名探偵コナン
#1148「探偵団と二人の引率者(前編)」
1月4日(土)放送分
話題の書籍の魅力を担当編集者が語る「ブック質問状」。今回は、フィリップ・K・ディックのSF小説を山形浩生さんが訳した「ヴァリス〔新訳版〕」(早川書房)です。同社の「ミステリマガジン」の清水直樹編集長に作品の魅力を聞きました。
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−−この書籍の魅力は?
「ヴァリス」はディック自身が体験した神秘体験(神との邂逅=かいこう)に基づいて、書かれた作品と言われていて、作家自身を連想させるファットの魂の遍歴というべき内容となっています。それが一連のSF長編と、この「ヴァリス」との大きな違いであり、特徴となっています。
映画「ブレードランナー」の原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」、ヒューゴー賞を受賞した「高い城の男」といった代表作があるディックですが、この「ヴァリス」に始まる「聖なる侵入」「ティモシー・アーチャーの転生」は、後期三部作と呼ばれ、晩年のディックを知る上で重要な作品と位置づけられています。
ちなみに、「ヴァリス」の本国(米国)での刊行は1981年であり、その翌年の82年にディックは他界しています。
−−書籍が生まれたきっかけは?
早川書房では、第一長編「偶然世界」から「アンドロイドは電気羊~」「ユービック」「高い城の男」「スキャナー・ダークリー」といった長編をこれまで翻訳出版してきました。
数年前に、他社で刊行していたほかの長編の版権も合わせて取得し、それらの作品を新しいディック長編シリーズとして売り出すことになりました。その目玉作品として、後期の代表作である「ヴァリス」三部作の翻訳を、ディック翻訳の実績がある山形浩生氏に依頼したというのが経緯です。
新訳にあたっては、これまでとは違った「ヴァリス」像を見せたいと思いました。具体的には、神学的な中身を過剰に強調するのではなく、小説として書かれた作家ディックの苦悩がより鮮明になっていると思います。
−−編集者として、この作品にかかわって興奮すること、逆に大変なことについてそれぞれ教えてください。
ディックのようなさまざまなジャンル、幅広い年齢にわたる多くの読者をもっていますし、「ヴァリス」は後期のディックを理解する上で重要な作品です。この新訳によって、作品はもちろん作家に関してもこれまでと異なった新しい解釈がされる可能性がある、それには大きな責任を感じますね。
−−今後の刊行予定は?
三部作の残り2作(『聖なる侵入』『ティモシー・アーチャーの転生』)も「ヴァリス」同様、山形浩生さんに翻訳をお願いしています。2015年の刊行を予定しています。
−−最後に読者へ一言お願いします。
「ヴァリス」は読む人によって多様な読み方ができる、数あるディック長編の中でも特別な作品です。山形浩生氏の翻訳によって新たな命が吹き込まれたこの作品を1度だけでなく、2度3度と読んでみてください。
早川書房 ミステリマガジン編集長 清水直樹
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