綱引いちゃった!:水田伸生監督に聞く 計算された笑いは「明石家さんまさんから教わった」

映画「綱引いちゃった!」について語った水田伸生監督
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映画「綱引いちゃった!」について語った水田伸生監督

 井上真央さん主演のヒューマンコメディー映画「綱引いちゃった!」が23日から全国で公開された。メガホンをとったのは、映画「舞妓Haaaan!!!」(07年)や「なくもんか」(09年)を手がけた水田伸生監督。井上さんの、コメディエンヌとしての才能をベタ褒めする水田監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 映画「綱引いちゃった!」は、知名度の低い大分市をPRしようと、風間杜夫さん扮(ふん)する市長の思いつきで、女子綱引きチームの結成を任された市役所広報課の女性職員の奮闘を描く。「パッチギ!」(06年)や「フラガール」(07年)などの脚本を担当した羽原大介さんの手によるオリジナルストーリーで、井上さんは、市役所職員・西川千晶を演じている。そのほかに、その母親役の松坂慶子さんはじめ、浅茅陽子さん、ソニンさん、渡辺直美さん、西田尚美さん、犬山イヌコさん、中鉢明子さんが、綱引きチームのメンバーを演じている。

 水田監督にとって今作は、09年の宮藤官九郎さん脚本、阿部サダヲさん主演の「なくもんか」以来2年ぶりの映画作品。企画自体は6年ほど前からあったといい、当時は、羽原さんが書いた「フラガール」が大ヒットしていた。「女性の群像劇は、世界を見渡しても少ないですし、映画館に来てくださる女性のためにも、女性映画はもっとあっていいのでは」という思いから製作をスタートさせた。

 だが、水田監督本人に「女性を主役にした作品を作れる自信がなかった」。その苦手意識を変えたのは、10年の松雪泰子さん主演のドラマ「Mother」だった。このドラマでの演出経験が、今作を作るうえでのエネルギーになったという。

 それにしてもなぜ、「女性の群像劇」が「綱引き」だったのか。企画立案後、水田監督に、大分の綱引きチームの存在を教えたのが、水田監督とは「古くからの顔なじみである羽原君」だった。そこで、綱引きの全日本大会を見にいったところ、自分たちが知る、学校の運動会での出し物としてのそれと、目の前で繰り広げられているものとのあまりの違いに驚き、「綱は使っているけど別物じゃないか」と衝撃を受けたという。(競技自体に)動きが少ないという懸念より、むしろ「この迫力をどうやったらうまく(映像で)表現できるかと、それを考えてワクワクした」と当時の興奮を思い返していた。ただ、当初はもう少し、「勝ち負けをはっきりさせた、スポーツ寄り」のストーリーだった。それを変えさせたのは、11年3月に起きた東日本大震災だ。以降、テーマは勝敗うんぬんよりも、「8人の女性を描くこと」にシフトしていった。

 井上さんを主演に起用した理由は「コメディーを支えられる人というのは、ある種、特殊な能力の持ち主」で、井上さんにはその能力があるという。また、コメディーは大きく分けると、シチュエーションコメディーといわれる「三谷(幸喜)さん系」と、役者にその能力があるからこそ笑いが生まれる「宮藤(官九郎)さん系」の2種類があり、今回の「綱引いちゃった!」は、「その真ん中に」位置すると説明。その上で「とてもナチュラルな千晶という人物が、コミカルであったり、シリアスであったり、いろんなシーンにかかわっていくことで、お客様が映画を体感していくという構造」のため、「振り幅の大きい女優さん」が必要だったと話す。だからこそ、「八日目の蝉」(11年)から「花より男子ファイナル」(08年)まで、カラーが異なる作品にもかかわらず「ちゃんとその中に、その役として存在している真央ちゃんが、この千晶役にはぴったりだったんです」と明かした。

 最初に手掛けたドラマは、81年の西田敏行さん主演のホームドラマ「池中玄太80キロ」。以来、笑いの中にも涙あり、感動ありの作品を数多く手掛けてきた。ベテラン演出家だけに「面白いことが続くと、人間って当たり前になっちゃうんですよね」と笑いの難しさは熟知している。だから、これまでの通り、今作でも観客を笑わせようとはせず、「物語がうねるように、緩急がつくように計算して撮っていくこと」を心掛けた。そういう作り方を教えてくれたのは、意外にも明石家さんまさんだったという。

 さんまさんとは、95年のドラマ「恋も2度目なら」をはじめ、さんまさん主演の舞台の演出を務めるなど、現在も関係は続いている。「シナリオの中に笑いを挿入していくこと、そのためにどういう伏線を張るか、あるいは、まいた種はどう回収するかなど、そうしたことはすべてさんまさんから教わりました。彼は偉大です。それに仕事に対して非常に厳しい方です」と“笑い作りの師匠”をたたえる。

 出来上がった今作を「女性のための女性の映画」としながら、「もちろん、男の人にも楽しんでもらえる自信はあります」と胸を張る。そして「見た男性は、女の人は素晴らしいと思うだろうし、女性は女性で『私もこれくらいのことできるわよ』でもいいし、『ちょっと元気になったな』でもいいんです。とにかく、楽しんでいただける作品だと思います」と力を込めた。映画は23日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1958年生まれ、広島県出身。81年日本テレビ入社後、ドラマの制作に携わる。04年の「冬の運動会」で放送文化基金賞を受賞。06年、「花田少年史 幽霊と秘密のトンネル」で映画監督デビュー。そのほかの監督作に「舞妓Haaaan!!!」(07年)、「252 生存者あり」(08年)、「なくもんか」(09年)がある。最近のドラマ演出作に「Mother」(10年)、「トッカン 特別国税徴収官」(12年)など。舞台演出家として、これまでいかりや長介さん主演の「ありがとうサボテン先生」(02年)や、明石家さんまさんの主演作を演出している。初めてはまったポップカルチャーは、小学校低学年のときに見ていた「吉本新喜劇のテレビ中継」だという。

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