パリ映画祭:邦画110作品以上を一挙上映 シャーロット・ランプリングら審査員女優が日本映画を語る

パリ映画祭会長を務めたシャーロット・ランプリングさん=TV5MONDE提供(C)Pierre-Antoine Schipman
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パリ映画祭会長を務めたシャーロット・ランプリングさん=TV5MONDE提供(C)Pierre-Antoine Schipman

 13日に仏パリ市内で閉幕した「第8回パリ映画祭」では、日本特集が組まれ、劇場版アニメや短編を含む邦画計110作品以上が一挙に上映され、約6万人の観客を集めた。映画祭会長を務めた、女優のシャーロット・ランプリングさんをはじめ、フランス国内外で活躍する審査員の女優3人が日本映画について、フランス国際放送TV5MONDEの取材に応じた。

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 ◇シャーロット・ランプリング「日本映画の豊かさを発見」

 シャーロット・ランプリング:イギリス出身。「地獄に堕ちた勇者ども」(ルキノ・ヴィスコンティ監督・69年)、「スターダスト・メモリー」(ウディ・アレン監督・80年)、「まぼろし」(フランソワ・オゾン監督・00年)など、各国の映画で活躍。86年に大島渚監督「マックス、モン・アムール」に出演。

 −−日本映画について。

 今回パリ映画祭で上映された日本映画は、フランスで我々が見る機会のなかったものが多く、フランスで未公開の作品や今後も見る機会がない作品等があり、良かったと思います。有名な監督の作品は、フランスでも常に見る事ができますし、よく知られていますが、今回良かったのは、日本の現代の作品です。特に(フランス)未公開作品で、今回は日本映画の豊かさを発見できました。

 −−日本とのかかわりは。

 私は何度も日本へ行ったことがありますし、大島渚監督の「マックス、モン・アムール」という映画に出演し、作品は大変な成功をおさめました。ユニークな作品で、一般の方にも大変人気がありました。私はこの映画を通して、フランスとは違う日本という国を発見できました。映画とは、お互いの違いを共有する方法でもあります。

 ◇エルザ・セドナウィ「素朴で慎み深い中に、日本の偉大さが見える」

 エルザ・セドナウィ:イタリア出身。モデル、女優としてヨーロッパを中心に活動。「バス・パラディアム」(クリストファー・トンプソン監督・10年)で、、六本木ヒルズ(東京都港区)で行われた2010年フランス映画祭に参加。

 −−日本とのかかわり、日本映画について。

 私は日本が大好きで、年に2~3回は日本へ行きます。12歳の時から日本に行っています。私が特に好きなのは、伝統と現代が交ざっているところ。その二つが融合して共存している、人間関係にもいえると思います。日本人は、感情を表に出しませんが、同時に、大変詩的な表現をすることがあり、それに感動させられます。例えば愛について語る時です。私が今回日本に行った時、通訳がついていて訳してくれていたのですが、使われる言葉が、愛や、ノスタルジーなど多くの言葉が印象的でした。ノスタルジーは日本語でもこのように言いますが、愛についての描写の仕方に驚き感動しました。映画祭が1カ月くらい続いてくれれば、北野や黒澤作品をはじめ、いろいろな作品を見てみたいですね。日本映画は、日本の文化を映し出しています。素朴で慎み深い中にも、日本と日本人の偉大さが見えます。

 −−矢崎仁司監督「スイートリトルライズ」を見て、日本的な男女関係について。

 とても感動しました。この話が日本の今の状況を描いているのか定かではありませんけど、愛そのものは普遍的なもので、それが文化や場所によって変わってくると思います。私は22歳で、まだ若いので、日本でいう愛とは何なのかを見つけてみようと思いました。過去の日本の伝統的な恋愛と現代のものとは違うとは思います。この映画に、何か、私は厳かで、深く、重大なものがあると感じました。また、とても詩的でしたね。

 フランスでは、何でも話し合うし、すべてを言い合うのですが、一般的に皆そうだともいえません。私の場合はとても情熱的です。日本の場合は、ほかと違って、大変繊細だと感じていて、その繊細さに感動させられるのです。映画を見て観察していると、大変興味深いです。例えば、日本では、カップル間でさえ、ある種の規則があると思うのです。結婚したら、男には立場があり、男はこうでなくてはならない。女は家でこうしなければならない、というような。私にはとてもできないけれど、こういう部分もとても魅力的に感じます。

 この映画のカップルはセックスレスですが、私は、彼らは愛し合っていると思います。2人にとって複雑ですが、情熱的に愛し合いたいけれど、それは2人ともできなくて……私がこの映画をいいと思ったのは、主人公の女性が、一つの人格ではなく多様な面を持っていることです。登場人物において大切なのは、彼らはさまざまな面を持っていて、優しいだけや意地悪なだけではない。だから、女性は、情熱を求めているのだけれど、夫婦関係で夫とはそうなれない。彼もそうですね。彼女は魅力的だし、夫の世話をするけれど、彼が求めていることは必ずしもそうではなく、彼も情熱を求めている。愛とは複雑なものです。

 ◇ヴァレリー・ドンゼッリ「大阪は地中海の街のようでセクシー」

 ヴァレリー・ドンゼッリ:フランス出身。女優。日本で公開されている出演作品「マルタ…、マルタ」(サンドリーヌ・ヴェイセ監督・01年)、「待つ女」(ジャン=パスカル・アトゥ監督・06年)、自身が監督兼出演した「彼女は愛を我慢できない」(09年)は日本でDVD発売予定。

 −−日本とのかかわり、日本の印象について。

 これまで日本には2度行きました。東京と大阪に行きましたが、大変好きです。長い滞在ではなかったのであまりわかりませんが、とにかく美しい国だと思うし、東京は大好きです。素晴らしい街です。高層建築、ネオンとか巨大な都市かと思えば、すごく静かなところもあります。騒音も無く、静かで、他人に敬意を払い、秩序があり、とても安心できて、そこがすてきだと思いました。フランスとは全く違います。フランスは、南も北も、すべてが入り交じっています。大阪は、面白いと思いました。地中海の街のような感じで、全然地中海ではないのですが、よりセクシーだと感じました。人々は大きな声で話し、駆け引きして……より夏を過ごす場所の感じですね。東京と大阪の違いが、本当に面白かったです。美しいし、食べ物もおいしいし、日本人は本当に魅力的です。

 −−石井裕也監督「川の底からこんにちは」、矢崎仁司監督「スイートリトルライズ」を見て。

 今回の映画祭で「川の底からこんにちは」と、「スイートリトルライズ」を見ました。「川の底から……」は特殊な映画ですね。リズムが面白いと思いました。ストーリーはゆっくり進んでいく展開で、ちょっと無味乾燥な部分もあって……よくわからない部分もありましたが、こういう映画を見るのも興味深いです。

 「スイートリトルライズ」は、監督の視点の問題だと思いますが、この話の語り方は、ちょっと度を過ぎているというか…… 話自体は面白いと思いましたが、その展開や、演出、主人公の女性がぬいぐるみを作って日中過ごしていることなど、見ている途中、私は苦痛になりました。しとやかな女性で、決断することができないでいると感じます。でも映画の終わりは美しく、2人とも愛や情熱とは何かを考えており、興味深かったです。両方の作品とも、東京の街があまり出てこなかったのは残念でした。東京で撮影をするのは高額なのかしら? 両作品とも、屋内の場面が多く、もっと東京の街を見たかったです。

   *……TV5MONDEは、203の国と地域でフランスとフランス語圏の番組を放送する唯一のフランス語国際公共総合チャンネル。日本では、09年12月から1日10時間の日本語字幕付き放送を開始した。TV5MONDEのサイト(http://www.tv5monde.com/japon)パリ映画祭特設ページでは、会場の様子、監督や俳優インタビュー動画など映画祭の情報を掲載しているほか、一般公募で選ばれた日本人リポーターによるUSTREAM、Twitter、ブログ、ウェブサイトなどを活用した複合的なマルチメディアリポートを行った。(毎日新聞デジタル)

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