桜 稲垣早希の補完計画：「カンナさん大成功です」　笑って読めるがラストで号泣

　アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のヒロイン・アスカの物まねで知られるお笑い芸人の桜 稲垣早希さん。「エヴァ」だけでなくさまざまなアニメやマンガ、ゲームが大好きという稲垣さんが、熱い思いを語ります。（毎月25日更新）

ウナギノボリ

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　今回は鈴木由美子さんの「カンナさん大成功です」です。鈴木由美子さんといえば、「白鳥麗子でございます！」で有名ですが、私はドラマの方の白鳥麗子も見てたくらい好きで、当時リカちゃん人形で“白鳥麗子ごっこ”をやってました。でも人形が足りなくて、哲也の役をドナルドダックのぬいぐるみにさせてたのでもうめちゃくちゃですが……。

　そしてある時、本屋さんに行ってカンナさんを見つけました。私は知らないマンガをよく、一か八かで1巻だけ買ってみることが多いのですが、その時は裏表紙を見ます。ここにあらすじが書いてあったり、絵が書いてあったりするのですが、「カンナさん大成功です」の裏表紙は、「ぜーんぶなおしたのーっっ　何百万円もかかっちゃったけどーっ…そうです　彼女は全身整形美人だったのです」というカンナさんが堂々と立っている場面をど～ん！と載せているので、「なんて内容がわかりやすい……。しかも鈴木由美子さんのだ！買おう～♪」となったのです。

　とにかくカンナさんは気持ちのいいマンガです。こんなに「ブス！」や「デブ！」という言葉を包み隠さず連呼するマンガも珍しいです。あらすじは主人公の、元々デブでブスな神無月カンナが思いを寄せる浩介くんを振り向かせるために全身整形をするのですが（この全身整形をカンナさんは全とっかえといいます）、外見はとてつもなく奇麗になったのに、ブスの頃のくせが抜けなくて、いろいろ苦労するという少女＋ギャグマンガです。

　今までの人生ではいいことが一つもなかったカンナさんですが、美人になってからはモテまくります。街を歩けば誰もが振り向く美人になります。今まで体験したことのない周りの優しさに初めは戸惑います。カフェに入ると空いててもお店の奥の奥の隅の方を案内されてしまってたカンナさんは、美人になってテラス席に座れただけで感動で泣きます。プリンアラモードに異物が混入されてないだけで感動です！　今までどんな目にあってきたのか……。ここらへんが極端に描かれてるから面白いです。

　カンナさんに出てくる他のキャラもすてきなんです。私が一番好きなのが“天然の美人”隅田川奈々子です。この人は全く手を加えることなく、生まれたときから美人です。靴ひもがほどけたときに自然と「ちょっと結んで」と言ったら、カンナさんもすかさず自然に結びます。天然美人のくせと元ブスのくせです。奈々子はとにかくいつも堂々としていますし、生まれもっての美人だから計算高くなく、裏表もなく、めちゃくちゃですが、すごくかっこよくて私は好きです。自動販売機の下に落ちてるお金を拾ってお汁粉を買って飲む時も堂々としててキラキラしています。これを見たカンナさんは、「美人はこうなんだ！」と勘違いし、浩介の前でわざと歯に海苔をつけて笑ってみたり、むちゃくちゃなわがままをしてどんどん嫌われてしまいます。この生まれたての勘違いっぷりもコミカルです。

　そして、浩介の彼女の荒川昌代も存在感でかいです。昌代は奈々子とは違いあまり可愛くありません。それでも、浩介の彼女なんです。昌代はものすごく二面性があり、浩介の前ではけなげで家庭的な女性を演じます。しかし裏では他の人と付き合ったり、カンナさんに嫌味を言ったり、結構なワルです。昌代はカンナさんを陥れ、カンナさんが昌代の悪口を浩介に言えばカンナさんが嫌われるという最悪な図式です。あと、超勘違いデブのカバコというでっかいキャラもいます。もう一人一人のキャラが濃いです。

　基本笑って読めるマンガなのですが、私は最終巻の最後で号泣でした。カンナさんは結局、整形してることを浩介に明かすのですが、浩介は戸惑って気まずくなって別れてしまいます。そこに、元々浩介のことが好きだった女性が浩介にアタックしますが振られてしまい、カンナさんに「あーあーあたしもだれかさんみたいに整形しよっかな～。整形でもして、てっとり早くおいしい人生手に入れよっかなー」と嫌みを言います。

　するとカンナさんは立ち上がり、「あんた……、自分の分だけ給食配ってもらえなかったことある？」「自分のいれてあげたお茶を気持ちわるいって捨てられたことある？」「明日は死のう明日は死のうって思いながら生きたことあるの！？」「死ぬ前に死ぬほど怖い整形して生きてみようって思わせてくれたのは浩介くんだよ、ありがとう」と泣きながら言うんです。もうこのシーンは今までのギャグ要素一切なしで、そしてそのギャップもあり涙なしでは見られません！！

　女の子なら一度は友達と「整形するとしたらどこしたい～？」とか「モデルの○○ちゃんみたいになりたいー」とかいう話題はするとおもいます。私も長年ペチャパイに悩んでいるのですが、このマンガを読んだら「もし整形したら奈々子のような天然巨乳さんに見破られるのかしら……」と思うと怖くてできないです……。でもなんだかすごく楽しい気分になるマンガなので、疲れてお肌荒れめのときに読むと元気になるかもしれません。全5巻なので瞬殺ですよ～！

　◇プロフィル

　桜 稲垣早希（さくら　いながき・さき）＝1983年、神戸市生まれ。07年2月に、お笑いコンビ「桜」を結成。07年の「M−1グランプリ」で3回戦に進出するなど活躍していたが、09年末に相方がコンビを卒業し、ピン芸人として活動。アニメ「エヴァンゲリオン」のヒロイン、アスカの物まねで知られ、バラエティー番組「ロケみつ」（毎日放送）でブレーク。「R−1ぐらんぷり」で4年連続準決勝進出を果たしている。最近ではバラエティー番組などでナレーションもこなすなど、芸の幅を広げている。