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鈴木先生:原作者・武富健治さんに聞く 映画では「“完成形の鈴木先生”が見られる」

映画 マンガ

 11年4~6月に放送された際には、平均視聴率2%台という低視聴率ながら、第49回ギャラクシー賞(対象期間11年4月~12年3月)優秀賞に輝くなどし、“奇跡の映画化”が実現した「鈴木先生」。平凡な一中学校教師が、独自の教育理論によって問題を解決していくというストーリーは、07年文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞に輝いた同名マンガが原作だ。12日から全国公開されるその映画について、原作者の武富健治さんはどのような感想を持ったのか。原作者だからこそ語れる「映画 鈴木先生」(河合勇人監督)の見どころなどを、たっぷりとうかがった。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

 ◇風間俊介にしかユウジは演じられない

 *……マンガ「鈴木先生」(双葉社)は、マンガ誌「漫画アクション」(双葉社)で06年から本格的に連載が始まった学校を舞台にした作品だ。黒縁メガネとループタイがトレードマークの中学校の国語教師・鈴木先生が、独自の教育理論によって理想のクラスを作り上げようと日々奮闘する姿を描いている。映画では、2学期が始まり、生徒会選挙や文化祭の準備に追われる鈴木先生と、彼が担任する2−Aの生徒たちの様子、さらに、卒業生・勝野ユウジによる学校立てこもり事件が描かれていく。

 −−映画化された感想をお聞かせください。

 職業もののマンガをシリーズでやることになった時点で、映像化はしてほしいと思っていました。最初の方は、連続ドラマをイメージして描いていましたが、「鈴木裁判」のあとの2学期編(コミック7巻以降)からは、映画っぽいイメージで描いています。そういうことがありますから、今回映画になって本当にうれしいです。(完成した映画については)僕なりに感動はしました。ただ、僕自身が内容にアドバイスするなどして映画スタッフの一員のようになってしまっているので、正しい見方ができているかの心配はあります。

 *……「鈴木裁判」は、コミックでは6巻と7巻で、ドラマでは、第9話と最終の第10話で取り上げられている。長谷川博己さん演じる鈴木先生の“できちゃった婚”は罪に当たるか否かを、夏休み中の2−Aの生徒たちが裁くという内容で、ドラマを締めくくるにふさわしいエピソードだった。

 −−どのようなことをアドバイスなさったのですか?

 台本を書く前の段階で、勝野ユウジのキャラクターが分からないと、河合監督や脚本の古沢(良太)さんから質問されたので、それについてかなり長いメールを送りました。それをふまえて古沢さんが作ってくださった台本では、僕がマンガに込めたかったことが、より直接的に表れたユウジの造形になっていました。

 −−ユウジは、まじめ過ぎたがゆえに社会から落ちこぼれてしまったわけですよね。

 確かにそうなんですが、彼は、自分だけが不幸だったらなんとか我慢できるキャラなんです。でも、そこが悪魔のささやきでもあるんですが、友人のことだからと言い訳ができたことで、壊れるのを自分に許すことができてしまった。もともと自分の中に壊れたいという思いはあったでしょうけれど、“あの出来事”さえなければ、苦痛を抱えたまま、なんとか普通に生きていけた人間なんです。

 −−そのユウジを演じていたのが、風間俊介さんです。

 河合監督は、最初から、彼しかユウジを演じられる俳優はいないとおっしゃっていたそうですが、本当にその通りだと思います。実際の風間さんは社交的な方ですが、そういう彼の中にも、普段は考えてもみなかった自分というものがあって、それが演技を通して出てきた、そう思えるほど、見ていて痛々しいユウジになっていました。

 −−鈴木先生役の長谷川さんについてはどうでしょう。

 長谷川さんご自身が、テレビのときから変わったとおっしゃっていますが、どんどん渋くなっていて、いい意味で、カッコいいおじさんになってきている。それは、鈴木先生という役とともに成長しているからだと思います。ドラマの最後で「鈴木裁判」を経験して、それが芝居であっても、一つの大きな経験になったと思わせるぐらい、長谷川さんは変わりました。もちろん、サービスとしてドジなシーンも盛り込んでいますけど、全体像としては、成長した、“完成形の鈴木先生”という感じですね。

 −−小川蘇美役の土屋太鳳さんについてはいかがでしょう。彼女は、原作のショートヘアの小川とは違ってロングヘアです。違和感はなかったのでしょうか。

 最初に写真を見せられたときは、正直、「テレビっぽいなあ、こういうきれいな子になっちゃうんだ」と思いました。髪形も、最初は抵抗がありました。でも、ドラマの1話目を見たら大丈夫になりました。むしろ、今回の映画で、風で髪が舞うシーンがあるんですが、顔に髪が巻きついたりするのを見て、長髪でよかったなと(笑い)。太鳳ちゃんは、いわれたら髪を切る覚悟はあったそうです。誰かは分かりませんが、映画版のことを考えると、いわなかった人はあっぱれですね。

 *……小川蘇美は、鈴木先生が理想の教室を作るうえで必要な“スペシャルファクター”として位置づけている女子生徒だ。本人はいたってまじめで聡明(そうめい)だが、彼女を重要視するあまり、鈴木先生にしばしばよからぬ妄想をさせてしまう“困った存在”でもある。

 −−足子先生役の富田靖子さんについては?

 富田さんは、足子先生にはきれい過ぎるんですけど、でも、そのきれいさが気にならないというか、やっぱり無気味な人、怖い人に見える。富田さんご自身は、役作りに相当苦労していらしたそうですが、鈴木先生を見ていない感じなどを演技力で表現してくれた。今回の映画のラストで複雑な表情を見せるんですが、あれは本当に深みがある芝居で、僕が気に入っている場面の一つです。

 *……足子先生は家庭科担当教師で、教育方針の違いから鈴木先生としばしば対立。ドラマでは、鈴木先生に対する憎しみが激化。最終話で、ついに“壊れ”、休養を余儀なくされたが、今回の映画で職場復帰する。

 ◇鈴木先生のモデルはイエス・キリスト!?

 −−そういえば、なぜ鈴木先生は、ループタイなのでしょう。

 マンガにも描きましたが、僕の祖父が着けているのを見て、カッコいいと思ったんです。だから本当に20歳のころにはやらせようと僕自身−−マンガでは仲間がいたことになっていますが、実際は僕一人で着けていましたが、全然はやらなかった。今回、鈴木先生を最初に描くとき、アクセントになっていいじゃん、ということで着けさせてみました。

 −−「鈴木先生」に登場するキャラクターにはモデルはいるのでしょうか。

 個人的なモデルはいません。ここ10年くらいの僕の経験を基に、いろんなものをないまぜにし、作り上げました。

 −−鈴木先生は、イエスと「マハーバーラタ」(古代インドの叙事詩)のクリシュナ(ヒンズー教におけるビシュヌ神の8番目の化身)がモデルだとお聞きしたのですが。

 それはそうです。いろいろいるモデルの中でも一番、高尚なのが、その2人です。僕は、青山学院大学に在学中、結構まじめに聖書の授業にも出ていました。もともと「古事記」や日本の神話に興味があったので、それと結びつけてネタにしようと勉強していたんです。そのうち、精神的問題として興味が芽生えてきたのと、ちょうどそのとき、ピーター・ブルック監督の「マハーバーラタ」(89年)という映画を見て、それも素晴らしかったので、宗教的なものに興味が向くようになりました。僕は、特定の宗教に傾倒しているわけではありませんが、宗教的なものに対する興味は、今の世の中、必要だと思っています。イエスとクリシュナは、宗教的な内容もありますが、特に、人をつまずかせる役なんです。例えば、人間の世界に彼ら(のような人間)を入れることで、周りがうまく隠していたことがあからさまになっていく、そこから自分を守ろうとすると、クリシュナの場合がそうですが、クリシュナを攻撃した人は、だいたい自滅していくんです。

 −−鈴木先生はそこまで危険ではないですよね。

 壮大な話を、規模を小さくして、日本の現代の普通の中学校の話に置き換えているから影響は少なくなっているんですけど、その割に先生が2人ぐらい消えてますし、そのあたりは、原作ファンの“アンチ鈴木先生”派の人たちは、鈴木先生は“壊し屋”だと面白がってくれているようです。

 −−改めて、原作者だからこそ語れる映画版の見どころを。

 一つ挙げるなら、生徒会選挙で、立候補者が語っているせりふの内容そのものですね。あんなにストレートに、テーマをみんながはっきり口に出している作品も少ないと思います。普通、政治などを扱った社会派のエンターテインメントは、政治家たちを揶揄(やゆ)したり、巨悪を暴く内容になっています。そうした作品の場合、観客は気楽に見ていられますが、「鈴木先生」は、選挙に立つ人の問題で、観客にも問題を突きつけていく。そういう社会派作品でありながら、河合監督はじめみなさんがエンターテインメントとして楽しめるように作ってくれた。メジャー映画としてのどっしり感もある中で、でも、そこらへんの主張バリバリのインディーズ系映画よりかなりとがっているぞ、という、この組み合わせの妙は、ちょっとほかにないと思うので、そこを味わってほしいですね。

 −−原作ファンにはなんとアピールしますか?

 設定が2−Aに置き換えられているので、キャラクターが縮小され、マンガでの大事な人物が出てこないというのはありますが、それはそれとして、あのせりふが、あのシーンが、役者さんや監督によって、かなり洗練された状態で表現されています。このマンガが本屋に並んでいることもすごいんですが、内容的にかなりエグい。足子先生のブラインド処理もコミカルに表現していますが、意外と危険なネタだと思います。その辺も含めて、こういうものが劇場でかかっているんだということを、リアルタイムで共有してほしいですね。

 <プロフィル>

 1970年、佐賀県生まれ、東京都出身。94年、青山学院大学文学部2部教育学科卒。97年、「屋根の上の魔女」でマンガ家デビュー。その後、アシスタントや別名義で成年作品を発表したり、劇団員などを経験し、05年から本格的にマンガ家活動を再開。この年、「鈴木先生」前後編がマンガ誌「漫画アクション」(双葉社)に掲載され話題になる。06年から「鈴木先生」の連載開始。07年、同作で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。11年、「鈴木先生」連載終了。現在は、マンガ誌「コミック アース・スター」(アース・スター エンターテイメント)で「惨殺半島 赤目村」を隔月で連載中。初めてはまったポップカルチャーは、ロボットアニメの「マジンガーZ」と特撮ドラマ「仮面ライダー」とか。

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