マイウェイ:オダギリジョー、チャン・ドンゴンに聞く 「戦争を知らない世代にも伝われば」

出演した映画「マイウェイ 12,000キロの真実」について語るオダギリジョーさん(右)とチャン・ドンゴンさん
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出演した映画「マイウェイ 12,000キロの真実」について語るオダギリジョーさん(右)とチャン・ドンゴンさん

 日本人俳優のオダギリジョーさんと、韓国映画「友へ チング」(01年)や「ブラザーフッド」(04年)などで知られる韓国人俳優のチャン・ドンゴンさんが、第二次世界大戦を背景に数奇な運命に翻弄されるマラソン選手を演じた韓国映画「マイウェイ 12,000キロの真実」が14日に公開された。この作品は「シュリ」(99年)などで知られるカン・ジェギュ監督が、アメリカ国立公文書館に保管されていた1枚の写真と、それにまつわるエピソードを基に作り上げた感動作だ。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 物語の始まりは、1928年の日本統治下の朝鮮半島。オダギリさん演じる日本人の長谷川辰雄と、チャンさん演じる韓国人のキム・ジュンシクは、境遇こそ異なるが走ることが好きだったことから、やがてよきライバルとして五輪を目指すようになる。しかし、戦争によってその夢はかなわず、さらに、兵士となった2人は、アジアから欧州までの1万2000キロに及ぶ過酷な旅を経験することになる。

 これは戦争映画だ。それが現代に作られることについて、オダギリさんは「(韓国と日本とでは)まったく違う感情を持っていると思います」と、両国間にある「温度差」を指摘する。実際にオダギリさんは、撮影で韓国を訪れた際、一般人を含めた有事の際の(退避)訓練を公道で目撃したという。当時はちょうど、北朝鮮によるヨンピョン島砲撃事件も起きていた。「そういうところに居合わせ、人生で初めて戦争を肌で感じました」と打ち明ける。

 その点、韓国人であるチャンさんは、本国には朝鮮戦争を経験した人たちが今も大勢生存していること、成人男性には兵役義務があること、さらに世界で唯一の分断国家であることを挙げ、「いつか戦争が起こるかもしれないと無意識ではあるが考えながら生きている」と複雑な心境を明かした。その上で戦争映画は「人々に警戒心を持たせるための機能を持って」おり、また「過酷な状況における人間の感情を表現できる」からこそ、「韓国では戦争映画が多く作られるのではないでしょうか」と自身の考えを述べた。

 2人の青年が戦争によって生き方を変えざるを得なくなるという今作は、人生における転換期を描く物語でもある。オダギリさんとチャンさんに、自身の人生の転換期をたずねると、チャンさんは高校3年生のときに病気で1カ月入院した際、父親がくれた「無所有」という本との出合いと、演劇学校に通っていたとき、ともに過ごした仲間たちとの日々を挙げた。

 一方、高校卒業後の米国留学を人生の転換期に挙げたオダギリさん。当時は英語も通じず、友だちもできないから学校にも行きたくなく、一日中映画館にいることがしばしばだったそうで「寂しい生活の中で唯一あることといえば、映画を見ることだけでした」と振り返った。だが、それによって「映画が人に与えるものを感じ取れるようになった」という。同時に、英語が分からないため「宿題もちんぷんかんぷんのもの」を提出したにもかかわらず、「それを先生が個性と受け取ってくれたアメリカに感謝せざるを得ないし、そこで初めて芸術の奥深さや、何をしても芸術になりうる可能性を感じた」という。「渡米していなければ、こういう人生を歩んでなかったでしょう」と米国に対する感謝の気持ちをしみじみと語った。

 今作はまた、マイナス15度という厳寒の中、日本映画では考えられないほどの大量の爆薬が使われるなど、チャンさんいわく「体力的、精神的な消耗が非常に激しい撮影」だった。そのチャンさんが過酷な撮影を乗り切るためのよりどころにしたのが、ファンや観客の存在。「公開され、観客が初めて作品を見る日を想像しながらつらい日々を耐えました」と、オダギリさんの言葉を借りるなら「完璧な答え」をし、オダギリさんと記者たちをうならせる一幕もあった。

 世代交代ゆえに戦争が他人事になりつつある今、オダギリさんは「いまの日本の若者にとって、この『マイウェイ』がどういうふうに受け止められるか、全く想像できない」と認めた上で、「ブラザーフッド」では朝鮮戦争を描いたジェギュ監督の思いについて、「どういう気持ちで(戦争を)扱っているのかを(監督に)聞いたことはありませんが、何かしら訴えたい強いものがあるのだと思います。それが断片でもいいので、日本の、戦争を全く知らない若者に伝わればいいですね」と、自身の「希望」と断って、コメントを寄せた。映画「マイウェイ 12,000キロの真実」は14日から全国で公開予定。

 <オダギリジョーさんのプロフィル>

 1976年、岡山県出身。03年「アカルイミライ」で脚光を浴び、同年公開の「あずみ」で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞する。04年、「血と骨」で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞。そのほかの主な作品に「メゾン・ド・ヒミコ」(05年)、「ゆれる」(06年)、「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」(07年)、「たみおのしあわせ」(08年)、「空気人形」(09年)、「奇跡」(11年)など。また、海外の監督作品にも出演しており、ユー・リクウァイ監督作「Plastic City プラスティック・シティ」やキム・ギドク監督作「悲夢」(ともに08年)、ティエン・チュアンチュアン監督作「ウォーリアー&ウルフ」(09年)がある。

 <チャン・ドンゴンさんのプロフィル>

 1972年、韓国出身。97年の映画デビュー作「敗者復活戦」で青龍映画賞新人俳優賞受賞。その後、「NOWHEREノーウェアー」(99年)、「友へ チング」(01年)をへて、今作のカン・ジェギュ監督作「ブラザーフッド」(04年)で青龍映画賞主演男優賞に輝く。また、「ロスト・メモリーズ」(01年)では仲村トオルさんと、「PROMISE プロミス」(05年)では真田広之さんと共演。そのほかの作品に「タイフーン TYPHOON」(05年)、「グッドモーニング・プレジデント」(09年)などがある。また、ハリウッドデビュー作となる「決闘の大地で」(10年)が4月に日本で公開予定。

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