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オール・ユー・ニード・イズ・キル:原作・桜坂洋さんに聞く「人生の紆余曲折をループにした」

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 トム・クルーズさん主演の映画「ALL YOU NEED IS KILL(オール・ユー・ニード・イズ・キル)」(ダグ・ライマン監督)が4日に全国で公開された。今作は日本の作家、桜坂洋さんの同名小説が原作で、戦闘スキルゼロの兵士ケイジと最強の女性兵士リタが、同じ日を無限に繰り返す“時のループ”に巻き込まれながら、謎の侵略者“ギタイ”を倒す方法を見つけ出そうとするSFアクションだ。映画を公開前に一足先に見たという桜坂さんに、見どころを原作者の立場で語ってもらった。

 ◇「見たことがない映画だ」と思わせるビジュアル

 −−まず、映画の率直な感想を聞かせてください。

 面白いですよ。ちゃんと本当に面白いです(笑い)。特に僕が考えたものとは違うところが面白かったですね。

 −−映像だからこその表現と思ったのはどこですか。

 例えば“起動スーツ”というパワードスーツのようなものを着た何十人もの兵士たちが、隊列を組んで歩いていたり、戦場中に散らばっていたりするんですが、その映像がすごいんです。1体だけ見てもそれほどリアリティーは感じないと思いますが、それが何十人も動くと、本当に未来の戦争のように見えるんです。ああいう形で撮った戦争映画は初めてだと思います。それから、リタがケイジを撃ち殺すことでループに入るという表現。原作では、(ループの)何周目で、戦闘開始何分で死ぬというのを2~3行ずつポンポンポンと書いて表現しているんですが、映画では早回しで何回も見せる。映像だとこうやって表現するんだと感心しました。

 −−ダグ・ライマン監督は3月の来日の際、映画ではアクションと敵のギタイを間近に見せられる点をアピールしていました。

 僕もライマン監督とお話ししましたが、とにかく、見たことのないものを撮りたいとおっしゃっていて、その通りのことを戦場のシーンやループのシーンでやってのけている。「確かにこれは、僕も見たことがない映画だ」と思わせるシーンを映像としてバンと出してくる。その斬新さは、例えていうなら、「マトリックス」(1999年)でバレットタイム(被写体の動きはスローモーションで見えるがカメラワークは高速で移動する映像)を見たときの感覚に近いものです。

 −−小説とは異なる部分がありますが、原作者としてはとにかく会心作だと? 

 そうですね。間違いないです。確かに、原作は僕が書いているので完全に変えようと思って作ったとしても、消せない日本人っぽさというのがあるんですよ。例えばラスト。小説のラストとは違いますが、ハリウッドっぽくない。それにアクション。激しさはほかのハリウッド映画と一緒ですが、でもちょっと違う。サム・ライミ版の「スパイダーマン」(2002年)にあるような外連味(けれんみ)のようなものを感じるんです。そこが、この映画の日本っぽさだと、僕は思っているんですけどね。

 ◇ギタイは西洋人的な怖さの表れ

 −−桜坂さんは今回、実際に機動スーツを着て出演もなさったんですよね。スーツの着心地はいかがでしたか。

 (出演シーンは)結局、なくなったみたいです(笑い)。機動スーツは重たいです。35キロもありますから。だいたい、戦国時代の鎧(よろい)と同じ重さです。トム・クルーズさんは、あれを着て走りますからね。

 −−そのクルーズさんとはどんな話をしましたか。

 トムは原作を読んでくれていて、しかも褒めてくれるんです。本当にいい人で(笑い)、あの人から他人の悪口は聞いたことがない。彼は小説を読み込んで、今回のケイジというキャラクターはチャレンジだと思ったみたいです。「僕が今までやったことのないキャラクターだからやりたかった」と言ってくれました。

 −−クルーズさんが、スーパーヒーローではなくヘタレ男子を演じていますね。

 トムが名優といわれるゆえんはまさにそこ、ヘタレができるというところです。今までの彼の映画ではカッコいい、強いだけでしたが、今回は違う。どうしようもないろくでなしから、これまでトムが演じてきたようなヒーローに2時間で変貌(へんぼう)していく。そこが面白い。

 −−リタ役のエミリー・ブラントさんはいかがでしたか。

 彼女も、基本的には「プラダを着た悪魔」(06年)のような役が多く、今回のような役はやったことがないですからね。「LOOPER/ルーパー」(12年)では、銃を持っていましたが、母親役でしたから。今回の彼女は筋肉ムキムキです。

 −−ギタイはご自身がイメージしていた通りでしたか?

 ギタイは本当にすごいです。ただ、実は僕は小説を書くときは文字で考えるので、敵に関しては、映像はあまりイメージしていないんです。どうでもいいというと言い過ぎですが、素晴らしいものが出てくればそれでいい、みたいなタイプなんです。ですから、マンガ(コミックは6月19日発売)化されるときに、(作画の)小畑(健)先生に「どういうのがいいの」と聞かれて、「好きに描いてください。なぜなら、あれは僕が字で描いたものなので、そのまま立体化してもたいした怖さが出ないと思う。むしろ、グラフィックの専門家である小畑先生が考えてくださったほうが絶対いいものができるから」とお話ししました。そこで、映画のギタイについてですが、ライマン監督は、今回のミミック(擬態)では、怖いものを作りたかったと言っていました。侵略者なので恐怖の象徴みたいなものを映像化したいとCG(コンピューター・グラフィックス)チームに指示を出したところ、“あれ”が出来上がってきたんだそうです。だから映画のギタイは、西洋人的な怖さを表現したものなんです。

 ◇原作のテーマはゲームファンの死生観

 −−ロンドンの撮影現場に行かれたそうですが、驚かれたことがあったとか。

 プレミアを含めて3回、ロンドンに行ったんですが、ヒースロー空港には4回行きました。というのは、撮影所にヒースロー空港があったんですよ! 実際に空港ロケもしたらしいんですが、戦闘でちょっと壊れた感じのヒースロー空港を作ったんです。 撮影所を訪れたらいきなり目の前にそれが現れて、なんでここに空港があるんだよと度肝を抜かれました。そんなものを作るんですよ、向こうの人って。とんでもないですよね(笑い)。

 −−主人公は、ピンチに陥るとリセット、つまり死を選び、また同じ1日を最初から始めようとします。そのあたりが、ゲームファンの心をくすぐるストーリーだと思いました。そもそも桜坂さんは小説を書く際、そういったことを意識したのですか。

 意識したというか、そういう人(ゲームファン)たち、そこには僕も含まれますが、彼らの死生観みたいなものをテーマとして突き詰めていったらどうなるか、という話でもあると思いながら、僕はこの話を書きました。日々生きていたら失敗も成功もあるわけで、でも人間、紆余(うよ)曲折の部分までを含めて自分の人生だと捉えて初めて次の一歩がある。その紆余曲折の部分をループにしたというか……。繰り返す中で、本当は忘れてしまいたい過去でも、それを覚えているのは本人だけだから、むしろ本人にとってそれはどんどん大切な経験になっていく。それを実際の人生に当てはめると、あそこで失敗したから今の自分があるんだ、そういうふうに置き換えられるのではないかと思ったんです。

 −−ちなみに、小説の続編の可能性は。

 今、書いているところです。今回の(小説)とは、時間軸としては続きですが、あのあとを描くというのではありません。また新たな話です。

 −−それがまた映画化されるとなったら?

 いいんじゃないでしょうか。そもそも、いつもとは違う役をトム・クルーズがやってくれて、そのトム・クルーズがやったのをまったく無視して(小説を)書いているので、たぶん映画化するとなると、今回の映画をまったく無視したシナリオが作られるわけで。その「種」となるなら、僕としては願ったりかなったりです。

 −−改めて原作ファンへメッセージを。

 「考えるな、感じろ」みたいな感じかな。映画を見ながら、(原作との)間違い探しを始めると不幸ですからね。そうではなく、スチール(静止画)では武骨に見える機動スーツが、動くと本当にカッコいいんです。そういうところを見てほしい。これからフォロワーがたくさん出てくるんじゃないかな。ダグ・ライマン監督って、これまでもそういう革命を起こしている方。「ボーン・アイデンティティ」(02年)のときも、彼がスパイ映画のアクションを「007」から「ボーン」のようなリアルな戦いに変えたし、たぶんこの作品も、今後、未来の戦争を描く際のベースになると思います。次に出て来る作品にとっては、結構ハードルは高いと思いますけれど。

 <プロフィル>

 1970年生まれ、東京都出身。2003年、「よくわかる現代魔法」で作家デビュー。この作品は7巻のシリーズとなり、テレビアニメ化、マンガ化もされた。04年に出版された「All You Need Is Kill」は世界13の国と地域で翻訳出版され、世界16の国と地域でコミックとして出版されている。影響を受けたポップカルチャーはゲーム。「『ファントムクラッシュ』や『シビライゼーション』『バーチャファイター』にハマった」という。

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