半沢直樹:プロデューサーに聞く「倍返し」秘話、タイトルへ込めた思い

視聴率が右肩上がりを続けるドラマ「半沢直樹」
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視聴率が右肩上がりを続けるドラマ「半沢直樹」

 俳優の堺雅人さんが型破りの銀行マンを演じ、右肩上がりの視聴率で2週連続30%超えを記録している大ヒットドラマ「半沢直樹」(TBS系)も、残すところあと2話。同ドラマの伊與田英徳(いよだ・ひでのり)プロデューサーに、ドラマタイトルの意味や決めぜりふの「倍返し」誕生秘話や流行語大賞について、ドラマ演出の工夫、キャラクターへの思い入れなど、気になる質問をすべてぶつけてみた。(毎日新聞デジタル)

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 −−連続ドラマでサラリーマンものをやろうとしたきっかけ、原作に池井戸潤さんの作品「オレたちバブル入行組」と「オレたち花のバブル組」を選んだ理由と経緯は?

 ジャンルを意識して作品を選んだわけではなく、監督の福澤さんに「池井戸さんの本が面白い」と勧めてもらって、自然な形で原作と出合った。読んでみたらすごく面白くて、スカッとして、展開に紆余(うよ)曲折が激しくあって連ドラ向きのストーリー。(直感的に)堺(雅人)さんがやったらいいんじゃないかと思った。

 −−サラリーマンものを意識したわけではない?

 サラリーマンもの、経済ものといわれているが、基本的には「半沢直樹」という人の生き様を描いているドラマです。悪いことをしているやつとか、自分に罪をなすりつけようとするやつは許さない、という彼の生き方を描いた舞台が、たまたま銀行だった。そうはいっても、連ドラのターゲットが女性になるのは間違いないので、ジャンルとして見てもらいにくいことは分かっていた。

 −−ドラマのタイトルが人名の「半沢直樹」になった理由は?

 ひとつは、半沢直樹という人の生き様を描きたいと思ったので、タイトルに人名を使ったということ、もうひとつは、原作に2作品を使うのに、途中で名前が変わるのは具合が悪いので(原作タイトルを使わず)一つに統一した。僕らとしては、半沢という人が少しずつ、課長から次長になって、できれば部長、ゆくゆくは社長、となっていくと考えたとき、(ドラマタイトルが)「半沢直樹」という名前の方がいいんじゃないか。先のことは決まっていないけれど、ひとつの骨となるタイトルがあるといいなと思った。そういう感じだと面白いじゃないですか。

 半沢は、敵を助ける代わりに「自分を出世させろ」とか、善人のような悪人のような、でもそれも理解できる。最初から善人も悪人もいない。両方を併せ持って、人助けをし、悪を成敗している。勧善懲悪のようでいて、半沢は完全にいい人ではない。ちょっとそういう人間臭さがあって、面白いなとは思っていますね。

 −−過激な発言を連発する半沢。嫌われないようにする演出上の工夫はあった?

 過激な発言は振り幅が大きい。そのあたりは、堺さんがうまく作ってきて、演出と相談しながらやっています。今回ラッキーだったのが、悪役たちが、悪役然として強かったこと。堺さんの演じる半沢も強くすることができた。キャスティング、役者の力もあるし、そもそもそんなキャラクターを作った原作の力もある。

 嫌われないような工夫はないですね。悪いやつは悪いんだから、とことん相手をやっつけるのが半沢。罪をすり抜けようとする人は徹底的に許さない。谷底まで落としきるという強さが逆にいいんじゃないか。でも(嫌われないようにという)配慮くらいはあるかもしれない。半沢は自分の悪い所を認めている人に対しては割と優しくて、それはきちんと描いています。生まれたときから悪いやつはいないというのが僕のポリシーなので、最終的にはハッピーエンドで終わりたいというのが無意識に働いているかもしれません。

 −−なぜここまで人気が出た? どこでブレークと感じたか?

 僕らも分からないですよ。正直言っちゃうと僕らも驚いている。手応えを感じたから数字がいいということもない。数字は化け物なので、出るまで信用しない。でも、そういいながら、自画自賛になるけれど、台本を作ったときに、いけそうだと思った。その後堺さんに演じてもらい、現場で堺さんの迫力に圧倒され、悪役も、なかなか一筋縄ではいかない。試写会での反応もすごく良くて、池井戸先生にも褒めてもらって、オンエアされたらいろんな方からメールをいただいた。考えると、着実に階段を上がった気がする。

 −−原作者・池井戸さんの反応は?

 よかったと言っていただいた。池井戸先生から「原作は経済小説という面もあるけれども、経済を使った時代劇。それをちゃんとくみ取って、良く作っていただいた」と言ってもらえて、僕らもうれしかった。

 −−原作では1、2度しか出てこない「倍返しだ!」という言葉が決めぜりふになったのはなぜ? その言葉を選んだ決め手は?

 映画やスペシャルドラマだったら(決めぜりふは)1回しか言わない。本でもそうです。でも、連続ドラマとして、5回、10回も時間をかけて描いていくことを考えると、自分が心に残った言いたいことをちりばめて、視聴者にうまく伝えていこうと思った。「倍返し」という言葉は、原作の中で一番印象的だった。

 企画を立てるときには「悪いやつを許さない男」と書きました。ドラマの台本には(せりふとして)「倍返し」はあるんですが、企画を出すときに「倍返し」だけだと分からない。ドラマは銀行の中をきれいにしていくというのも大きなテーマだから、ポスターやホームページのキャッチコピーは(「倍返しだ!」ではなく)「クソ上司め、覚えていやがれ!」にした。普通はなかなか思っていても上司に文句は言えないでしょ(笑い)。

 −−ここまで「倍返しだ!」がはやると思いましたか? 流行語大賞を狙えると思いますか?

 もちろん、流行語と言ってもらえるのは、ドラマが評価されているということで、うれしいと思いますが、そのために作っているのではないので(笑い)。まずは見てもらう方に、ドラマの時間をどれだけ楽しくスカッとして見てもらうかに尽きるので、僕らはそれを真面目にやっていきます。

 −−半沢を演じる堺さんについて。

 「半沢直樹」を“絶対的主役”として堺さんは演じきってくれている。最近は「堺さん」というよりも、「半沢さん」と呼びたいくらい。役者の芝居を信じているので、演出は割と超オーソドックスです。だから、ドライ(リハーサル)が普通より長かったりするのが、強いて言えば演出の特徴かもしれない。それで、役者に芝居を固める、作り込んでもらう。なので、逆に本番撮影は短かったりします。

 −−「半沢直樹」は現代におけるどういう存在?

 なれないけれど、こうなれたらいいなというあこがれ、という感じでしょうか。理想像、ある種ヒーローではあるけれど、こんなことしたら後で大変です(笑い)。

 −−半沢の妻・花の役割は?

 ドラマでは「裁量臨店(さいりょうりんてん)」など、銀行の専門用語をビシバシ入れているが、意外と伝わるんじゃないかと思っている。一方で、それを分からない立場として上戸(彩)さんが演じた妻の花という人がいて、半沢が分かりやすく説明するのに、狙ったわけではないが役立った。奥さんはだんなさんの仕事をよく分かっていない(笑い)。説明しても分からないことが多いというどこの家庭でもある様子を、演出として説明に使っている。上戸さんも、あれだけざっくばらんな役をうまく魅力的に演じてくれた。あれだけ強い半沢が、家に帰ると奥さんに弱くて、奥さんには全然理屈が成り立たないのが面白い。

 −−半沢と敵対するキャラクターについて。

 芸達者な方に集まっていただいている。川原和久さん演じる京橋支店長の貝瀬とか、手塚とおるさん演じる古里とか、悪役だけれど小物感もあっていい。取引先の倍賞美津子さんの羽根専務は、もともと(原作では)男の人の役だったんですが、女性にして、さらに勝手に独身の設定にしている。ホテルを愛して、仕事がすべてでのし上がってきた人が陥ってしまった悪という存在で描いています。香川照之さんの大和田常務の演技は見応え十分。理詰めにバチッと決めた原作にはない鋭い悪で抜け目ない。

 −−注目を集めている片岡愛之助さん演じる黒崎については?

 “オネエ”なんて、キャラクターとして面白いですよ! 池井戸先生に(理由を)聞いても「何でだろう」という(笑い)。(原作ではこんなに出番はないが)キャラクターが際立っていたので、初めから登場させた。前半、国税局が出てきて、よく調べると金融庁から国税局への出向もあるということで、出すことにした。

 ドラマで描くときは悩みましたが、この役ができるとすると、“オネエ”を変にちゃかすわけでもなく、威風堂々とできる人といえば、歌舞伎の役者さんだと思った。男の人が女役をやることがあるという世界観にいらっしゃる人がやったらリアリティーがあると思って、片岡愛之助さんにオファーさせてもらった。

 −−そのほかのキャラクターについて。

 TKOの木下(隆行)さんの演じる白水銀行の油山は、原作のキャラクターに、大学時代の同期という設定を加えたオリジナル。敵の銀行だけれど、同期だったりすると距離が近くなって話せるという演出をちょっと足させてもらった。(滝藤賢一さん演じる)近藤は出番多いですね。バブル組の同期入社は、誰かが出世したら他は出世できないライバルなんですよ。でもお互いに協力し合いながら、近藤は“片道切符”といわれる出向先でどうしていくか、半沢はそれにどう接していくかを見てほしい。

 −−湯浅社長を(笑福亭鶴瓶さんの息子で俳優の)駿河太郎さんにしたのは?

 理屈じゃなくて、勘でキャスティングしているので何ともいえないんですが、湯浅社長は、ホテルの2代目社長として、甘えているわけではないけれど、設定上甘えている感じがあり、でもそこから脱却しようとしていく役。鶴瓶さんと何度か仕事をしていて、(駿河さんにも)会ったことがある。彼は人懐っこさがありながらも芯がぶれないんですよ。変な存在感があるんで、うまくこの役に合うんじゃないかとお願いしてみた。半沢を味方に付けていながら、半沢を裏切るんじゃないか?というところを演じてほしい。

 −−ドラマのファンへ、ひとことお願いします。

 堅苦しく考えずに、半沢と一緒にいろんな悪いやつを懲らしめてもらえれば。半沢の生き様に、自分の人生の生き様を重ねて楽しんでください。映画とか、できたらいいですね(笑い)。原作は続きますから意識はしますけれど、まだドラマでいっぱいいっぱいです。

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