任侠ヘルパー:西谷弘監督に聞く 1本の太い線になった彦一像 「終わらせたくない」続編に期待

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 09年に放送された、人気グループ「SMAP」の草なぎ剛さん主演の連続ドラマ「任侠ヘルパー」は平均視聴率は15%台を記録し、11年1月にはスペシャル版が放送された。このたび映画化され、17日から全国で公開された。メガホンをとったのは、ドラマで演出を担当していた西谷弘監督。映画化に際して配慮したこと、また主演の草なぎさんのことなど聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 指定暴力団「隼會」を抜け、堅気として生きる覚悟を決めた、草なぎさん演じる翼彦一。ところが、元極道という立場は予想以上に生きづらく、再び老人相手の裏の仕事に手を染めるようになっていく。風間俊介さんが彦一の舎弟・山際成次を演じるほか、安田成美さん、夏帆さん、香川照之さんらが出演している。

 ◇映画のほうが表現の幅が広がる

 −−西谷監督は当初、「テレビシリーズの1話だけ手掛けてほしい」という話だったそうですが、そのときから、ヤクザが老人介護をするというアイデアはあったのですか?

 介護問題と「強きをくじき、弱きを助ける」という任侠道の組み合わせはありました。ただ、当時はもう少しライトなコメディーというか、草なぎ君扮(ふん)する彦一が、ケンカやしのぎをやるよりは介護しているほうに生きがいを感じるという話でした。でも、草なぎ君のいい人的な部分というのは、すでに見えているから新鮮味がない。それに、介護は答えの出ない問題だと思っていたので、変にオブラートに包んだ作りをすると絵空事になってしまう気がしたし、ヤクザはやっぱり悪いやつらだし……ということで、今のような形にシフトチェンジしていきました。

 −−今回の映画化で配慮したことは?

 ドラマを見ていない人に訴えられるようなアプローチをしたいと思っていましたが、そこが非常に難しい。一方で、ドラマからのファンも大事にしないといけないですから、ドラマへのオマージュ的な要素もちょこちょこと入れています。例えば今回の場合は、彦一がニンジンが嫌いなことはテレビシリーズで周知のことなので、風間君演じる弟分の成次に、「アニキ、ニンジン抜きだからよ」といわせてみたりしています。

 −−映画化する上での利点は?

 映画の方が、表現の幅が断然広がるところです。例えば、たばこを吸うという行為も、最近はテレビではあまりできませんが、映画ではそれができる。今回の場合でいうと、杉本哲太さん演じる極鵬会の若頭が、彦一がかかわることになる老人介護施設「うみねこの家」を訪れたときたばこをポンと捨てる。彦一がその瞬間、自分のところを汚されたと、ちょっとイラっとくる。そういう彦一の変化というものを描くことができる材料が、映画の方が多いんです。

 −−草なぎさんは、スペシャル版以来、演じ方に変化はありましたか。

 ないですね。彼の中にすでに彦一は出来上がっていますから。忙しい人なので、他の仕事のあとでこちらの現場に入ってきたときに彦一に戻す、その手伝いをちょっとすれば大丈夫。また、草なぎ君自身も楽しみにしていた部分だと思いますが、アクションシーンも映画だからできること。テレビの場合、戦っているところは割と省いているものなんです。撮影に時間がかかるし、暴力に対する規制ということもある。でも映画の場合は、暴力をクローズアップするわけではありませんが、ぜいたくなおまけというか、そういう表現ができる。草なぎ君は、もともと体を動かすことは好きだし、得意。今回も高い集中力で臨んでくれました。

 ◇より孤高になった彦一

 −−西谷監督はNGテークが多いと聞きます。

 ほかの監督さんと比べたことがないので多いかどうかは分かりませんが、俳優さんの演技が自分のイメージしたものとズレていると、やはり出しますね。もちろん、自分の想像を超えてくるものもありますから、自分としてはいつも葛藤です。

 −−認知症を患う母親を持つ、安田さん演じる蔦井葉子が初めて笑顔を見せる場面が印象的でした。監督自身が印象に残る場面は?

 安田さんが演じる葉子はとても大事な役で、彼女は過酷な日常にいて笑顔を忘れている。だからこそ、笑顔がすてきな人に演じてもらいたくて安田さんにお願いしました。彼女は彦一と出会って変化していきますが、その際、三つポイントを置きました。最初は、葉子が母親を病院から連れ出す場面で見せた悔し涙。次に、ご指摘のあった初めて笑顔を見せる場面。そして、生きていくのも悪くないなと、終盤にちょっとだけ見せる笑顔。その三つがうまくいけばいいと思っていたので、その点では、そこが一番大事にしたところだし、よかったなと思える場面です。

 −−続編の可能性は?

 こればかりはあとからついてくるものですから、僕が決められることではないんですが、終わらせたくないとは思います。

 −−彦一の魅力にますますとらわれているようですね。お話をお伺いしながら、彦一の魅力は西谷監督ご自身のそれと重なっているように思います。

 重なってないですよ。彦一のように強くも男らしくもないですから(笑い)。

 −−テレビドラマを見ていなかった人に向けてメッセージをお願いします。

 エンターテインメントとして作ってはいますが、社会が抱える闇の部分にスポットを当てているので、切れ味のいい任侠映画とは違いますし、かといって社会問題だけのお堅い話でもなく、楽しんでいただける作品だと思います。これを見ていただいて、その上で、テレビシリーズを振り返ってもらってもいいかもしれません。

 −−テレビドラマを知っている人には?

 テレビシリーズでは、若手の俳優さんが多数出演し、それが一つの楽しみでしたが、今回は彦一が旅に出て、成次という舎弟を得て、より孤高になっていきます。撮影時、草なぎ君と、こんな話をしました。彦一を俯瞰(ふかん)でとらえると1本の線のように見えるけれど、実はその部分をクローズアップすると、曲がったり迷ったり逆戻りしたり、そういう回数が多い分、引いて見たら太い線のように見えるんだと。そういう彦一像を、テレビシリーズ以上に描いているので、テレビとは違った「任侠ヘルパー」を見ていただけると思います。

 <プロフィル>

 1962年生まれ、東京都出身。フジテレビの連続ドラマ「白い巨塔」(03年)、「エンジン」(05年)、「ガリレオ」(07年)などの演出を担当。06年、「県庁の星」で映画監督デビュー。他の映画監督作に「容疑者Xの献身」(08年)、「アマルフィ 女神の報酬」(09年)、「アンダルシア 女神の報復」(11年)がある。初めてハマったポップカルチャーは「ない」とのこと。「ハマったものがないんです。よくいえばハマらない男。そういう人生なんです。だからその質問にはお答えできないなあ……」と恐縮していた。

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