キミとボク:窪田崇監督・原作のやまがらしげとさんに聞く 「小さな命との別れの悲しみを丁寧に描いた」

原作者のやまがらしげとさん(左)と窪田崇監督
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原作者のやまがらしげとさん(左)と窪田崇監督

 14日から公開中の映画「キミとボク」。中村蒼さん演じるマンガ家を目指す青年と子ネコとの心温まる作品について窪田崇監督と原作のやまがらしげとさんに製作時のエピソードや見どころなどを聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 「キミとボク」は、クリエーターとして活躍するやまがらしげとさんが実体験を基に制作したウェブ上のフラッシュアニメが原作。マンガ家を目指す青年「キミ」とネコの「ボク」との心の交流や出会いと別れを描き、01年にウェブ上で公開されて人気を集めた。発表から10年がたった今でも累計500万ページビューと根強い人気を誇る。09年1月には書籍化もされ、販売部数は2万部を突破した。映画では主演の青年「キミ」を中村さんが、ネコ・銀王号(「ボク」)の声と主題歌を声優の坂本真綾さんが担当している。

 実写化の企画が立ち上がったのは09年の早春。鈴木淳一プロデューサーとやまがらさんが企画を立て、その後、窪田監督が参加した。やまがらさんは実写化の話を聞いた段階ではあまりピンとこなかったというが、「自分の作品から新しい作品が生まれるということ」と考え、企画を進めていったという。やまがらさんは「今まで支えてくれた(原作のウェブアニメの)ファンを裏切ることはできない」という思いがあったので打ち合わせを密に重ね、脚本は最終的に第8稿まで版を重ねた。脚本・演出で特に注意を払ったのは「ネコの扱い」だったという。実際にネコを飼っている人が映画を見て「うそっぽい」と冷めてしまわないように、注意深くチェックしていった。そして10年10月から撮影が始まった。

 窪田監督は「本作はネコが感情を持っているという設定なので、感情表現をネコに求めるのは大変だと思ったが、原作を読んでいい話だったので『ぜひやらせてください』と言いました」と映画のオファー時の心境を語ったが、撮影に入っても苦労したのはネコの撮影だったという。本当に感情を持っているかのようなネコ(銀王号)の細やかな演技が見どころだが、撮影に入る前、ネコの飼い主に2週間くらいかけてしつけをしてもらったという。また、ネコが物をじっと見るシーンはネコが興味のあるおもちゃなどを目線の先にぶら下げて目を追わせたりした。そんな苦労をして撮り上げた作品だが、2人が一押しのシーンは「ラストカットです」と口をそろえた。

 坂本さんが吹き込むネコの「声」も本作の重要な柱だ。ネコの銀王号(「ボク」)に坂本さんをキャスティングした理由を窪田監督は「(役者さんとは違って)声優さんは動物の役や宇宙人など人間ではない役をやっているので、(演技の)振り幅が大きい。声優さんなら銀王号の声を腑(ふ)に落ちるところまで落としてくれるんじゃないか」ということで声優をキャスティングすることになり、「それなら坂本さんで」と決まったという。収録中、飼っていたネコを思い出して泣いていたというやまがらさんは、坂本さんの声を聞いて「『これだ!』と思った」と話した。

 これから映画を見る人に向けて、窪田監督は「小さな命との別れの悲しみを原作は丁寧に描いていて、僕たちも丁寧に作りました。(東日本大震災を受けて)映画を見ていただいた人には映画にあったような別れや悲しみが実際に何万もあるんだということに思いを寄せてほしい」と話し、やまがらさんは「『また歩き出す』ということ。すぐには歩き出せないかもしれないが、いい思い出はたくさんあってそんな思い出を裏切ることはできない。そういうもののために一歩、歩き出すことから勇気が生まれると思う」とメッセージを送り、原作のファンに向けて「映画の本編とエンディングの二つの新しい『キミとボク』を楽しめると思うのでぜひ“劇場で”見てください(笑い)」とアピールした。

 <プロフィル>

 くぼた・たかし 1977年5月5日生まれ。広島県出身。01年、フジテレビの深夜番組が実施した若手映像作家発掘プロジェクトに選ばれショートフィルムを発表し若干23歳でディレクターとしてデビュー。その後、映画、PV、ドラマなど幅広く活躍。 08年、初長編映画「イエスタデイズ」が全国で公開された。このほかに手がけた映画に「ハミングライフ」(06年)、「BADBOYS」(10年)などがある。

 やまがら・しげと 1965年3月30日生まれ。宮崎県出身。クリエイター・デザイン会社URS代表。イラストからデザイン、動画、ウェブ制作、本の執筆、俳優・声優学校の講師など多くの肩書を持つ。01年、実体験を基にしたフラッシュアニメ「キミとボク」を公開し、「感動系の始祖」と称される。2度にわたる書籍化をへて、この度、実写映画化された。映画では原作以外にイラストレーション、グラフィックデザイン、エンディングアニメーションなども手がける。

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