ダイアナ:オリバー・ヒルシュビーゲル監督に聞く「痛みを伴うラブストーリーに引かれた」

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 元英国皇太子妃ダイアナが王室を離れた後、1997年に36歳という若さで交通事故死するまでの約2年間に焦点を当てた映画「ダイアナ」が18日に公開された。心臓外科医ハスナット・カーン氏とのラブストーリーを軸に、地雷廃絶運動などに取り組みながら、自立していこうとする一人の女性の姿を描き出す。ダイアナを演じるのは英国出身の女優ナオミ・ワッツさん。髪形、メーク、衣装など細部まで徹底的に似せ、内面も繊細に演じている。「ヒトラー~最期の12日間~」のドイツ人監督オリバー・ヒルシュビーゲルさんが手がけた。このほど来日したヒルシュビーゲル監督に話を聞いた。(上村恭子/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 −−もともとはダイアナさんに興味がなかったそうですが、監督の依頼を引き受けた理由は?

 ギリシャ神話のようなストーリーに引かれたからです。「愛があれば乗り越えられる」といったものや、ハッピーエンドのストーリーではなかったので気に入りました。愛は痛みを伴うもの。愛が甘くあるためには、痛みも必要でしょう。私自身、悲恋や悲しいラブソングに引かれるのです。

 −−カーン氏との恋愛物語を描くにあたり、どんなことを心がけましたか?

 カーン氏についてはあまり知られていない方なので、彼や周囲の人へのコメントから、古風な紳士だと推察しました。心臓外科医という天職を全うしている大人の男性です。そんな男性が、人生で必要でないかもしれない恋愛に落ちるということに興味を持ちました。恋愛の心理を誠実に描き出すことが重要でした。

 −−ナオミ・ワッツさんを演出されてみていかがでしたか? ドレスや髪形だけでなく、地雷廃絶運動などの実際の報道写真や映像をリアルに再現しているシーンも見どころです。

 まさに秀逸な女優でした。彼女のこれまでの出演作品を見ると、そのキャラクターに成り切っているので、見ている側がナオミだということを忘れてしまうくらいです。ルックスを似せることも大事でしたが、内面の真実味はもっと重要でした。真実味が映画にエネルギーをもたらすからです。特に地雷廃絶運動のシーンは絶対に入れたかった。地雷廃絶は世界の各機関が訴えていたことなのに、なかなか前に進みませんでした。しかしダイアナさんは3日間アンゴラに行っただけで世界の認識を変えたのです。

 −−人道支援を行っているシーンに、ダイアナさんの人間性が見えました。

 ダイアナさんが世界のお手本になった瞬間はいくつかありますが、私が個人的に感銘を受けた有名な写真があります。それは、この映画で描かれる時期より以前のもので、ダイアナさんがエイズで死にかけている人の手を握っている写真です。エイズがどんな病気かもまだ明らかではなかった時代に、患者を訪問して手をとる。勇気があって、とても誇らしい瞬間です。そういう写真の中のようなダイアナさんを観客に見せたかった。

 −−監督がダイアナさんに共感する部分は、ほかにどんなシーンがありますかか?

 僕は男性なので、共感能力には限りがあって……でも男が女をよく分からないから、興味深く取り組めたのかもしれません。作品としては単なるリスペクト映画にしたくなかったので、ダイアナさんの魅力を多面的に描くよう心がけました。不安だったり、大胆だったりする部分。とても他人を必要としていて、認めてほしいと思っているところ。思いやりと愛があって、それを他人に与えることができるスピリチュアルなところ。僕は映画監督なので、かつらをかぶってお忍びで出かける役者のような部分が好きですが(笑い)。調べる中でさまざまな話を聞きましたが、世界中の女性が、今挙げたような魅力について本能的に分かっていたからアイコンになったのだろうと思いました。

 −−最後に日本の観客に作品のアピールをお願いします。

 愛を感じてください。思いやりの意味を感じ取ってほしい。若い観客の方には、名声を得ることは孤独なことなのだと伝えたい。若い人は有名になることの意味を知らなくて、名声を得ることを目指す人が多いですよね。この映画からは、世界一有名な女性であるダイアナさんが嵐のようなパパラッチ攻撃に必死に耐えながら、孤独の中にいることを感じてもらえると思います。

 <プロフィル>

 1957年、ドイツ生まれ。2001年、「es[エス]」でモントリオール世界映画祭最優秀監督賞を受賞。2004年、ヒトラーの個人秘書の目を通して独裁者に迫った「ヒトラー ~最期の12日間~」が米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。

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