少女は自転車にのって:マンスール監督に聞く「サウジの女性が自分の人生を楽しめるような映画に」

「少女は自転車にのって」について語ったハイファ・アル・マンスール監督
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「少女は自転車にのって」について語ったハイファ・アル・マンスール監督

 ベネチア、ロッテルダムなどの国際映画祭で絶賛され、2014年米アカデミー賞・外国語映画賞のサウジアラビア代表に選出された「少女は自転車にのって」が、14日から岩波ホール(東京都千代田区)ほか全国で順次公開されている。自分の自転車を手に入れるために頑張る少女を主人公に、イスラム社会で生きる女性の希望を描き出した。映画館の設置が法律で禁じられている本国で、初の女性監督となったハイファ・アル・マンスール監督がこのたび来日。マンスール監督は「少女の姿を通して、女性が勇気を持って生きていく映画にしたかった」と語った。(上村恭子/フリーライター)

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 ◇少女の純粋な視点から女性の希望を描いた

 映画の主人公は、おてんばな10歳の女の子ワジダ。自転車を手に入れて、ボーイフレンドと競走したいという夢を持つ。彼女は自力で自転車を購入しようと思っていた。そこで、学校のコーラン暗唱コンテストに挑むことにする。優勝すると賞金がもらえるからだ。女性の自動車運転を禁ずるサウジアラビアで、女の子が自転車に乗るなどもってのほかなのだが、ワジダは気にかけていない。目標に向かって真っすぐ進む姿がたくましく描かれる。

 「ワジダは生きることへのエネルギーに満ちたハッピーな女の子。賢く抜け道を見つけて、やりたいことに向かっていく子です」とマンスール監督。主人公をそんな女の子にしたのには理由があった。「少女の純粋な視点でテーマを伝えることができるし、また、少女ならば撮影で外を自由に動くことができるからです」と話す。

 主人公に抜てきされた12歳のワアド・ムハンマドさんはリヤド在住。マスメディアを通じた俳優募集ができなかったため、口コミに頼ったオーディションによって選ばれた。役柄のワジダのようにコンバースのスニーカーを履いてやって来たというワアドさん。自分の自転車も持っていて、自宅の裏庭で乗っていたため、特に練習はいらなかった。だが、今回が外で乗るのは初経験となった。「彼女は撮影中、しょっちゅう自転車を触っていました。いつ外で乗れるの?って(笑い)。撮影中は本当に大喜びでしたね」とマンスール監督は顔をほころばせる。

 サウジでは、家族以外の男女は隔離されるのが一般的だという。今作はサウジ国内ですべて撮影され、すべての役柄をサウジの俳優が演じた初めての長編映画でもある。スタッフはサウジとドイツの混成チームだった。商業用のセットで男性と交じって仕事をすることはできなかったため、マンスール監督は撮影車から無線で指示を出したという。

 「撮影の最中に、通行人に『こんなことをするな』と言われて撮影を中断したりしたので、スケジュール通りにはいきませんでした。プロデューサーから脚本をカットするよう言われて、実は思うように撮れていない部分もあるんです」と明かす。

 そんな困難があったからこそ、海外での絶賛は本当にうれしかったという。「ベネチアでは上映前、不安がありましたが、温かく迎え入れてもらい、本当に、本当にうれしかったです。海外に住むサウジの方から『初めて自国の映画を字幕なしで見られた』という感想もいただきました。サウジでは公の場では上映されませんが、文化センターで限定公開されました。DVDになってから見るのを待っている方もたくさんいます」とまた笑顔で語る。

 ◇母親役にはサウジ社会の女性への期待を投影

 マンスール監督自身、数多くのビデオで映画に触れて育ったという。「子どものころ大好きだったのは、ディズニー映画『白雪姫』。何度も何度も見ました。映画監督になるとは思ってもみなかった。石油会社に勤めていたころ、まるで透明人間になったような気分で自分を表現してみたいと思い、短編を撮ったのが始まりでした」とそのきっかけを話した。

 今作ではワジダの学校生活や家庭生活が細やかに描かれているが、「知っている人すべてを投影させた」というほど自分の体験を基にしている。映画の中のワジダは先生から「男性から見えますよ」「男性に声を聞かれますよ」などと細々と注意を受けるが、これもマンスール監督の体験の一つだった。

 「先生はいつでも生徒を監視しています。公の場で生徒を罰するシーンがありますが、風評を重んじるからです。サウジの社会で風評はとても重要視されます。家庭の妻もそう。夫のために美しくあって、料理も上手でなければならない。自分を犠牲にしているのにそれを当然だと思われている存在です。サウジの社会が女性に期待するすべてを、ワジダの母親に投影させました」と話す。

 ワジダの母親は第2の主人公だ。ワジダの姿がサウジ社会での女性の希望ならば、母親は現実の姿なのかもしれない。母親は第1夫人だが、息子がいないため肩身のせまい思いをしている。夫は仕事で週末しか帰宅しないが、そんな夫を喜ばせようと、赤いドレスを買ってみたり、手の込んだ料理をつくったりする様子が描かれている。

 「たくさんの方々がこの母親に共感してくれました。女性、妻、母親としての顔、女性としてのあやうさも表現することを大切にしました。母親を演じてくれたリーム・アブドゥラさんはサウジのテレビスターです。これまで男性監督としか仕事をしたことがなかったので、女性の監督と仕事をしたのは初めてだったと思います。泣くシーンでは本当に泣いて、心をオープンにして演じてくれましたね。私は女性を無力な被害者のように描きたくなかったのです。見た人が落ち込むのではなく、自分の人生を楽しめるような映画にしたい。そんな思いを込めてつくりました」とメッセージを送った。

 <プロフィル>

 1974年生まれ、サウジアラビア出身。97年、カイロ・アメリカン大学を卒業後、帰国。その後、8年間に3本の映画を製作。米国人外交官の夫とともにオーストラリアに移住し、シドニー大学で映画学を学ぶ。ワシントンをへて、現在はバーレーン在住。1男1女の母。

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