注目映画紹介:「光のほうへ」 兄弟のそれぞれの立場から語られる再生の物語

「光のほうへ」の一場面
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「光のほうへ」の一場面

 98年の映画「セレブレーション」でカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したデンマーク出身のトマス・ビンターベア監督の最新作「光のほうへ」が、公開されている。心に深い傷を残したまま大人になったニック(ヤコブ・セーダーグレンさん)とその弟(ペーター・プラウボーさん)が、母親の死をきっかけに久しぶりに再会し、再生に向けて進もうとする姿を、兄と弟それぞれの立場から描いていく。

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 ニックらは幼いころ、突然死で弟を亡くし、それを自分たちのせいだと思い込んでいる。悲しい過去や踏み違えた道など、映画は終始、見る者に寒々とした印象を与える。原題の「SUBMARINO」とは、水の中に無理やり沈められる拷問の名前だといい、拷問を受け、光を求めてもがく人間が、ニックたち兄弟の姿と重なる。今年のデンマーク・アカデミー賞で最多14部門にノミネートされ、弟役のプラウボーさんが助演男優賞を獲得するなど5部門に輝いた。

 ビンターベア監督は「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(00年)などで知られるラース・フォン・トリアー監督らが提唱し、カメラは必ず手持ちで背景にある以外の音楽は使ってはならないといった規定を設けた映画撮影手法の運動「ドグマ95」の創設メンバー。ビンターベア監督の日本における劇場公開作は、「セレブレーション」や「DEAR WENDY ディア・ウェンディ」(05年)と多くはなく、いずれも個性の強い、大衆受けする作品ではなかった。それらに比べると今作は、登場人物が市井の人間であるせいか共感しやすく、また兄と弟、それぞれの立場からストーリーを語る構成に好奇心をかきたてられる点で大衆寄りの作品となっている。シネスイッチ銀座(東京都中央区)ほか全国で順次公開。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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