クラウド アトラス:ウォシャウスキー姉弟とティクバ監督に聞く「地球崩壊を防ぐのは愛しかない」

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 六つの時代と六つの場所で、それぞれの人生を生きる人々。彼らは一見無関係のようでいて、実は密接にかかわり合っている……英国の作家デビッド・ミッチェルさんの小説を映像化した「クラウド アトラス」は、トム・ハンクスさんら俳優たちがエピソードごとに異なる人間を演じるなど、野心的な作品だ。メガホンをとったのは、「マトリックス」シリーズで知られるラナ&アンディ・ウォシャウスキー姉弟監督と、「ラン・ローラ・ラン」(98年)や「パフューム ある人殺しの物語」(06年)などを手掛けてきたトム・ティクバ監督。作品のPRのために1月に来日した3人の監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 「映像化不可能といわれている小説だからこそ撮りたかった」と、インタビューの前日に開かれた記者会見で、口々に同じことをコメントしたウォシャウスキー姉弟とティクバ監督。

 映画「クラウド アトラス」は、19~24世紀の、500年にわたって描かれる壮大な物語だ。ここで俳優は、ある時代では医者であり、ある時代では安ホテルの支配人であり。またある時代では作家、別の時代ではヤギ飼いを演じるなど、1人で何役もこなすことで、魂の成長、あるいは魂の進化を具体的に見せていく。そんな難役に挑んだのが、ハンクスさん、ハル・ベリーさん、ジム・ブロードベントさん、ペ・ドゥナさん。さらに、スーザン・サランドンさんやヒュー・グラントさんといった名優たちも姿を見せる。

 「トムは、こういう役のオファーはまず来ないから、楽しんでやってくれていたよ」と撮影中のハンクスさんの様子を振り返るアンディ監督。それをラナ監督が「ほかの俳優もみんなが楽しんで、それぞれの役をやってくれていた。彼らはいろんな顔を持ち、主役だけでなく脇役も演じた。とくにヒューは、脇役として周囲に溶け込んで演じてくれていたわ」と補足する。確かにグラントさんは、牧師やホテルの警備員、弟に恨みを持つ男、人食い族の首長といった脇役を、楽しみながら演じているように見えた。

 製作期間は4年に及び、そのうち撮影期間は60日間だけだった。効率的に撮るために、撮影チームは、ウォシャウスキー姉弟チームとティクバチームの二手に分かれた。だが、常に連絡を取り合い、それ以外でも、「3人一緒に(脚本を)書き、デザインして、編集し、同じだけの量の仕事をした」ことから、「作品を分けた感覚はまったくない。あくまでも3人で撮った1本の映画」と、アンディ監督は力説する。

 500年に及ぶ時間の中で、人間は“進化”していく。それはイコール、魂を進化させていくことでもある。そうしたことは、「人間一人だけでできることではなく、他人と一緒になって初めてできることだ」と、ティクバ監督は主張する。その言葉を引き取りラナ監督がいう。「物語の中核にあるのは、物事は変わるのか、私たちは変われるのかということ。いろんな状況を考えることで、ほかの可能性も生まれてくる。私たちの『マトリックス』3部作のテーマも、まさしくそれでした。それがより進化した形が、この『クラウド アトラス』には登場するのです」

 魂を、愛の観点から語るのはアンディ監督だ。アンディ監督は「私たちは、魂というものをどういう尺度で測るのか。それは、私たちが、どれだけ人を愛せるかということにかかっている。今の私と、妻と会う前の私とでは魂が違う。つまり、他人に愛されることで、自分の中の愛の容量は大きくなるのです」と自身の経験を語り、今作は「ほかの映画同様、愛が重要なメッセージであり、(原作者の)デビッド・ミッチェルが描く地球崩壊を防ぐものは、まさしく他者に対する愛以外ないのです」と訴えた。

 今作の仕上がりについて「経験は人それぞれ違いますが、皆さんには親しみを感じてもらえる作品だと思っています」とティクバ監督が自信を見せると、ラナ監督は「私たちは、慣例や通例といったものが嫌いです。今作においては、一人が何役も演じたり、ナレーションを取り入れたりといった、従来のほかの作品ではあまりやらないことに挑戦しています。でも、だからといって敬遠せずに見てほしい」とアピール。アンディ監督も、多分に哲学的かつ深遠なストーリーを持つ今作について「どんな芸術作品も先入観は禁物。ぜひとも魂を解放し、作品を感じてほしい」と力を込めた。映画は15日から全国で公開中。

 <ラナ&アンディ・ウォシャウスキー監督のプロフィル>

 ラナ(65年)、アンディ(67年)はともに米シカゴ出身。2人で脚本を書いた「暗殺者」(95年)が、シルベスター・スタローン主演で映画化。96年、脚本と製作総指揮も務めた「バウンド」で監督デビュー。監督、脚本、製作を務めた「マトリックス」3部作(99年、03年)で一躍名をはせ、08年には「スピード・レーサー」を監督、脚本、製作。ほかにプロデュース作として「Vフォー・ヴェンデッタ」(脚本も担当、05年)、「ニンジャ・アサシン」(09年)がある。

 <トム・ティクバ監督のプロフィル>

 1965年生まれ。ドイツ出身。93年、「マリアの受難」で監督デビュー。98年、「ラン・ローラ・ラン」が脚光を浴び、世界的に名前を知られるように。02年には、ケイト・ブランシェットさん主演の「ヘヴン」を監督。06年には監督作「パフューム ある人殺しの物語」を発表。他の監督作に「ザ・バンク 堕ちた巨像」(09年)がある。

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