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さよならドビュッシー:利重剛監督に聞く 「今、お前がやるべき作品だ」といわれたように感じた

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 「貞子3D」「桐島、部活やめるってよ」などの話題作に出演した橋本愛さん主演の映画「さよならドビュッシー」が26日から全国で公開中だ。メガホンをとったのは、俳優としても活躍し、「クロエ」以来、約10年ぶりの監督作となる利重剛さん。原作小説が持つトリックの面白さ以前に、活字からありありと伝わってくる、作者・中山七里さんの「書きたいのは、音楽の演奏シーンなんだという思い」に映像化の魅力を感じ、監督のオファーを引き受けたという。脚本も、牧野圭祐さんとの共作という形で担当した。利重監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

 原作となった中山さんの小説は、第8回「このミステリーがすごい!」で大賞に輝いた。祖父の家が火事になり、祖父と、仲よしだったいとこを失い、自らも全身に大やけどを負った女子高生・香月遥(橋本さん)。遥は祖父の遺産相続問題に巻き込まれ、何者かに命を狙われながらも、ピアノ教師・岬洋介の指導のもと、コンクール入選を果たそうとする姿を描く音楽ミステリーだ。

 原作を読むと、ピアノ演奏の様子や、奏でられる音色の表現など、中山さんの音楽に対する愛情が確かに伝わってくる。その愛情を利重監督は「パッション」と表現するが、それを感じる文章だからこそ、映像化の難しさをはらんでいた。例えば活字の場合、「素晴らしい」とあれば、そのイメージは読み手の想像力に委ねられるが、映画の場合は「本当に素晴らしい演奏を見せなければならない」からだ。

 さらに、足をすくわれかねなかったのが、ピアノそのものだった。「ピアノというのは流線型で、しかも鏡面なので、どこから向けてもカメラが映ってしまう。音も揺れるし、映画に乗せるのは難しい楽器」なのだという。しかし、「映画作りは大変なこと。難しいことをやらないと面白くない」と日ごろから考えている利重監督。前作「クロエ」でピアノを扱っていたことも自信となり、結局、「ものすごく高いハードル」に挑んだ。

 困難に挑ませたものに、師と仰ぐ故・岡本喜八監督の言葉がある。それは「原作を読んで、1行でも2行でもいいと思ったところがあったら、そこを取っ掛かりに努力してみろ」「監督が自分からできないというのは、人間として許せないことや、モラルとして許せないことがあったときだけ。それ以外、監督は、ただ、ただ面白いことを考え、アイデアを出し続ける人間なんだ」というもの。今回オファーがあったとき、その言葉を思い出した。「岡本監督からの『絶対にやれ、今、お前がやるべき作品だ』というメッセージみたいなもの感じた」という。

 俳優と向き合うときは「こう演技してくださいと当てはめるのではなく、その人の持ち味がぐっと出るような演出方法」を常に模索しているという。そんな利重監督に、橋本さんについてたずねると、「きれいとか、可愛いだけじゃない。あどけなさもあるし、緊張感のある精神状態も表現できる。いろんな表情を持っている」と称賛する。今作ではそんな橋本さんの「いろんな面を映せたと思っている」と仕上がりに自信を見せる。

 また、テレビドラマ「のだめカンタービレ」や映画「神童」で、主演俳優のピアノ演奏の吹き替えを担当し、今回の岬洋介役で俳優デビューを飾った、“クラシック界の貴公子”と呼ばれるピアニストの清塚信也さんについては「素晴らしいの一言。今、日本一の俳優です」と絶賛。その言葉を裏付ける“証言”として、撮影中、クラシックに詳しくないスタッフからは、「やたらピアノのうまい俳優さん」との声が上がり、また、素性がピアニストと分かってからは、「なるほど、どうりでピアノがうまいわけだ……って、演技うまくない?」と驚かれたエピソードを披露した。

 苦労したシーンに「遥じゃないけど、ギリギリの精神状態でやっている感じだった」と表現する終盤のコンクールの場面を挙げ、楽しかったシーンに指導者としての顔も持つ清塚さんからアイデアをもらうなどして、「2人で一緒に作り上げていった」というピアノのレッスンシーンを挙げる。

 言葉の端々から、映画製作が好きで好きでたまらないという「パッション」が伝わってくる。その映画というものは、「奇跡の瞬間を待って撮影しているところがある」という。それだけに「役者さんと話し合って、生の触れ合いがあって、役者さん同士の化学変化というか、その一瞬にしか出てこないものを画面に収めたい」と力説する。

 そのかたわらで、角度によって中に入り込んだ鉱物が十字架のように見える石をわざわざ特注したり、出演作「金田一少年の事件簿」や「劇場版SPEC~天~」の堤幸彦監督にゲスト出演してもらったりと、細部には味な計らいが施されている。それを指摘すると「細かく見ていただくと、ちゃんと作っているんだと思っていただける作品」と答え、また、ミステリーらしく「1度目より2度目の方がより面白く見ていただけるはず」と笑顔でアピールする。そして、「とにかく、多くの方に面白いと思ってもらえるよう全身全霊で作りました。ぜひ見ていただいて、楽しんでもらえたらうれしいです」とにこやかにメッセージを送った。

 <プロフィル>

 1962年生まれ、神奈川県出身。高校3年生のとき、ブラックコメディー「教訓1」(80年)を制作。それが故・大島渚監督より絶賛され、「ぴあフィルムフェスティバル」で上映される。81年、母で脚本家の小山内美江子さんが脚本を手がけたドラマ「父母の誤算」で主演し俳優デビュー。また同年、岡本喜八監督の映画「近頃なぜかチャールストン」で主演、共同脚本、助監督をこなした。89年、脚本・監督作「ZAZIE」を発表。以降、「エレファントソング」(94年)、「BeRLiN」(95年)、「クロエ」(02年)などを発表。俳優としても「ATARU」「チーム・バチスタ」シリーズなど数々のテレビドラマ、映画で活躍している。初めてはまったポップカルチャーは、「映画を挙げていいのであれば」と断った上で、小学校6年生のときに見たというスティーブン・スピルバーグ監督の「続・激突! カージャック」(74年)を挙げた。

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