映画「愛の渦」(2014年)でのヒロイン役が記憶に新しい門脇麦(かどわき・むぎ)さんと、今作が映画初出演となるトップモデルの道端ジェシカさんがダブル主演した映画「シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸」が25日から全国で公開されている。門脇さん演じる青森県出身の本沢海空(ほんざわ・みく)と、道端さん演じるモデル兼ヨガインストラクターとして活躍するKUMI。境遇も価値観も違う2人が、互いの存在によって自分自身を見つめ直していく心温まる作品だ。海空とKUMIが出会うきっかけとなるのが、現在、国内で200万人が愛好しているといわれているヨガだ。自身もヨガ歴5年で、「ヨガを深く知っている人も、そうでない初心者でも楽しめるように作った」と語る永田琴監督に聞いた。
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今作は、心身ともに健康的な生活を送るためのツールとして、最近、愛好家を増やしているヨガを題材に映画を作れないだろうかという発想で生まれた。自身も熱心なヨギーニである永田監督は、企画を打診されて快諾。監督だけでなく脚本も手がけることにした。
そもそも永田監督がヨガを始めたのは「体力がなくなってきて、こんなことでは撮影を乗り切れない」と危機感を覚えたからだ。「より効率よく、より段取りよくと常に頭の中がフル回転」し疲れがちだった体が、ヨガを始めたことで「定期的にリセットできるようになったんです。映画の中の言葉じゃないですけど、本当に『魔法みたい』と感じた」と、その効果を語る。
ヨガの魅力を知っている永田監督ではあるが、映画を作るにあたって気を付けたのは、ヨガ雑誌に載っているような、山の上や川のほとりで難しいポーズをとりながら精神統一をしている「初めての人がそれを見せられたら敬遠してしまうような、尊くて神々しくて、自分にはちょっと無理という感じにはしたくなかった」ということだ。むしろ「座ったらすぐできちゃう、NHKの『みんなの体操』みたいな、気軽な気持ちで入れるようなセッティング」にし、「海空とKUMI、2人の友情物語が前面に出るよう作る」ことを心掛けた。「KUMIが女神のように登場する場面では(ヨガの)魅力的なポーズを使っていますが、それにしてもあまりハードルを高くしないようにしています。海空が入るクラスでも、難しいポーズは使わないようにしました」と解説する。
その一方で、海空とKUMIが友情を育んでいく過程など、「ストーリーの展開のすべてがヨガの哲学に当てはまるものを盛り込んでいるので、ヨガを何年もやっている人が見ても、もっと深いところで見られる、新しい気づきがあるように作っています」とアピールする。ちなみに永田監督にとってヨガの哲学とは、「語ると1日どころか1週間はかかる」ため、一言で表すことは難しいとしながら、「簡単に言うと、自分と向き合えるところ。自分を素直に見られるところ」と説明した。
主人公の海空について、永田監督は「ぐちゃぐちゃで、ダサくて、コンプレックスをいっぱい持っている地方出身の女の子」と表現する。その海空役で、突き抜けた演技を見せているのが門脇さんだ。「愛の渦」では地味な女子大生、「闇金ウシジマくん Part2」(14年)ではストーカーに狙われるフリーターを演じた門脇さんを、永田監督は意外性を狙ってキャスティングしたわけではないという。「普段の麦ちゃんは、本当にあか抜けている。ゴテゴテしていなくてシンプルな人。そもそもセンスがいい人なんです。だからこそ、(暗めの役も突き抜けた明るい役も)両方できると思っていた」と起用の理由を明かす。そして今回、仕事をして「こんなに洗練されている人なんだ」と改めて感じたという。
一方、KUMIを演じた道端さんについて、道端さんが出演していた番組「BeauTV VOCE」を見ていたこともあり、「イメージ通り」で、「彼女自身、ずっとヨガをやっているから自分が解放されている。仕事の付き合い方でもプライベートの付き合い方でも自分の居場所を知っている人だ」と感じたそうだ。演出しながら感心したのは、道端さんの所作。「服にしわが寄らないようスッと脱いだり、靴を履く時には前屈みにならないようにしたり。へえ、そうやって脱ぐんだ、きれい~」と、そのさりげない動きにしばしば目を奪われたという。仕事をし終えた今、「面白かったですね、もっとやりたいと思いました。チャーミングな人だから」と映画初出演の道端さんとの再タッグを希望した。
海空とKUMIのよき理解者となるバーのマスター梅之助を演じるのは村上淳さんだ。村上さんにとって初のゲイ役。「どういう人がいいんだろうと思いましたけど、ぴったりじゃなかったですか?」との問いかけに記者が「ぴったりでした」と答えると、「だからです」とにっこり。そして、「“ザ・女優”という麦ちゃんと、モデルをやっていてセレブ感のあるジェシー(ジェシカさん)。この全く違う世界に住んでいる2人の間にいて、この物語を運んでくれる人はこの人しかいないと思ったからです」と力を込める。
ところで、ヨガが持つポジティブな力をテーマにした今作。ラストには観客もヨガをプチ体感できる趣向が凝らされている。ヒーリングヨガ界の人気インストラクター椎名慶子さんによるナレーションに誘われ、つい目を閉じてしまいたくなるが、映像も気になる。映るのは、長野県にある、永田監督が以前から「パワースポットだ」と思っている場所で2日間にわたって撮影した“青い空と白い雲”。そこには、「目をつぶりたい人はつぶっていただいていいですし、目を閉じるのが怖い人は開けていてもいいですし。開けている人は、閉じているときと同じような効能があってほしい」という思いを込めた。
最後にメッセージを求めると、今作が決してヨガだけの映画ではなく、「2人の女性の友情と成長の物語」であることを繰り返し強調しつつ、「人間は100%じゃない。絶対に凸凹があって、だから補い合う。人は一人では生きていけないから、他人を愛したり、時には嫌いになったりするんだと思います。ですから、なぜ人をいとおしいと思うのかとか、なぜ感情があるのかとか、そういうことを感じてもらえればいいなと思います」と笑顔を見せた。映画は25日から全国で公開中。
<プロフィル>
ながた・こと 1971年生まれ、大阪府出身。岩井俊二監督の作品で助監督を務め、2004年映画「恋文日和」で映画監督デビュー。07年に「渋谷区円山町」と「Little DJ~小さな恋の物語」が公開された。そのほかにテレビドラマで「分身」(12年)、「イタズラなKiss~Love in TOKYO」(13年)「変身」(14年)などを手がけた。11年、子供のための映画ワークショップ「えいがっこ!」を立ち上げ、子供たちの「映像制作を通じたコミュニケーション能力の向上」を図るための活動も続けている。初めてはまったポップカルチャーは「キティちゃん」。「元祖キティ世代」で、当時はキティちゃんグッズを全部持っていて、幼稚園の時に使っていたキティちゃんの定規はいまだに持っているという。マンガ「キャンディ・キャンディ」にもはまり、「字が読めない頃から姉に『これなんて書いてあるの?』と聞きながら見ていた」という。
(インタビュー・文・撮影:りんたいこ)
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