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ぼくを探しに:シルバン・ショメ監督 「世界を作っているのは女性だと思っているんだ」

映画
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 日本では2004年に公開されたアニメーション映画「ベルヴィル・ランデブー」(03年)のシルバン・ショメ監督が初めて挑んだ実写長編映画「ぼくを探しに」が2日から全国順次公開されている。幼い頃に両親を亡くし、そのショックで言葉を失ったピアニストのポール(ギョーム・グイさん)が、同じアパルトマンに住む謎めいた女性“マダム・プルースト”(アンヌ・ル・ニさん)との出会いによって、味気ない生活を少しずつ彩りあるものに変えていく様子を、独特のユーモアでつづったファンタジー作だ。「これからも実写とアニメの両方を作っていきたい」と意欲を口にするほど今回の実写監督の経験に手応えを感じているショメ監督が、電話インタビューに答えた。

 ◇偶然から生まれた作品

 −−独特の色彩に心を奪われました。

 (色彩は)特に操作はしていなんだけどね。35ミリカメラで普通に撮ったんだ。ただ、ポールが子供時代を思い出す夢のシーンには手を加えている。それ以外はかなりビビッドな色を使っているけど、すべて自然の色だよ。

 −−ポールの部屋のグリーンの壁に、亡き母(ファニー・トゥーロンさん)の思い出の品が詰まった机周りのオレンジ色が映えていました。

 ポールの部屋が明るく暖色に満たされているのは、彼にとってそこが“秘密の花園”だからだ。今の彼は、光が差さないようなアパルトマンに、感情をあまり表に出さない2人のおばと住んでいて、ポールが弾くピアノも白と黒の世界。秘密の花園だけが、彼を夢の世界に誘ってくれる空間なんだ。

 −−今回の映画は、「ベルビル・ランデブー」のサウンドトラックの1曲「アッティラ・マルセル(ATTILA MARCEL)」から思いついたそうですね。アッティラ・マルセルは、プロレスラーだったポールの亡き父(グイさん2役)の名前でもあります。

 アッティラ・マルセルという名前とどこで出合ったかはまったく覚えていないんだけど、とにかくその“響き”が気に入ったんだ。当時は「ベルビル・ランデブー」を撮っていて、そのために曲を一つ書かなきゃいけなかった。ちょうどそのときその名前を耳にして、ならばそれをシャンソンのタイトルにして(曲を)作ってみようと思ったんだ。それがインターネット上でブレークして、それからかれこれ8年くらいかかったけど、今回、その名前からインスピレーションを受けた映画を作ることになったというわけ。だから、ある意味これは、偶然から生まれた映画なんだ。

 −−面白い経緯ですね。

 フランスは「デカルト(フランスの哲学者)の国」といわれていて、そういう話をフランス人にしても、「何それ」とあまり喜んでくれないんだ(笑い)。

 −−今作は、フランスの作家マルセル・プルーストの小説「失われた時を求めて」のエッセンスもちりばめられています。プルーストはお好きなんですか?

 「失われた時を求めて」は大嫌いな作品だよ(笑い)。学校で無理やり読まされて、庶民派の僕にとってはブルジョア的で、気取っていて、これといった感動もしなかった。ただ、プルーストという人物には興味がある。彼は今でこそ「文豪」といわれているけど、生前はぜんそくの持病があって、コルク張りの部屋にほとんど引きこもって小説を書いていたんだそうだ。最初は出版社からも原稿を拒絶されたんだからね。そんな彼の内面を、今回のポールに反映させているんだ。

 ◇ポールが弾くピアノも作り物

 −−初めての実写長編作品ですが、アニメーション作家の経験は役に立ちましたか。

 アニメーションの経験はすごく役に立った。実をいうと、実写とアニメの間にあまり違いはなかった。もちろんテクニック的には違うけれどね。実写の場合、人(俳優)を使って撮影するからおのずと期間が限られてくる。そのため撮影現場は凝縮されたものになる。それから実写の場合、編集はとても大事だ。一方、アニメの製作は絵コンテを作る段階でとてもお金をかけているから、そのとき立てたプランをおいそれとはほごにはできない。そういうことも含め、アニメ製作の経験で役に立ったことはたくさんあったよ。

 −−海に浮かぶボートや空を飛ぶ飛行機、米グランドキャニオンなどがハリボテで作られているところにショメ監督らしさを感じました。

 グランドキャニオンには行きたかったけど、予算の都合で行けなかった(笑い)。海のシーンや飛行機をスタジオの中に作ったのは、そのほうが全体のバランスをとりやすかったからだ。アパルトマンの中のシーンも全部セット。ポールが弾くピアノも作ったし、マダム・プルーストの部屋にある畑も全部作った。野菜はわざわざ栽培したものを植えたんだよ。

 −−あのピアノは本物ではないんですか?

 作り物だよ。普通のピアノより大きいんだ。ゴテゴテとした飾りもついていて、そうすることで、“モンスター化”したピアノが、ポールを押しつぶすかのような印象を与える効果を狙ったんだ。

 −−ポールは、ピアノを弾く時シューケット(小さく絞り出したシュー生地を焼いた菓子)を食べますが、監督はシューケット好きなのですか?

 あれば食べるけど、ポールのように毎日買いに行くほど好きではないな(笑い)。一番好きなのはクロワッサンとレモンパイ、それにイチゴのタルトだね。映画に話を戻すと、最初はシューケットではなくエクレアを考えていた。でも、エクレアはチョコレートがかかっているし、中はクリームだし、そのあとでピアノを弾くには適さない。それに、結構おなかがいっぱいになるから、次から次へと食べるにはシューケットがいいと思ったんだ。何より、シューケットという響きが気に入ったんだ。

 −−ショメ監督は、音や言葉の響きを大切にするのですね。

 「アッティラ・マルセル」も響きが気に入ったしね。今回の映画は、ミュージカルじゃないが音楽的な作品だ。劇中流れる曲は、サルサもディスコ風の曲もすべて3拍子なんだ。

 −−あなたの作品に登場する女性は、いつも特別な役割を担います。それだけ女性は重要だということでしょうか。

 とても重要だ。女性が子供を育てるし、出産も女性しかできない。教育も母親が行う部分が多い。僕は、世界を作っているのは女性だと思っている。女性が社会において重要な地位を占めていけば、そして、女性を痛めつける人がいなくなれば、世の中はよりよくなっていくと思っている。今回のポールの父親には、僕のそういった思いを込めているし、マダム・プルーストにしてもポールと友情を育んでいく……。僕は、女性と男性は、愛情はもとより友情も育める関係だと思っているんだ。

 −−日本のアニメーションで印象深いものはありますか。

 日本の好きな映画や映画作家は挙げればきりがないよ。山村浩二さんの「頭山」(02年)はすごくいい作品だと思う。それにスタジオジブリ作品も大好きだ。高畑勲さん、宮崎駿さんはとても誠実そうで、監督としてすごく尊敬している。スタジオジブリの作品で傑作といえると思うのが、「火垂るの墓」(1988年)と「となりのトトロ」(88年)。日本の作品は、米国映画にありがちなハッピーエンドだったり、善玉悪玉が明確でないところがいいよね。

 −−次回作「The Thousand Miles」について教えてください。

 4分の3はアニメで、残り4分の1は実写の、ミックスした映画にしようと思っている。今、脚本を書きつつあるが、(映画監督のフェデリコ・)フェリーニからインスピレーションを受けた話なんだ。フェリーニは、映画監督になる前は挿絵などを描くイラストレーターだった。彼は、「リトル・ニモ」という作品を描いた米マンガ家ウィンザー・マッケイ(生年諸説あり、没年1934年)をすごく尊敬していたらしい。フェリーニは、子供の頃の夢をずっと持ち続けた人で、そんな彼の映画を撮りたいと思っている。いわばこれは、フェリーニのマッケイに対するオマージュを込めた、僕から尊敬するフェリーニ監督へのラブレターなんだ。

 <プロフィル>

 1963年生まれ、フランス、メゾン・ラフィット出身。87年、美術学校を卒業後、ロンドンに移住、アニメーターとして活動。97年に発表した短編アニメ「老人とハト」(日本未公開)で、アヌシー国際アニメーションフェスティバル大賞などさまざまな賞を受賞。初長編アニメ「ベルビル・ランデブー」(2003年)は、米アカデミー賞長編アニメーション部門と主題歌賞でノミネートされた。04年、スコットランドのエディンバラにアニメーションスタジオ「ジャンゴ・フィルムズ」を設立。10年発表の「イリュージョニスト」も米アカデミー賞長編アニメ賞にノミネートされた。06年のオムニバス映画「パリ、ジュテーム」の中の1編「エッフェル塔」で初の実写映画監督を経験している。

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