「冷たい熱帯魚」(11年)や「恋の罪」(11年)など話題作が続く園子温監督の最新作「ヒミズ」が14日に公開された。原作は、「行け!稲中卓球部」で知られる古谷実さんの同名マンガ。ある事件をきっかけに、未来を捨てることを選んだ15歳の住田祐一と、彼に邪険にされながらも力になろうとする同級生の茶沢景子。2人の歩みを追う青春映画で、東日本大震災直後の被災地で撮影があったことでも話題になっている。住田と茶沢役の染谷将太さんと二階堂ふみさんは、そのこん身の演技で11年9月に開催された第68回ベネチア国際映画祭で日本人初のマルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人俳優賞)を受賞。「園さんの映画には前から出たいと思っていました」と語る染谷さんに話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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−−オーディションで住田役を手に入れたそうですが、園監督の作品のどんなところに引かれるのでしょう。
園さんの全部にです。園さんの映画は、根本的なものは変わっていませんが、表現の仕方が結構変わってきているという印象があります。例えば、「部屋 THE ROOM」(93年)は殺し屋が物件を探すだけのむちゃくちゃ静かな作品。でも、その前に撮っている「自転車吐息」(90年)は激しいとまではいいませんが、青春の“ガミガミ”した感じが出ている。そういうふうに、いろんな描き方をされる方だと思っていました。「冷たい熱帯魚」と「恋の罪」も全然違いますし、もちろん「ヒミズ」も違います。
−−園監督は現場では厳しいそうですね。
今回は、そこまで厳しくなかったと思います。僕は、園さんの現場は「ヒミズ」しか知りませんが、周囲の方々の話を聞くと、いままでよりはソフトだったようです。
−−とはいえ、撮影中しんどいと思ったことがあるのではないですか。
やっているときは全くキツいと感じませんでしたが、いま思い返すと、(大人たちに)蹴られたりする場面など、普通の状態ならキツいんだろうなと思うことはあります。
−−園監督から何度もダメ出しされてつらかったことは?
それはなかったですね。もちろん何回もやりますが、園さんがやりたいことは分かっていたつもりなので、まったく苦痛ではありませんでした。何度もやることで、いろんな素材が撮れます。撮影監督の谷川(創平)さんは、園さんとずっと組んでいる方なんですけど、毎回微妙に変えて撮るので、そういった意味でも、素材がたくさんあるに越したことはない、ということで「(園監督が)もう一回、もう一回」といっているんだと理解していましたから、それで「えー」ということはなかったです。
−−映画の中の自分を見てどんな感想を持ちましたか。
最初、園さんの映画に自分が出るということは想像がつかなかったんです。でも、完成版を見たとき、園さんの映画に自分がいることが成立している気がしたんです。そのとき、ああ、こういうことなのかと思いました。つまり、園さんの映画に出た人は誰しも、園さんが園さんの映画の人にしてくれるんだと思いました。
−−今回の作品は、あなたにとってターニングポイント的な作品になりますか?
ターニングになるかは分かりませんけど、自分の人生の中では大きな作品ですね。いままでやったことのないことをやりましたし、経験したことのない感覚を経験しましたし。あれだけ感情を爆発させたのは、役者としても人間としてでも初めてでした。ラストシーンもそうですが、全体的にもあんなに喜怒哀楽を出したことはなかったですから。
−−園監督があなたを解放させてくれたのですね。
解放してくれた上に、そこまで持っていってくれたということです。それは、園さんはもとより、スタッフも役者の方々も、みなさんがそうさせてくれました。
−−屈折した役を演じることが多いですが、そもそも俳優になったのはどういうきっかけだったんですか?
映像を作るということに興味があったんです。映画はずっと好きでした。小さいころからちょこちょこ見ていて、どうやったらこういうものが作れるんだろうという好奇心から、友だちに誘われて子役を始めました。
−−ということは、将来は映画監督を目指しているのですか。
死ぬ前に1本、商業映画を撮りたいです。ショートムービーは撮りましたが長編を撮りたいですね。
*……「自分は人見知り」と話す染谷さん。確かに冗舌ではないが、答えの一つ一つがきっちりと考え抜かれているコメントだった。それはそのまま演技の説得力につながっている。彼が演じた住田が号泣しながら走る姿。それは必ず観客の心に深く刻まれるに違いない。映画「ヒミズ」は14日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開。
<プロフィル>
1992年生まれ、東京都出身。01年「STACY」で映画デビューし、09年に「パンドラの匣」で長編映画初主演。11年、「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」でも主演を務めた。他の主な出演作に「東京島」(10年)、「あぜ道のダンディ」「東京公園」「アントキノイノチ」(いずれも11年)。公開待機作として21日公開の「ALWAYS三丁目の夕日’64」と2月公開「生きてるものはいないのか」がある。初めてはまったポップカルチャーは、チャールズ・チャプリン。「小学校低学年のころ、父親がケーブルテレビでチャプリンの短編を見ていたのを一緒に見ていました」
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