ブック質問状:「怪獣文藝」 菊地秀行、佐野史郎らの“怪獣愛”が爆発

「怪獣文藝」(メディアファクトリー)のカバー
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「怪獣文藝」(メディアファクトリー)のカバー

 話題の書籍の魅力を担当編集者が語る「ブック質問状」。今回は、作家の菊地秀行さんや山田正紀さん、俳優の佐野史郎さんらの怪獣をテーマとした小説を集めた「怪獣文藝」(メディアファクトリー)です。メディアファクトリーの似田貝大介さんに作品の魅力を聞きました。

ウナギノボリ

 −−この書籍の魅力は?

 菊地秀行さんの「怪獣都市」から始まり、牧野修さんの「穢い國から」、佐野史郎さんの「ナミ」、山田正紀さんの「松井清衛門、推参つかまつる」、雀野日名子さんの「中古獣カラゴラン」、小島水青さんの「火戸町上空の決戦」、吉村萬壱さんの「別の存在」を掲載しています。現代物あり時代物あり、未来を舞台にした作品や、どこともしれない土地を舞台にした作品があり……。驚くほどバラエティー豊かで、どの作品にも作者の“怪獣愛”があふれています。

 成田亨や本多猪四郎、円谷英二らを輩出した東北地方に“怪獣ニッポン”のルーツを探究した黒木あるじさんのルポルタージュも必見。佐野史郎さんと赤坂憲雄さんの対談では、民俗学的見地から「ゴジラ」をはじめとする怪獣映画を読み解き、そこに通底する日本神話からの影響などを語っていただきました。

 夢枕獏さんと樋口真嗣さんの対談は、少年時代から特撮映画が大好きだというお二方に世代を超えて、怪獣への熱き思いをぶつけ合っていただきました。「大江戸恐龍伝」を執筆中の夢枕さんと、平成「ガメラ」シリーズや「巨神兵東京に現わる」の樋口さんのそれぞれの“怪獣観”の違いを味わってください。ラストは編纂(へんさん)者の東雅夫さんによる怪獣文学史講義。古事記から最新のエンターテインメント作品まで、日本文学に描かれた怪獣イメージの変遷が解説されています。

 −−作品が生まれたきっかけは?

 普段は怪談専門誌「幽」の編集をしていまして、同誌にご寄稿いただいている作家の皆さんには怪獣、特撮好きがとても多いのです。そして「幽」編集長でもある東さんも熱烈な怪獣ファンで、すでに「書物の王国17 怪獣」(国書刊行会)や「怪獣文学大全」(河出文庫)といったアンソロジーを企画していました。

 そこで、以前から、「幽ブックス」でも怪獣をテーマにした本を作りたいとたくらんでいました。今回、こうして形になったきっかけの一つは、東日本大震災にあります。本書にもご参加いただいた赤坂さんが震災直後、文芸誌に発表された「海のかなたより訪れしもの、汝の名は」(津波やゴジラなどについて書いた論考)に、東さんも私も大感動して刊行を決断しました。

 −−参加されている作家さんの選定理由は?

 とにかく怪獣が好きであることです。小説やルポルタージュ、対談に参加いただいた方はもちろん、イラストレーター、デザイナーまで全員怪獣が大好きです!

 イラストに関しては、われらの“怪獣体験の原風景”というべき光景を、カバー用に描き下ろしてくださったのは、怪獣絵画の第一人者である開田裕治さん。東さんの熱望によって実現しました。また、表4のイラストは、天野行雄さんによるオリジナル怪獣「ゴゴラ」の解剖図です。こちらもレトロテイストがたまりません!  カラー口絵の絵物語は、黒史郎さん+山下昇平さんの「怪獣地獄」と、松村進吉さん+天野さんの「さなぎのゆめ」。往年の少年マガジンなどに掲載されていた巻頭グラビアをイメージしています。

 −−編集者として、この作品にかかわって興奮すること、逆に大変なことについてそれぞれ教えてください。

 一定の世代の方には、一目で分かっていただけると思いますが、故・大伴昌司氏が手がけた怪獣図鑑や雑誌、豆本をイメージして作りました。私自身、そうした書籍が大好きでしたので、デザイナーさんやイラストレーターさんとのやりとりも、常にハイテンションだった記憶があります(笑い)。

 そして、あふれんばかりの怪獣愛が伝わる作品が届くたびに、興奮して拝読いたしました。中でも佐野さんの書き下ろし小説「ナミ」が読めるのは貴重です。企画が本格的に動きだすまでの時間は長かったですが、後は楽しい作業ばかりでした。

 −−最後に読者へ一言お願いします。

 怪しく不気味な怪獣たちの物語が詰まっています。「ウルトラQ」や「トワイライトゾーン」が好きだったという方に、ぴったりの一冊です。特撮、怪獣を愛し、文芸を愛する方々へささげます!

 メディアファクトリー ダ・ヴィンチ編集事業部 似田貝大介

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