加瀬亮:「劇場版 SPEC~結~漸ノ篇」に出演 「SPECを持ったら悪いことに使う自信がある」

「劇場版 SPEC~結~」について語った加瀬亮さん
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「劇場版 SPEC~結~」について語った加瀬亮さん

 人気テレビドラマ「SPEC」シリーズの完結編となる映画版最新作「劇場版 SPEC~結(クローズ)~漸(ぜん)ノ篇」が1日に封切られた。「SPEC」は2010年にTBS系で放送された連続ドラマで、“SPEC”と呼ばれる特殊な能力を持った“SPECホルダー”と特殊な事件を専門に扱う“警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係”に所属する捜査官の当麻紗綾(とうま・さや=戸田恵梨香さん)とその相棒の瀬文焚流(せぶみ・たける=加瀬亮さん)らの戦いを描いた。今作は昨年公開された映画「~天~」に続くシリーズ完結編の前編公開にあたる。瀬文役の加瀬さんに話を聞いた。(遠藤政樹/毎日新聞デジタル)

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 「やっぱり最後の現場の寂しかったというのはあります。あまり予想していなかったのですが、思った以上に寂しかった」と完結編を迎えた心境について、加瀬さんは自身で意外さを感じたという。そういった心境ながらも「きちんとした形というか、いいなと思える形で終われたなというすがすがしさみたいなものはあります」と満足感もあるという。

 連続ドラマから始まり今作まで、物語上の時間も経過する中で瀬文を演じてきた。「同じ人物を演じるといっても、いつもそのときの自分から始めるしかないので、多分どの瀬文も少しずつ違うと思います」と加瀬さんは笑う。そして「『~結(クローズ)~』を始めるに当たって、プロデューサー、監督、戸田さんと話し合いがありました。なるべく連続ドラマから見続けてくれたファンのことを考え、そこに基づいたキャラクター設定にしてやっていこうと。連続ドラマを見直しましたが、一番変わったのは回を重ねるごとに最初は反発しあっていた2人が、今ではお互いを必要とし、信頼感が出来上がっているところだと思っています」と瀬文を演じてきての変化を振り返った。

 「~結~」の台本を初めて読んだときのことを、「最初の話し合いの段階では台本が仮の状態で、監督が『実はこういうラストを考えている』という話をし、その場にいるみんなが『それはいい』となりました。それまではどう終わるのかがまだしっくり見えていませんでしたが、監督の一言でそのときに終われると思いました」とラストが決まった経緯を明かす。話し合いによりだんだんと見えていったという展開には「長くやっていたからか、戸田さんと自分の意見を聞いてくれたのもめずらしいケースだと思います」と明かす。

 今作は「漸ノ篇」と「爻(こう)ノ篇」の前後編で公開。前編では竜雷太さん演じる野々村光太郎係長にスポットが当たるエピソードも展開する。「台本を読んだときは完成したもののようになるとは思っていませんでした。実際に現場でやってみたら『台本の感じに気持ちがならない』ということで、想像していた以上に野々村係長からいろいろなものを受け取っていたことに現場で気付きました。いつの間にかすごい大きな存在になっていたんだなと……」と瀬文としての心情を分析。続けて「いつも本番前は戸田さんと、当麻と瀬文ならこうやるはずという話し合いをするのですが、カメラの前に立つと全然違う気持ちが起きたりして、不思議な感覚でした」と撮影当時の心境を明かした。

 撮影現場の様子は「『SPEC』の現場はいつも精神的にはものすごく楽しくて、肉体的にはものすごいつらい」と冗談めかす加瀬さん。「『漸ノ篇』もそうですが、『爻ノ篇』に入るとコンピューターグラフィックス(CG)用にグリーンバックの前で演じることが多かったので、どういうことが本当は見えているのかということがつかみづらかったのはありますね」と苦労を語った。ちなみに物語の序盤に病室で瀬文が肉を口に突っ込まれるシーンについて、加瀬さんは「指示はなく、本物(の肉)が置いてあり、現場に入ったときからすごい異様なにおいがしているだけ(笑い)。初期の段階では本物の牛が使えるのかどうかという話し合いもありました」と笑った。

 「SPEC」は独特の世界観を持つ作品だ。加瀬さんは「連続ドラマの第1話を見たときからすごく新感触でした。いいかげんな部分と真面目な部分のバランスやキャラクター、音楽もそうですし、監督の持つスピード感やリズム感なのか、何度も見返したくなる中毒性のある映像だと思いました」と第一印象を語る。そして「なぜこんなに自分が引かれたのか考えると、当麻も瀬文もSPECホルダーたちも孤独を抱えていて、だからこそそういう人たちが出会って、いいときもあったし、悪いときもあったと思いますが響き合う形になった。そこが自分にとっては残っているところです」と自身が感じた作品の魅力を語った。

 印象的なシーンが多い「SPEC」だが、お気に入りのシーンについては「数々のアクションシーンも覚えていますが、“ミショウ”内での当麻とのやりとりが好き。みんな不器用でなかなか本音を言えない、弱みを他人に見せられないキャラクターたちなのに、人が落ち込んでいるときやへこんでいるときとか大変なときに必ず相手を察し、そばにいたり励ましたりご飯を持ってきてくれたりとか、何気ないやりとりが好きでした」としみじみ語る加瀬さん。コンビを組んだ当麻役の戸田さんについては、「戸田さんとは面識がなく当麻として出会ったので、あまり違和感はない(笑い)」とコメント。続けて「役に対しても作品に対しても、スタッフに対しても非常に純粋に向き合っている人だなと思い、ものすごく刺激をもらいました」と戸田さんの仕事に対する姿勢をたたえた。

 メガホンをとった堤幸彦監督の印象は「3年間一緒にいて現場での様子がまったく変わらない。いつも冗談を言ってスタッフを笑わせているという、どんな過酷な状況のときもずっと一定なのはすごい」と敬意を表す。続けて、「芝居の演出や映像感覚にもかかわると思いますが、多分恥ずかしがり屋な部分があって、少しでも映像に湿度が出てくるとギャグを入れたりしてドライな感覚をキープする。恥ずかしがる感覚というのは、監督も戸田さんも自分も結構似ていると思っていて、そこはこのキャラクターたちができた一要素でもあると思います」と持論を展開した。

 今作を楽しみにしているファンに向けて、「最初は完結ということで寂しい思いとかいろいろありましたが、出来上がったものを戸田さんと見たら、本当に軽く想像を超えた映画になっていました。今は早くSPECファンの方に見てほしいという気持ちでいっぱいです」とメッセージを送る。“SPECホルダーになるなら?”と聞くと、「僕はSPECはいらないという立場ですが(笑い)、いろいろなSPECホルダーが出てくるたびに、自分だけ何も力がなかったのでいつもうらやましかった。“記憶の操作”かな……」と思わず本音(?)を吐露。そして「いらないと言っているのは、僕は必ず悪いことに使うからで、自信があります!」と冗談交じりに語った。映画は1日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開中。

 <プロフィル>

 1974年11月9日生まれ、神奈川県出身。「五条霊戦記/GOJOE」(2000年)で映画デビューを果たし、熊切和嘉監督の「アンテナ」(03年)で初主演を務める。周防正行監督の「それでもボクはやってない」(07年)で日本アカデミー主演男優賞など数多くの賞を受賞。山田洋次監督や北野武監督らの作品に加え、ガス・バン・サント監督「永遠の僕たち」(11年)などにも出演する。主な出演作は「硫黄島からの手紙」(06年)、「重力ピエロ」(09年)、「海炭市叙景」(10年)など。

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