あの日から1年……12年3月11日の日の出来事を、人々が思い思いに撮影し、寄せられた映像を編集し、1日の物語を作り上げる。そんな壮大で、かつパーソナルな企画を形にした「JAPAN IN A DAY[ジャパン イン ア デイ]」が3日から全国で公開された。「エイリアン」などの監督として知られるリドリー・スコットさんが率いる英国の製作会社「スコットフリー」がフジテレビと共同製作した。ロンドン在住のフィリップ・マーティン監督とともにメガホンをとった成田岳監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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今作は、リドリー&トニー・スコット兄弟が10年に製作した「LIFE IN A DAY」の姉妹編となる。フジテレビの早川敬之プロデューサーが、「LIFE IN A DAY」の次回作として、12年3月11日に焦点を当てた作品を共同製作しませんかとリドリー監督に提案したことで実現した。
動画共有サイト「You Tube(ユーチューブ)」を通じての映像を募集し、世界12カ国から8000件、時間にして何十万時間にもおよぶぼう大な量の映像が寄せられた。撮影者は、プロではない一般の人々。それらを見て、映像を選び、つないでいく。その、途方もない手間と時間がかかる仕事を託されたとき、成田監督は意外にも喜んだという。「本当にうれしかったんです。やりがいがある作品だと思ったし、自分がこれまで経験してきたいろんなことを結実させられるという期待感もありましたから」と当時の思いを口にする。
成田監督は、京都府で生まれた。その後、まもなくスペインへ渡り、高校に入るまでの期間を、米国とアルゼンチンで暮らすなど、通算10年ほど海外生活を経験している。海外で生活していたときは、日本人であることでよく好奇の目にさらされた。そのたびに、日本人ってなんなのだろうと子供ながらに考えていたという。日本人に張られた、「エコノミック・アニマル」や「没個性的な顔」というレッテルにも釈然としないものを感じていた。そういったイメージを払拭(ふっしょく)し、「日本人は個性的な人々の集まりである」ことを世界に示すことができる一助になればと、今回のオファーを快諾したという。また、フジテレビに入社してからの、報道部門やドラマ部門での経験が発揮できることも大きかった。
編集作業は英国で行われた。映像は8人のスタッフによって分別され、300時間に絞り込まれた。それらを、朝から晩まで1カ月間見続けた。渡英する前、同様の経験があるスタッフに「つらい作業だから覚悟しておくように」との忠告を受けたそうだが、むしろ成田監督は、投稿者の斬新な撮影観点に感嘆し、「日々、小さな発見の積み重ね」で、「つらさよりも、今日は何を見られるのだろうというワクワク感にあふれた毎日だった」と振り返る。
300時間の映像は、マーティン監督との共同作業で、結果的に約90分にまとめあげられた。レバノンのベイルート生まれのマーティン監督は、現在はロンドンに住み、これまでに「第一容疑者 希望のかけら」などの英国のテレビドラマを手掛けてきた。英語が堪能な成田監督は、言葉の心配はしていなかったが、文化や思想の違いによる意見の衝突は懸念していた。しかし、幸いにしてそれはなく、映画は「2人の意見が同時に入ることで、徐々に磨き上げられていった」という。
完成した作品には、北九州で酒屋を営む初老の夫婦の映像もあれば、その日、1歳の誕生日を迎えた女の子の姿もある。震災が起こった午後2時46分、黙祷(もくとう)を捧げる日本中の人々の姿もある。そういった198人の人々が撮った映像が、12年3月11日の24時間を形作った。そこに収められた一つ一つの映像すべてが、成田監督は「きれいごとではなく、本当に好き」なのだという。それでも特に好きなものはとあえて聞くと、少しの間考えてから、「好きなものとして挙げている一つ」と断った上で、大震災によって土台しかなくなってしまった家に“幸福の黄色いハンカチ”を掲げ、「いつかは戻るぞ!」と元気に叫ぶ女性の映像を挙げた。そこにある「パーソナルな思い」に、「人間のたくましさをより感じる」からだという。
映画は“未来”を確実に予感させる映像で締めくくられる。そこに至るまでの、投稿者それぞれのパーソナルな思い。それらが編み込まれることで、むしろ今作は普遍性を持つ作品となった。だからこそ「見る人によっていろんな感じ方ができる」作品だと成田監督は言い切る。「大切な人と一緒に見てほしい。そして、見終わったときに、あそこは私はこう思ったとか、僕はこう感じたとかを語り合っていただければ」と笑顔で語った。映画「JAPAN IN A DAY[ジャパン イン ア デイ]」は3日からTOHOシネマズ六本木ヒルズ(東京都港区)ほか全国で順次公開中。
<プロフィル>
1972年生まれ、京都府出身。生後まもなくスペインへ渡り、その後、米国、アルゼンチンで暮らした経験を持つ。97年、慶応大大学院法学研究科卒業後、フジテレビに入社。現在はドラマ制作センターに所属。これまで多くのテレビドラマの演出を担当している。チーフ監督を務めた作品に「プロポーズ大作戦」(07年)、「東京DOGS」(09年)がある。また、11年には世界初の3Dドラマ「TOKYOコントロール 東京航空交通管制部」を手がけた。初めてはまったポップカルチャーは、映画「スター・ウォーズ」。当時はまだ5、6歳だったが、映画館やビデオで「何度見たか分からないくらい見て、どっぷりとつかった」といい、キャラクターグッズなどにもはまったという。
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