窪塚洋介:映画「東京島」インタビュー アブナくも面白い男の役 本能の強さが結末につながる

映画「東京島」にワタナベ役で出演した窪塚洋介さん
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映画「東京島」にワタナベ役で出演した窪塚洋介さん

 桐野夏生さんによるベストセラー小説「東京島」が映画化され、28日に封切られる。夫とのヨット旅行の最中に暴風雨に遭い、孤島に流れ着いた清子。そのあとに漂着した日本人青年16人と中国からの密航者6人が、互いの腹の中を探り合いながら、島からの脱出を試みるサバイバル映画だ。映画で主人公の清子(木村多江さん)と並んで強烈な個性を発揮する、彼女とは犬猿の仲で周囲の男たちからは異端児扱いされるワタナベを演じた窪塚洋介さんに話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 −−原作のワタナベは、性格が悪く、髪の毛の生え際も後退した貧相な男。そんな役をオファーされて、正直なところどう思いました?

 ムカつきました(笑い)。ただ、ワタナベというアブナくも面白い男の役を振ってくれた、その要望に応えたいという思いもありました。でも、どっちの思いが先に来るかと考えると、“チッ”という方が先かもしれません(笑い)。

 −−最初の台本では、ワタナベはそれほど個性的には描かれていなかったとか。

 (原作の)ワタナベのワの字くらいライトにしか描かれていませんでした。話全体も結構ライトだったので、監督とプロデューサーとの最初の打ち合わせのときに、「あまり面白くない」と正直な気持ちを言わせてもらいました。そのうえで、おれがやるんだったらこういうことをやりたいと、原作に書かれてあることを提案したら、懐深く受け止めてくれて。次に会ったときに見せられた台本には、おれの意見が反映されていました。その気持ちに心打たれましたし、そういう感情をなしにしても、これ(この台本)ならやりたいと思ったので、オファーを受けました。

 −−苦労したシーンは。

 おれがというより、チームで苦労したのは、(中国人と清子を乗せた)いかだのシーン。船(いかだ)が揺れないようにするのが結構大変で、みんなでああだこうだ言いながらやっていた記憶があります。

 −−印象深いシーンは。

 一つ一つに意味があるんで、どのシーンも結構印象に残っていますが、強いて挙げるなら、「何にもないけど、何でもあるよ……」という、おれがひらめいた歌を使ってもらえたのはうれしかったですね。リハーサル前にふと思い浮かんで、リハーサルで歌ってみたら監督がすごく気に入ってくれて……。

 −−あの歌は場面にとてもなじんでいました。言葉が通じないにもかかわらず、ワタナベが中国人と会話する場面も不思議と違和感なく受け入れられました。

 面白いですよね、ああいうやりとり。以前、スペイン人と台湾の人と日本人で、言葉が全員バラバラなんだけど意思の疎通ができるという台湾の映画をやったことがあるんですけど、未来はそうなるんでしょうね。テクノロジーが進化して、同時通訳の機械を耳に入れて、そのままの言語で疎通できるようになる、みたいな。あ、今回は機械はなしで、テレパシーというか、本能的なものでの会話ですけどね。

 −−清子とワタナベは、原作では憎みあっていますが、映画では恋愛関係に見えます。

 少なくともワタナベは(清子に)引かれていますよね。監督から、「(2人の関係は)鏡映しなんだよ」と言われて、それをどう演技に落とし込んでいけばいいのかと考えたときに、例えて言うなら、風呂に足を突っ込んでそれを引き抜いても、熱いのか冷たいのかわからないときってあるじゃないですか。あの最初の刺激に、清子とワタナベのインパクトというか、キャラクターとしての強さが似ているんですよ。本当は全然違う人物なんだけど、その刺激が似ているというか。おれの勝手な解釈ですけど、意志とはまた別の、生きようとする本能みたいなものが、そのまま(2人の)思いの強さみたいなものになっているというか……。

 −−生きたいという本能が強いところが、2人の類似点だと?

 ちょっと引きで見ちゃうとうまく説明できないんですけど、ワタナベだけで言えば、楽しもうとか、生き抜こうとかしてないんですよ。彼は、(島から)抜けたいと思ってるんですけど、半面、島の生活を既に楽しんじゃってるから、他の人たちみたいに感情的にはピンチに陥っていない。むしろ逆に満たされているところがある。清子は、(男たちに)捨てられたり、痛い目に遭ったりしながら、ブレながらも自分の芯みたいなものをつかんでいくんだけど、ワタナベの場合は、ブレているとかブレていないとかを考えるヤツでもないから、自分がそこで楽しいように暮らす。その(思いの)力が強かったことが、ああいう結末につながったんじゃないかなと思います。

 −−撮影は、鹿児島県の沖永良部島と徳之島で約2カ月にわたって行われました。島での生活で開眼したことは?

 単純に、自然のリズムがいいなあと思いましたね。東京で暮らしていると、そういうことって知らぬ間に忘れていくじゃないですか。夜景が奇麗だなと意識しないと気付かない、みたいな。そういう意味では、自然を感じて生活するということは大事なことですよね。

 −−その中でどのような役作りを?

 例えば、他のキャストと会わないようにするとか、体を日に焼くとか。寂しくはなかったですよ、マネジャーもいましたし。実は、撮影の合間に、音楽のPV(プロモーションビデオ)を撮っていたんです。それに、潮が高くなってきたなとか、明日、雨が降るなとか、そういうふうに自然が近く感じられるのが、心地よかったですしね。

 −−もしかして野生児ですか?

 シティーボーイのはずなんですけどね(笑い)。オヤジが結構、自然好きで、よくキャンプに連れて行ってくれたので、その影響かな。

 −−最後に、メッセージをお願いします。

 誰が島から出られ、誰が出られず、出られた人はなぜ出られたのか。そのあたりを考えながら見てもらいたいですね。そうすれば、より深く楽しんでもらえると思います。

 <プロフィル>

 1979年、神奈川県出身。95年、ドラマ「金田一少年の事件簿」で俳優デビュー。00年、ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」で注目され、翌年の映画「GO」で日本アカデミー賞新人賞、最優秀主演男優賞をダブル受賞。その他、主な作品として「ピンポン」(02年)、「魔界転生」(03年)、「同じ月を見ている」(05年)、「ICHI」(08年)、「パンドラの匣」(09年)などがある。また、06年から卍LINE(マンジライン)名義で音楽活動も行っており、これまで2枚のアルバムをリリースしている。映画待機作に、阪本順治監督の「行きずりの街」(11月20日公開)がある。初めてはまったポップカルチャーは、マンガ「キン肉マン」。「幼稚園から小学校低学年ぐらいまでの物心がつくころ、(コミックスの)カバーをはずした状態で集めていた記憶があります」(窪塚さん)。

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