っている自分”しか出てこなかったと思うんです。「悔しい」と思うことはないと思ってた。ノミネート自体が本当に自分の成果だったので、かなり満足していると自分では思っていましたが、マスコミの方にいらっしゃっていただいて、(受賞という)いいものを提供できなかったという悔しさがすごく強くありますね。

 −−結果ではなく、よい結果を伝えられなかったことが残念?

 そこから始まり、もっといい小説を書かなきゃダメだっていう悔しさにもなり、もっと万人に認めてもらえるような……。今回お世話になった方々をしっかり感動させられるような本を書きたいなと。会の意図としては、これまでお世話になった方にお礼をしたいという気持ちが強かったんです。ここまで導いてくださったことへの感謝。そして今日、また来ていただいたことへの感謝をしなきゃいけないなと思います。その感謝の気持ちが悔しさにつながっていくということですね。

 −−受賞を逃したこと自体については。

 正直、さすがに(受賞は)ないんじゃないかなと。今までずっとノミネートされてる方もいらっしゃるし、ほかの作品を拝見しても素晴らしい作品ばかりですから。昨日、受賞か否かの連絡の後のあいさつ文を考えようとしたんですけど、どうしても思いつかなくて。想像できない。受賞するしないというよりも、連絡を受けた後の自分が想像できなかったんです。それほど未知の世界を見せてくださったんだなと。直木賞という文芸賞の大きさ、それがすごいなと思いました。

 −−“待ち会”に大勢の人を招いたことはよかったか。

 はい。みなさんを均等に楽しませる創意工夫は、まだまだだなと反省点はありますけど。ただ、みなさんと一緒にこの瞬間を味わえたのは僕にとっていちばんの財産ですね。これからたくさんつらいことがあると思いますけど、この記憶は自分を支えてくれるだろうと思います。創作において、執筆においていちばんつらいときに「これだけの方が来てくださったんだから、頑張らなきゃダメだ」っていう、自分にとっていちばんのムチになります。

 −−“待ち会”に来たみなさんの反応は。

 「お疲れさま」っていう感じでした(笑い)。「マゾだねー!」って言われました(笑い)。「追いつめられてからが勝負だと思っているあなたらしい」と言われたり、「いっしょにいられたことがうれしい」っておっしゃってくださったり。文芸業界のことを知っているようで知らない(マンガ、アニメなどの)業界の方々も「小説家っていうものがどんなふうに苦しんで、どんなふうに賞に臨むのかっていうのを知ることができた」っておっしゃってくださいました。

 −−“待ち会”を振り返ってどうですか。

 スポーツ選手は、負けたときにテレビに映りますが、だからといって彼らをおとしめるかっていうと、そうではない。(それと同じように)逃げないでそこに立っていたということを見せるべき。これだけネットを通していろんなものが身近になると、見せない理由付け、自分たちを隠す理由付けって後ろ向きなものばかりになってしまうんです。そうすると読者の方々もなんとなく後ろ向きな気持ちで見るようになる。それは本当に嫌だなと。(今日は)落選を覚悟でみなさんの前に立ったんです。ノミネートは6作品で、該当者なしの場合もある。そうすると単純な確率が10%そこそこなんですよ。10回やって1回ですから(笑い)。負ける確率の方が高いんです。それでもちゃんと姿を見せて、作品や作家を応援してくれる方に対して「ありがとうございます」ということをお伝えしたかった。少人数で(結果を)待っていたら、「受からないよ」って思って下手をすると落ちても悔しがらなかったんじゃないかな。みなさんと一緒にいられたからこそ、今日この場で成長させていただいた感じですね。悔しがれるところまで運んでいただいた。自分でも悔しいと思う自分にびっくりなんです(笑い)。

 −−冲方さんの作品の読者へメッセージを。

 今回はノミネートが最大の成果でしたが、こうして待ち会を催したことで、悔しくなれる自分を獲得することができました。読者の方の応援がなければ本当にここまでたどり着くことはできなかったことは、間違いありません。本当に感謝をしています。作品で応えます。

 <プロフィル>

 77年生まれ。96年に「黒い季節」(角川書店)で第1回角川スニーカー大賞金賞を受賞し小説家デビュー。ゲーム「シェンムー」(97年)やマンガ「ピルグリム・イェーガー」(01年)の原作、テレビアニメ「蒼穹のファフナー」(03年)の脚本など幅広い活躍で知られ、03年にはライトノベル「マルドゥック・スクランブル」(ハヤカワ文庫)で第24回日本SF大賞を受賞した。「天地明察」は、江戸時代、囲碁棋士の名門に生まれ、初代天文方となった渋川春海の若き日、和算に打ち込み、時の老中・酒井雅楽頭に見込まれ、日本初の独自の暦となる「大和暦」を作り上げていく姿を成長物語として描いた冲方さん初の時代小説。

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