ジョン・カーター:製作のジム・モリスさんに聞く CG映画だが「リアリティーを出すことに腐心」

映画「ジョン・カーター」について語った製作のジム・モリスさん
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映画「ジョン・カーター」について語った製作のジム・モリスさん

 多くの作家やフィルムメーカーに多大な影響を与え、映画「アバター」(09年)や「スター・ウォーズ」もここからインスピレーションを得たといわれるエドガー・ライス・バローズ(1875~1950)による小説「火星シリーズ」。それを映画化したファンタジーアドベンチャー映画「ジョン・カーター」が、12年4月13日に公開される。ウォルト・ディズニー生誕110年を記念して作られる今作の雰囲気をいち早く日本の映画ファンに伝えたいと、12月の某日、主演のテイラー・キッチュさんとプロデューサーのジム・モリスさんが特別映像を引っさげ来日。上映会とティーチインを東京都内で開催し、翌日には、見どころや製作秘話などをモリスさんがじきじきに解説してくれた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 南北戦争で愛する家族を失ったキッチュさん演じる主人公ジョン・カーターが、不思議な現象によって未知なる惑星バルスームに迷い込む。そこは、権力者“マタイ・シャン”による暴挙のせいで滅亡の危機に瀕(ひん)しており、住民たちの窮状を目の当たりにしたカーターは、彼らのために戦いに身を投じていくという内容だ。今回披露された映像は、ジョン・カーターがバルスームに迷い込む場面や、ジョン・カーターが巨大な化け物“グレイト・ホワイト・エイプ”と死闘を繰り広げる場面など五つのシーン。また作品にはユニークなクリーチャーが多数登場し、中でも4本の腕を持ち、身長約2.5メートルのサーク族の“タルス・タルカス”を、「スパイダーマン」シリーズのウィレム・デフォーさんが演じていることも明かされた。

 最近の映画は、デジタル技術を使い、俳優たちはグリーンスクリーンの前で演技をし、精密に描かれた背景を後ではめ込むという手法がとられることが多い。だが今作は、もちろんデジタルの力は借りているが、あくまでも「触ったらその質感が得られるようなリアリティーを出すことに腐心した」とモリスさんは語る。だから、未知なる惑星バルスームも、米国南西部にある砂漠地帯で撮影し、それをデジタル処理するという手法をとった。「実際に足の下に砂があったり、強風の中で砂が舞い上がったり、そういったことが俳優の演技には確実に影響を及ぼします。彼らには、よりリアルな演技をしてほしかったのです」とモリスさんは話す。

 メガホンを託されたのは、モリスさんとはピクサーのアニメ「ウォーリー」(08年)で組んだアンドリュー・スタントン監督だ。リアリズムを追求しながらアニメーションの監督をあえて起用したのは「キャラクターの50%はCGで、また、実際に砂漠地帯で撮影したといってもCGで手を加える必要がありました。それには、アンドリューのそれまで培った経験が不可欠だったからです」と説明する。

 「火星シリーズ」がフィルムメーカーに多大な影響を与えたということは、翻ると今作には既視感があるということだ。にもかかわらず、このタイミングで今作が作られる意図を、モリスさんは二つ挙げる。一つ目は、「娯楽性の高い作品を提供するため」。二つ目は、自身も尊敬するという「スター・ウォーズ」と「アバター」を例に出し、両作には今作で見られるような砂が舞い上がるような臨場感はなく、また「アバター」は人間とCGによるキャラクターが影響し合う場面が少ない分、「むしろアニメーションに近い」。その上で「われわれの『ジョン・カーター』は、他の同ジャンルの作品とは、物語のアプローチ法もビジュアルを作り上げるテクノロジーも違うと自負しています」と自信を見せる。

 実は80年代半ば、モリスさんがインダストリアル・ライト・アンド・マジック(ILM)にいたころ、この「火星シリーズ」をトム・クルーズさん主演で映画化する企画があったという。しかしそれはかなわず、それから約30年をへて、再びモリスさんの元にその機会が巡ってきた。それだけに今作に懸ける思いは強い。一方で、カナダ出身のキッチュさんにとっても、今回の役はビッグチャンスだ。彼は撮影期間の7カ月を含め約1年3カ月の間、食事制限をし、完璧な肉体を作り上げ、ほとんどのスタントを自身でこなした。それだけでなく、心に傷を負った複雑な主人公を演じ切り、モリスさんをして「まさに逸材」といわしめた。しかも彼は12年、リーアム・ニーソンさん、浅野忠信さん共演のSFアクション「Battleship」や、オリバー・ストーン監督による犯罪サスペンス「Savages」の公開を控えており、“次に来る俳優”の筆頭に挙がっている。そのキッチュさんもまた「この作品に出られたことは素晴らしい経験」と胸を張った今作。12年春、その驚異の映像に観客は圧倒されるはずだ。

 <プロフィル>

 1955年、米デラウェア州生まれ。CM制作会社をへて、87年、視覚効果プロデューサーとしてILM社に入社。のちに製作部門の役員を務める。ILM在職中には「スター・ウォーズ」シリーズ(エピソード1、2)、「ハリー・ポッター」シリーズ(1~3)などを手がけた。05年よりピクサー・アニメーション・スタジオに参加。現在はピクサーのゼネラルマネジャー/EVPプロダクション。「ウォーリー」「カールじいさんの空飛ぶ家」「カーズ2」などを含むすべてのピクサー映画のエグゼクティブプロデューサーを務めている。

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