2008年の連続テレビドラマ「チーム・バチスタの栄光」(関西テレビ・フジテレビ系)以降、3本の続編とスペシャルドラマが放映されてきた「チーム・バチスタ」シリーズ。海堂尊さんの小説が原作で、仲村トオルさん演じる厚生労働省の役人・白鳥圭輔と、伊藤淳史さん演じる特別愁訴外来担当医の田口公平の凸凹コンビが難事件を解決していく姿は、多くの視聴者をとりこにした。そのシリーズが、小説同様、3月29日公開の映画「チーム・バチスタ FINAL ケルベロスの肖像」をもって完結する。封切りを1カ月後に控えたある日、完成した本編を見終えたばかりの海堂さんと、メガホンをとった星野和成監督に話を聞いた。
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「今、見終わったばかりで強くいえないのは、すごく興奮して疲れちゃったから。虚脱したんですよ。ありきたりな言葉ですけど、すごく面白かった」と、出来立てほやほやの今作を見て、興奮気味に語る海堂さん。少し心を落ち着かせると、「不思議な映画。いろんな要素が入ってるので散漫になるかと思いきや、どこかに一本芯が通っていて統一感がある。見終わったあとで、一体これはなんなんだと思いましたよ。要するに、映画は最終的にワクワクして面白ければいいと僕は思っているので、その意味で大成功!」と出来栄えをたたえた。
映画は、死亡時画像診断(Ai)を行う日本初の国際Aiセンターが発足することとなり、そのこけら落としのシンポジウムを10日後に控える中、田口(伊藤さん)が勤務する東城医大に「三の月、東城医大とケルベロスの塔を破壊する」という脅迫状が届く。そのかたわらで、集団不審死事件が発生。被害者の中に白鳥(仲村さん)のよく知る人物がいたことから、彼と田口は、不審死事件と脅迫状の送り主探しに奔走することになる……というストーリー。
海堂さんは「登場人物がせりふを言い終えた、一瞬の間のあとの表情」について、「小説では、例えば、3ページぐらいを費やして表現し、(読者の)印象に残そうとするんですが、映像は一瞬で切り取ることができる」と映画の優れた点に感心する。そして、改めて今作を「いろんなものを(映像から)一瞬で読んで、一瞬で忘れて、どんどん切り替わっていく。ものすごいスピーディーな映画」と評した。
一方、編集段階ですでに「100回以上も見ている」という星野監督は、印象に残るシーンを、どれも甲乙つけ難いとしながらも、「個人的には最後の、田口先生と白鳥さんが屋上で話すところ」を挙げた。そこは、白鳥が自らの進退について触れるシーンだが、「あそこで2人が一緒にいるシーンは、物語の中でも、撮影でも最後だったので、非常に感慨深いものがありました」としみじみ語った。ちなみに、海堂さんが印象に残ったシーンは、「一つだけといわれると困っちゃうなあ……」と迷いつつ、「やっぱり戦車かな」と“案の定”の答え。実は海堂さんには子供のころから戦車に乗ってみたいという夢があり、原作でも戦車を登場させながら、「もしかして映画になるかな?」とちょっぴり期待していたそうだ。その夢は、今作の撮影見学の際、かなえることができた。
ところで、今作には「チーム・バチスタ」シリーズの原作ファンにはなじみ深い人物が出てくる。それは、医療ジャーナリストの別宮(べっく)葉子だ。原作シリーズでは時折姿を見せていたが、テレビシリーズを通して登場するのは今回が初めて。演じるのは桐谷美玲さん。明るくさっぱりとした性格で、ジャーナリストとして腕も立つ。ついでに、その備忘と人柄で、田口にほんのり恋心のようなものを抱かせたりもする。
今作では、集団不審死事件が、彼女が追っていた過去の事件とつながっていたことから、ジャーナリスト魂が大いに試されることになるのだが、原作よりも人物像にふくらみを持たせた分、今作の登場人物の中でも「実は、一番難しい役なのではないか」と“生みの親”の海堂さんは推察する。桐谷さんの撮影初日は、白鳥と田口とともに一人の老人宅を訪ね終え、そこから帰る場面。星野監督も海堂さんのコメントに賛同しつつ、「あそこは、デキる医療ジャーナリストとは違う面が出てくるところ。せりふがない分、表情が難しいと思うんですが、つながった映像を見ると本当にうまくやっていただいている」と桐谷さんの演技をたたえた。
さて、6年間、このシリーズに関わってきた星野監督だが、その間の仲村さんと伊藤さんの変化をたずねると、「僕はあんまり変わっているとは思っていないんですね。ちぐはぐなところはいっぱいありましたが、最初からいいコンビだったと思うんです」という答えが返ってきた。ただ、変化の兆しをうかがわせる場面はあることにはある。白鳥の場合は、ある人物に心から謝罪する場面。そう、あの横柄な白鳥が、人に頭を下げるのだ。そして、田口の場合は、手をポケットに入れて廊下を歩く場面。星野監督は、「シリーズを通して、今まで一度もやっていなかったんです。やっと手を入れて歩ける先生になったというか、そこが唯一成長したところかな……」と笑う。ちなみにその仕草は台本にはなく、現場で伊藤さんが「監督、入れていいですか」と提案したものだという。
今作の公開直前まで、テレビドラマ「チーム・バチスタ4 螺鈿迷宮」が放送され、ドラマに出演していた栗山千明さんが引き続き出演するなど、両作は微妙に関係性がある。それ以前に出演していた、西島秀俊さんや松坂桃李さんも、同じ役柄で姿を見せる。そこで、これまでシリーズを見ていなかった人も意識した作品PRをお願いすると、星野監督は、「僕は、これを最初に見た人たちも楽しめるような台本にしたつもりです。それに、新しいキャラクターもたくさん出ているので、テレビを見ていなくても絶対楽しめる作品だと思います」とアピール。
すると隣で聞いていた海堂さんが「もともと僕の作品は、1作だけでも楽しめるし、連作として読んでも楽しめるような作りにしています。違いは何かというと、その前のことを知っているとより楽しめる、そのことを知らなくても十分楽しめるということ。歴史小説で、例えば織田信長の詳しいエピソードを知っていれば、その小説が一層楽しめるのと一緒。ですから、この『ケルベロスの肖像』を見て面白いと思ったら、『バチスタ』シリーズを全部最初から見返すと新たな発見がある。ここを入り口にしても十分楽しめる作品に仕上がっているのは確かで、それもこれも、そういう私の創作態度を星野監督が学んでくれたからだと思います(笑い)」とちゃめっ気たっぷりに語り、星野監督は「本当にその通りです」と深くうなずいていた。映画は3月29日から全国で公開中。
<海堂尊さんプロフィル>
1961年、千葉県生まれ。外科医、病理医をへて、現在は独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センターAi情報研究推進室室長。「このミステリーがすごい!」大賞受賞の「チーム・バチスタの栄光」で2006年に作家デビュー。以降シリーズとして刊行し累計1000万部を突破している。そのほかの著書に「ジーン・ワルツ」「極北クレイマー」、科学ジャーナリスト受賞作「死因不明社会」などがある。初めてはまったポップカルチャーはディズニー映画。ただしアニメではなく実写映画で、特に面白かったものとして、61年の「うっかり博士の大発明/フラバァ」を挙げた。
<星野和成監督プロフィル>
1969年、新潟県生まれ。米コロンビア・カレッジ・シカゴ映画学部卒業。帰国後、助監督に。これまで、「チーム・バチスタ2 ジェネラル・ルージュの凱旋」、「チーム・バチスタSP2011~さらばジェネラル!天才救命医は愛する人を救えるか~」(ともに2010年)など「チーム・バチスタ」シリーズで演出やディレクターを務め、ほかにも「BOSS」(09年)、「都市伝説の女」(12~13年)などに携わってきた。今作で映画監督デビュー。初めてはまったポップカルチャーは「仮面ライダー」。74~75年に放送された「アマゾン」あたりからはまったという。
(取材・文・写真:りんたいこ)
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