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天地明察:滝田監督と原作・冲方さんに聞く 算哲の人生を「いかにスリリングに見せるかに腐心」

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 10年に本屋大賞1位に輝いた冲方丁(うぶかた・とう)さんの小説を、「おくりびと」(08年)の滝田洋二郎監督が映画化した「天地明察」が15日に全国で公開される。今作は江戸時代前期、日本初の暦作りに挑んだ実在の人物、安井算哲(のちの渋川春海)の物語で、算哲を「V6」の岡田准一さんが、その妻・えんを宮崎あおいさんが演じているほか、天才和算家・関孝和を市川猿之助さん、碁打ちでもあった算哲の好敵手で囲碁界の革命児・本因坊道策を「関ジャニ∞」の横山裕さんが演じ、松本幸四郎さん、中井貴一さん、市川染五郎さん、佐藤隆太さんらも出演している。「タイトルに引かれ、手に取ったのが原作との出合い」という滝田監督と、映画化の話を聞いたときは「うかつに信じないようにしようと思った」と半信半疑だったという冲方さんに話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

 冲方さんの小説を読んだ滝田監督は、正しい暦を作ろうと奮闘する主人公・安井算哲と彼をとり囲む人々のさまざまなドラマに、まず驚かされたという。しかし読み進める中で痛感したのは、「結局どの時代でも、人間関係や人間の感情で世の中は動いていくものだ」ということ。また「天下泰平だったあの時代は、ある意味、今の時代と似ている。だからこそ現代にも通じる話になると強く感じ」、映画化を熱望し、監督を志願した。

 冲方さんの小説では、暦が当時、宗教や政治、経済にまで影響を及ぼす力を持っていたこと、中国伝来の暦にズレが生じ始めたことから、新たな暦作りのリーダーに抜てきされた算哲の奮闘ぶりなどがじっくりと描かれている。それを、映画化するに当たって滝田監督が考えたのは、「時代を変えよう、暦を変えようとする算哲、算術の世界を変えようとする関孝和、囲碁の世界を変えようとする本因坊道策、そして、自分の意見をきちんと持ちながら、算哲を支える妻・えんの、4人の若者の青春物語」にすることだった。そのために大勢の登場人物を整理し、「人間関係をシンプルかつ濃く」していった。また原作同様、映画には天文用語やそろばん以前に使われた中国伝来の計算用具“算木”といった見慣れないものが出てくるが、それらを細かく説明するのではなく、「いかにシンプルに面白くスリリングに見せるかに腐心しながら、算哲のジェットコースターのような人生を描くことで、作品にメリハリをつけていった」と明かした。

 完成した映画を見た冲方さんは「あんなに複雑な人間関係と政治的な事由、碁打ちなのに暦作りもするという主人公のややこしさを、よくまあ最初の5分で見せたものだと感服しました」と打ち明ける。また、滝田監督いわく、算哲にとって「天体においても、囲碁においても中心を目指したいという自身の生き方の表れである」、天元(碁盤の中央にある星)に碁を打つ姿を例にとり、「小説なら、『盤の中央に打った』であとは読者の想像力に委ねるしかないんですが、映画ではバシンと打っている。やっぱり映像の力はすごい」と、冲方さんはその迫力に改めて感動したようだった。

 算哲を演じた岡田さんについて、滝田監督は「星を見て、あるいは算術をしながら喜々とする青年の顔と、改暦事業に巻き込まれたあとに徐々に顔付きが変わり、最後には男の勝負師の顔になる。それをしっかり撮りたい」との思いからキャスティングし、それは「大正解だった」と胸を張る。一方、「算哲を優しいまなざしで支え、ときにはきついことをいう」えんには、「独特の華とみんなを説得する演技力」を持つ宮崎さんがぴったりで、2人が「いい夫婦を演じられることはキャスティングの段階から確信していた」といい、案の定、2人はその言葉通りの仲むつまじい夫婦を演じている。

 滝田監督は「算哲のすごいところは、囲碁打ちとして人生を約束されている中で、自分が興味を持った天体と算術にこだわり続けたところだ」と評する。そしてその算哲のこだわりようは、滝田監督の映画作りにおけるこだわりと共通していると冲方さんは指摘する。冲方さんによると、プラネタリウムクリエーターの大平貴之さんが今作を見て、夜空に浮かぶ星の正確さに驚いていたという。滝田監督は「いまは国立天文台に行くと何百年も前の星の位置がすぐに分かる」といい、今作でもそれを参考にしたというが、「そういう徹底的にこだわる滝田監督の姿が映画を通して見えてきて、それが僕にとっては非常に感動的でした」と冲方さんはたたえる。

 「常に前の作品を忘れるために次の作品を撮っている」と語る滝田監督。滝田監督にとって今作は「おくりびと」が米アカデミー賞外国語映画賞に輝いて以来の作品だ。「前作からちょっと間が空き過ぎた」と4年のブランクを惜しみながら、だからこそ今作に巡り会えたとも思っている。そして完成した今作を、「いろんな挫折をしながら、生涯を懸けて、天に手を伸ばし、日本独自の暦を創始した男の話です。(侍同士の)斬り合いもない、非常に地味な作品のように見えて、実はスリリングなシーンもたくさんあります。また、素晴らしいキャストが続々と登場しますので、どんな年代の方も飽きることなく楽しんでいただけると思います」とアピール。冲方さんもその滝田監督のコメントを「現代の希望の物語です」と力強く後押ししていた。映画は15日から全国で公開。

 <滝田洋二郎監督のプロフィル>

 1955年生まれ。富山県出身。86年、「コミック雑誌なんかいらない!」を監督。以降、「木村家の人びと」(88年)、「病院へ行こう」(90年)、「お受験」(99年)、「秘密」(99年)、「陰陽師」(01年)、「壬生義士伝」(03年)、「バッテリー」(07年)などを監督。08年公開の「おくりびと」が、モントリオール世界映画祭グランプリをはじめ、日本アカデミー賞、米アカデミー賞外国語映画賞に輝いた。

 <冲方丁さんのプロフィル>

 1977年うまれ。岐阜県出身。96年、「黒い季節」で第1回スニーカー大賞金賞を受賞し、作家デビュー。09年に発表した時代小説「天地明察」が、10年の本屋大賞に輝くなど数々の文学賞を受賞。そのほかの著書に「マルドゥック・スクランブル」など。最新作は「光圀伝」。ゲームやコミックの原作、アニメ制作など複数のメディアでも活躍し、多才ぶりを発揮している。

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