注目映画紹介:「舟を編む」 辞書編集部に配属された青年のコツコツ生きる姿に励まされる

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 12年の本屋大賞第1位に輝いた三浦しをんさんのベストセラー小説の映画化「舟を編む」が13日に公開された。「川の底からこんにちは」(2010年)の石井裕也監督が手がけた。舞台は出版社の辞書編集部。時代に流されずコツコツと生きる人々への応援歌のように励まされ、胸に響く。原作同様、コミカルだが泣ける一作。

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 玄武書房の辞書編集部の編集者・荒木(小林薫さん)は監修の松本先生(加藤剛さん)と頭を抱えていた。間もなく荒木が定年退職を迎えると、編集部はお調子者の西岡(オダギリジョーさん)と契約社員の佐々木(伊佐山ひろ子さん)のみになってしまう。そこで営業部の変わり者・馬締光也(松田龍平さん)を引き抜いてくる。細かい作業が得意な馬締は、松本先生の言葉に感銘を受け、新しい辞書「大渡海」の編さん作業にまい進する。プライベートでは、大家の孫娘で板前修業中の香具矢(宮崎あおいさん)を好きになったが、思いを伝えられない。さらに、「大渡海」出版中止のうわさが流れて……という展開。

 原作は複数の人物が一人称で書かれていたが、映画では主人公の馬締を中心に据えた。多少キャラクターを変えているが、それが映像的に生きている。松田さんはハマリ役で、営業部では変人扱いだった馬締が辞書編集部でジョブマッチングしている様子を繊細に描き、よりテーマを浮き立たせることに成功している。加藤さんの「松本先生」は上品でありながらコミカルで意外性あり。石井監督は、人物の風変わりさをわざとらしく強調したりせず、懸命に生きる姿に温かい目を送り、愛情を持って演出している。1990年代の衣装も懐かしく、丁寧に描かれた時間経過の中で馬締が成長していく姿が頼もしく映る。辞書編集の同じ舟に乗っている気持ちで見ていくうちに、生涯の仕事に出合えた人の幸福感、何年もかかって仕事を成し得る充実感も味わえた。13日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開中。(キョーコ/毎日新聞デジタル)

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