妖怪人間ベム:狩山俊輔監督、河野英裕プロデューサーに聞く「妖怪たちが本気を出したら」を表現

「映画 妖怪人間ベム」の製作エピソードを語った河野英裕プロデューサー(左)と狩山俊輔監督
1 / 3
「映画 妖怪人間ベム」の製作エピソードを語った河野英裕プロデューサー(左)と狩山俊輔監督

 人気グループ「KAT−TUN」の亀梨和也さん、女優の杏さん、子役の鈴木福君が出演し、平均視聴率15.6%をマークしたテレビドラマ「妖怪人間ベム」が、完全オリジナルストーリーで映画化され15日に封切られた。連続ドラマから演出を担当し、「ドラマから培ってきた世界観を壊さないよう注意を払った」と話す狩山俊輔監督と、同じくドラマからかかわってきた河野英裕プロデューサーに話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 連続ドラマでは、心には正義を宿す妖怪人間ベム(亀梨さん)、ベラ(杏さん)、ベロ(福君)の3人が、「人間になりたい」という願いをかなえるために悪と戦い続けた。基になっているのは、60年代に一大ブームを巻き起こしたテレビアニメ。一方の映画は、テレビシリーズでの、柄本明さん演じる“名前の無い男”との最後の戦いで、人間になることよりも人間を守って生きていくことを選んだベムたちが、たどりついた街で怪事件に遭遇。その謎を追う彼らの前に、再び“名前の無い男”が姿を現すという内容で、ベロの初恋エピソードも描かれる。

 映画化に際して狩山監督は、時間も予算もギリギリでやっていたためにテレビではかなわなかった「妖怪たちが本気を出したらどうなるかという動き」を表現しようと考えた。それまでのベムたちは「人間が相手だったために力をセーブしていた」。しかし今回は、「本気で戦える相手」、つまり本物の妖怪を登場させることで、アクションのグレードアップを試みた。

 それによって、アクションシーンに伴う視覚効果(VFX)もスケールアップした。映画のクライマックスとなる溶鉱炉でのシーンでは、その撮影だけで1週間以上を費やし、杏さんもワイヤを使った激しいアクションに挑戦した。とはいえ、ベムたちの動きをやみくもに派手にしたわけではない。これまでのテレビシリーズで見られた彼らのアクションの基本は、狩山監督によると「自ら攻撃を積極的にしない、守り合うアクション」。それを、映画では「ベムたちの心の機微が見えるようなちょっとした仕草を盛り込みつつ、彼らが手加減せず動き回るとこうなるんだというもの」を表現していった。

 その、ベムたちに手加減せず動き回ることを可能にさせた本物の妖怪を演じているのが、女優の観月ありささんだ。植物の力で半身が妖怪化した“悲しき復讐(ふくしゅう)者”サユリの役で、制御を失った触手がベム、ベラ、ベロに容赦なく襲い掛かる……。観月さんを起用したのは「長身でスタイルもよく、ある種の人間離れしたキャラクターを演じられる。その一方で母性も感じさせ、人間妖怪という役をやり切ってもらえる」(狩山監督)からだ。そのもくろみ通り観月さんは、醜く変身してしまった体を、愛する娘みちるに見せられない悲運の妖怪を、情感たっぷりに演じている。

 今作を作るにあたって、河野プロデューサーは周囲に「尊敬の意味を込めて、最高級のB級映画を目指すとずっといっていた」という。なぜならB級映画には、その映画の監督を含むスタッフの「偏執性というか、これをやりたいという強い意志が見える」からだ。そして出来上がった今作にも、そのB級映画っぽさが出ていると断言する。だからこそ「その雰囲気が出ているアクションは楽しみに見てほしい」と胸を張った。

 ちなみに狩山監督は今作の製作のために「B級映画ではないですが」と断った上で、「ダークナイト」や「バットマン」から、「タイトルは忘れてしまったが、誰も知らないような韓国映画」に至るまで、さまざまな作品を見て研究したという。その中で感情面で特に影響を受けたのは、スティーブン・スピルバーグ監督の「E.T.」だったそうだ。

 かくして出来上がった今作。その見どころは「もともとアクションやVFXにはあまり興味がない」と笑う河野プロデューサーは、ベロの初恋の相手みちるが、一生懸命頑張る運動会のシーンを挙げ、一方の狩山監督は「全部です」といったあと、あえて挙げるならと「ラストシーン」を推した。すると、河野プロデューサーが、月を背景に駆けるベムたち3人のショットを追加。「カッコいいし、切ないし、いろんな感情があそこにあるような気がする」からだ。そのショットは、テレビドラマのときからのベムたちのイメージショットとして定着しているが、初めて登場したのは第5話。狩山監督がオリジナルアニメの印象から思いついたそうだが、そういえば「E.T.」にも月をバックにした似たようなシーンがあった……。そう指摘すると、狩山監督は「確かにそうですね。テレビのときはまったく意識していませんでした。パクりと思われちゃうかな(笑い)」と偶然の一致に驚いていた。

 「チャンネルを回されたら終わり。だから、分かりやすさを第一に考えるテレビドラマ」(河野さん)と異なり、映画は観客はそれを見るためにお金を払い、映画館に足を運ぶ。そのため、多少の分かりづらさも観客からは許してもらえる。その点に着目し、「話が少々複雑になってもいい」「人によって見え方が違い、見た人同士で議論が広がるような多角的な2時間」(河野さん)を提供したいと製作した。狩山監督が「力いっぱいやらせてもらった」と話す、テレビではできなかったアクションなどを、ぜひスクリーンで楽しんでほしい。映画は15日から全国で公開中。

 <狩山俊輔監督のプロフィル>

 1977年生まれ、大阪府出身。テレビドラマ「セクシーボイスアンドロボ」(07年)、「1ポンドの福音」(08年)、「銭ゲバ」「サムライ・ハイスクール」(09年)、「怪物くん」「Q10」(10年)、「ダーティ・ママ!」(12年)などを演出。11年に「妖怪人間ベム」を演出し、今回の映画化で監督を務めた。初めてはまったポップカルチャーは「ポップカルチャーというのか分かりませんが」と断りつつ、「レゴ」を挙げた。「ものごころついたときからやっていました。完全なブロックを組み合わせて何を作るかが醍醐味(だいごみ)でした」と話した。

 <河野英裕プロデューサーのプロフィル>

 1968年生まれ、熊本県出身。テレビドラマ「すいか」(03年)、「野ブタ。をプロデュース」(05年)、「マイ★ボス マイ★ヒーロー」(06年)、「銭ゲバ」(09年)、「Q10」(10年)、「妖怪人間ベム」(11年)などのプロデューサーを務める。ほかにSPドラマ「車イスで僕は空を飛ぶ」(12年)などがある。初めてはまったポップカルチャーは「ジュリー(沢田研二さん)やツイストといった、いわゆる日本の最もよき時代の歌謡曲ですね。今でも、生まれ変われるならロックスターになりたいです」と話した。ちなみに楽器はギターを演奏する。

写真を見る全 3 枚

映画 最新記事