R100:松本人志監督、大森南朋さんに聞く 監督は「作品に向かわせる統率力、存在感のある人」

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 お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志さんの映画監督第4作「R100」は、とてつもなく刺激的で、ちょっと“アブナイ”R15映画だ。1人のサラリーマンが“謎のクラブ”に入会したことで平和な日常が脅かされる……そんなサスペンスフルで意味深なストーリーに挑んだ松本監督と、主人公のサラリーマン、片山貴文を演じた大森南朋さんが映画について、ポツリポツリとネタバレにならない程度に語った。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 抑えた色調。通信手段として登場するのは携帯電話でもスマートフォンでもなく、黒電話か公衆電話。自動車も昭和のにおいをぷんぷんさせ、カーチェイスも昭和の人気ドラマ「太陽にほえろ!」かはたまた「西部警察」を思い起こさせる。そもそも松本監督の頭の中には企画当初から「携帯電話が出てこない世界観」というのがあったのだという。

 「緊張感を持たせたいというか、コメディーぽく見られるようなものはできるだけ排除したいという思いがあったんですね。この片山という男が謎の世界に入っていくに当たって、ホラーではないんですけど、怖く、怖く、オカルトに持っていくためには、時代背景も昔のほうがいいんじゃないかと思ったんです。携帯やパソコンが出てくると怖さが薄れるし、なんでしょうね、あのくらいの時代が基本的に僕好きなんですよ」と説明する松本監督。かといって「明確に昭和何年の話というのではなく、なんとなく全体的にそうしよう」と思ったのだそうで、色味を抜くことも、コメディー色を薄めるとともに怖さを増大させ、「時代がひと昔前になって、独特の世界観が生まれるのでは」とのもくろみがあったからだ。

 そんな独特の世界観の中に放り入れられ、美しい女性たちからとんでもないサービスを受けることになる大森さん演じる片山。あるときはすし屋で、あるときは職場で、またあるときは家でと、その内容は次第にエスカレートしていく。あまりの過剰なサービスに耐えられなくなった片山はプレーの中止を求めるが、クラブには聞き入れてもらえない。ほとほと困り果てる片山だが、元をたどれば彼自身がそんな危険なクラブに入会したことが原因だ。いわゆる自業自得。しかし、演じる大森さんは、片山の気持ちはある程度理解できると話す。その心情を、「僕が想像しうるに、ですよ」と前置きして話し始めた大森さん。

 「実際にあったら困るなとは思うんですけど、彼にとってはそれが、最初のころは興奮することだったんだと思うんです。いわゆる“店舗型”のそういうクラブにも彼は行っていたであろうと思われ、そして到達したのがあそこなのではないかと。だから、淡々と粛々と生きているんですけど、そういうことを趣味にしている人って、いなくはないと思うんです。そういう意味では受け入れられましたけど」と言葉を選びながら共感を示す。そして実際演じることで、「たぶんあそこまでの濃厚なMではないとは思うんですけど、うっすらやっぱり俳優はMだ」と感じたという。

 その言葉に反応し、松本監督もまた、「監督はSなんでしょうね」と話し始める。「よく言うんですけど、監督はSで、撮り終わったあとの編集でMになるという感じはすごくしますね。僕らは奉仕に入っていくんですよね。全部自分が背負いますし、そこからいかにみなさんの要求を満たしていこうかと考えますしね」と自身の映画監督としての感覚について話す。

 そんな松本監督が「男のズルさとか男の二面性みたいなものが出ればいいなあ」と思って作ったという今作で、片山を翻弄(ほんろう)するデート嬢にふんしているのが、大地真央さん、寺島しのぶさん、片桐はいりさん、冨永愛さん、佐藤江梨子さん、渡辺直美さんといったそれぞれ個性を持った美女たちだ。それぞれがデザインの異なる目のやり場に困るようなボンデージファッションに身を包み、手を替え、場所を変えて片山にサービスをする。その内容はそれぞれ衝撃的だ。

 例えば佐藤さんの場合。彼女がすしをつぶし、それを片山が食する場面がある。撮り始めのころは「ネタによってはうまくつぶれないことがあり、割と難しかった」と松本監督はいう。佐藤さんは何度かやるうちにコツをつかんだそうだが、大森さんは「やっぱりできれば普通に食べたいものですけど、味はおすしです」といいながら、「佐藤さんというきれいな女優さんが、手でつぶしたすしを食べると思うと、確かに変な気持ちになった記憶はあります」と遠い目をしながら当時を振り返っていた。

 大森さんは、松本監督を「スタッフや俳優に、その作品に向かいたいと思わせる存在感というか、統率力というか、そういう雰囲気を持ち合わせている人」と評し、一方の松本監督は、大森さんを「本当にすべてがちょうどいいんですよ。なんていうのかな、ハンサム過ぎず、俳優として絶妙なバランスだと思いますよ」とベタ褒め。ならば今後、また大森さん主演で作品を撮るつもりがあるかと聞くと、「今度、僕がいったら(大森さんは)断ると思うので……」と弱気の発言。それを横で聞いていた大森さんはすかさず、「いや、やりますよ!」と必死にアピールしていた。

 今作には、松本監督自身が重要な役どころで登場し、大森さんと共演する場面もある。その場面を振り返りながら、「芝居で向き合ったときが(監督と俳優という関係でいるより)一番長い時間、目が合っていた気がする」と大森さんは話す。その場面での大森さんの、ちょっと恥ずかしそうな演技と、それを受けて説得力あるせりふを返す、役者としての松本監督。その場面も含め、なぜか映画関係者が登場し、作品について語り、見る者を「これは一体どういうことなんだ?」と沈思黙考させる今作。オカルトっぽくもあり、ファンタジーっぽくもあり、クスりとさせられる場面もある。そんな「R100」は5日から全国で公開中。

 <松本人志監督プロフィル>

 1963年生まれ、兵庫県出身。82年、お笑いコンビ「ダウンタウン」としてデビュー。以来、人気番組に多数出演。2007年、長編映画監督としてデビュー。1作目の「大日本人」は、同年のカンヌ国際映画祭監督週間に正式招待された。2作目「しんぼる」(09年)は約50の国際映画祭で上映され、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭で審査員特別賞など2部門で受賞。3作目「さや侍」(11年)もロカルノ国際映画祭などに正式招待された。12年にはフランスの映画の殿堂「シネマテーク・フランセーズ」で3作品の特集上映が行われた。

 <大森南朋さんプロフィル>

 1972年生まれ、東京都出身。96年のCM出演を機に俳優としての活動を本格的に開始。2001年「殺し屋−1−」で初主演。03年、「ヴァイブレータ」「赤目四十八瀧心中未遂」でキネマ旬報日本映画助演男優賞、ヨコハマ映画祭最優秀助演男優賞を受賞。そのほかの主な出演作品に「アキレスと亀」(08年)、「笑う警官」(09年)、同名のドラマを映画化した「ハゲタカ」(09年)、「スイートリトルライズ」(10年)、「犬とあなたの物語 いぬのえいが」(11年)、「東京プレイボーイクラブ」「ヘルタースケルター」(ともに12年)、「さよなら渓谷」(13年)などがある。今後、「捨てがたき人々」「利休にたずねよ」の公開を控える。6日に放送を開始したWOWOWのドラマ「LINK」でも主演を務める。

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