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レ・ミゼラブル:トム・フーパー監督に聞く 脚本を読んで泣いた「人を許すことこそ今作のテーマ」

映画

 文豪ビクトル・ユゴー原作のミュージカルの金字塔を、「英国王のスピーチ」で米アカデミー賞監督賞に輝いたトム・フーパー監督が完全映画化した「レ・ミゼラブル」が21日に封切られた。19世紀のフランスを舞台に、一片のパンを盗んだ罪で19年ものろう獄暮らしを強いられた男ジャン・バルジャンの、波乱に満ちた人生がつづられる。バルジャンを演じるのは、「X-メン」などで知られるヒュー・ジャックマンさん。そのほかに「グラディエーター」(00年)のラッセル・クロウさん、「プラダを着た悪魔」(06年)のアン・ハサウェイさん、「マンマ・ミーア!」(08年)のアマンダ・セイフライドさんらが出演している。作品のPRのために来日したフーパー監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

 −−映画「レ・ミゼラブル」は、俳優たちが実際に歌っているところを収録するという方法がとられたそうですね。フーパー監督にとってそれは挑戦だったと思いますが、映画が完成した今、どんなお気持ちですか。

 とても幸せです。ライブでやる、それが私が監督を引き受ける上での条件でした。なぜなら、この作品にライブ以外の正しい方法はないと思っていましたから。

 名演技というのは、ある意味、瞬間芸です。そのキャラクターを演じる役者の、きちんとした“選択”の瞬間にこそ生まれるものです。今回は、役者の歌だけでなくピアノも彼らの横で弾いていました。そうすることで、役者はテンポを自分でコントロールでき、歌い始める前に、頭で考える時間が持てるのです。感情が込み上げてくれば、それをフレーズに乗せることができる。そういうリアルな状況を作り出したかった。通常せりふはライブで録音しますが、それと同じこと。僕としては、歌もライブで収録することが、一番、理にかなっていました。ただそれには、今回のように、いい役者、いい歌い手に恵まれる必要がありますが。

 −−アン・ハサウェイさん演じるファンテーヌが髪を切る場面があります。あれもライブですよね。失敗は許されませんね。

 あの場面だけではありません。切ってしまうと、その前の、髪が長かったときのシーンの撮り直しは二度とできません。ですから、すべてが整ったところで彼女には演じてもらいました。アンにとって、髪の毛を切るときが、感情が高まる瞬間でした。だからこそ、その感情の高ぶりが、あの場面にはうまく表れていたと思います。

 −−この映画の脚本を読み、泣いたそうですね。

 泣いたのは、学生たちがパリで蜂起した場面で、ヒュー演じるジャン・バルジャンが、ラッセル演じる警部のジャベールを、バリケードから逃がすところです。その行為に、バルジャンの人道主義的思想を感じました。人を許すことこそが、この映画のテーマの一つです。

 −−構図的なことをおうかがいします。「英国王のスピーチ」のときも感じましたが、フーパー監督はときどき、登場人物をスクリーンの中央にではなく端に置きます。それも極端なほど端っこに。それはなぜですか。

 キャラクターを真ん中に置くと緊張感がなくなってしまうんです。特に、2人の人間の緊張関係を表現するときは、なるべくエッジ(へり)を使います。同様に、ファンテーヌが「夢やぶれて」を歌うシーンでも、カメラは、彼女の顔が切れるくらいにまで寄っていきます。あれは、人生という箱に彼女が詰め込まれていくことを表現しています。あの(カメラの)フレーム自体が箱を意味しているのです。彼女はそこから出たいと思っている。おっしゃる通り、「英国王のスピーチ」でも似たような構図がありました。私は、同じアイデアを一つの映画でだけではなく、次の作品にも使い、進化させていくことを好みます。

 −−ジャベールが、バルコニーの張り出しやセーヌ川にかかる橋の欄干を歩いている場面では、足だけを撮っています。

 あれには、ラッセルのアイデアがありました。足だけを映すというのは、自己破壊、あるいは、己の危機感を表しているのです。彼は2年前、「レ・ミゼラブル」の舞台を見たとき、ジャベールが終盤にとった行動に違和感を感じたのだそうです。あまりに唐突に思えたと。ですから、その唐突感をぬぐうために、ああいった演出をしました。

 もう一つ、ガブローシュという少年にジャベールがメダルをあげるシーンがありますが、あれもラッセルのアイデアです。あれは、ジャベールの心変わり、自分の心を徐々に解いていった証しなのです。ユゴーも、小説では、終盤のジャベールについては何ページも割いています。ラッセルは、それを理解した上でああしたのです。素晴らしいと思いました。

 −−撮影が困難だったシーンは?

 オープニングのシーンでしょうか。ヒュー演じるバルジャンたち囚人が、海水をかぶりながら船をひいている場面です。早く撮らなければならなかったから、寒い中、彼らに水をジャブジャブかけました。とても大変な撮影でした。

 −−楽しかったシーンは?

 終盤の、蜂起した学生たちがバリケードを作るところかな。自分たちでバリケードを作ることを、突然思いついたんです。役者たちが家具やピアノを窓から放り投げる中、6台のカメラを群衆役の役者たちの中に隠し、コスチュームを着たカメラマンがセットをぐるぐる回って撮りました。

 −−今作は、アカデミー賞を受賞した「英国王のスピーチ」に続く作品です。また、ミュージカルの最高峰の映画化。二つのプレッシャーがあると推察しますが……。

 そうしたプレッシャーよりも「レ・ミゼラブル」そのもののファンに対するプレッシャーのほうが強い。大勢の人が、この物語を大切に思っていますから。ユゴーの作品を正しく、また、原典のミュージカルをきちんと理解し、僕なりの解釈を、みなさんに恥じることなく提示したいと思って作りました。

 −−映画の最後では、出演者たちが「民衆の歌−リプライズ」を高らかに歌い上げます。すごい数の人でしたが、一体何人いたのでしょう。

 (映っていたのは)数千人ですが、実際のところは200~300人くらいです。それを、コンピューターグラフィックス(CG)で増やしました。あの中にはスタッフもいました。バリケードもCGで長く延ばしました。確かに、CGは使っていますが、実際に撮影し、その上で加工する。そういう方法が好きなんです。僕はやっぱりリアルが好きなんです。

 <プロフィル>

 1972年、ロンドン生まれ。オックスフォード大で学び、92年からテレビの演出家に。03年、テレビムービー(ドラマ)「第一容疑者 姿なき犯人」を監督し、エミー賞監督賞などにノミネートされる。04年、「ヒラリー・スワンク IN レッド・ダスト」(日本未公開)で映画監督デビュー。05年のテレビムービー「エリザベス1世 愛と陰謀の王宮」ではエミー賞監督賞を受賞。10年、「英国王のスピーチ」では米アカデミー賞作品賞、監督賞はじめ、数々の賞を受賞した。

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