0. 5ミリ:安藤桃子監督、主演・安藤サクラ姉妹に聞く 監督はサクラに「忍者並みの演技を要求」

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 映画「カケラ」(2010年)で監督デビューした安藤桃子さんが、女優で実妹の安藤サクラさん主演で撮った映画「0.5ミリ」が8日から全国で順次公開されている。11年に自ら書き下ろした長編小説を基に脚本を書き、映画化した。インタビュー中は、考えながら、ゆっくり答えるサクラさんと、自分の考えをサクサクと語る四つ年上の安藤監督。サクラさんが言葉に窮すると、安藤監督が、すくい上げるように言葉をつなぐ一幕もあった。やりとりから肉親ならではの固い絆が感じられる“仲良し姉妹”が、映画について語った。

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 主人公の山岸サワ(サクラさん)は、派遣先の家で予期せぬ大事件に巻き込まれ、仕事も金も住む家も失ってしまう。生きるために面識のない老人の弱みを握り、おしかけヘルパーを始めるサワ。最初は彼女に困惑していた老人たちも、やがてサワに心を開き、生きる気力を取り戻していく。上映時間196分と長尺ながら長さを感じさせない。サワが関わりを持つ老人たちを演じるのは、津川雅彦さんをはじめ、織本順吉さん、坂田利夫さん、井上竜夫さん、草笛光子さんといった大御所ぞろいだ。

 ◇ベテラン俳優とのセッションで演じたヒロイン

 −−主人公の山岸サワは、原作の小説のときから妹のサクラさんをイメージしながら書いたそうですが、サワはサクラさんの分身と考えてよいですか。

 安藤桃子監督:分身ではないです。妹という部分を切り離して、“役者としての安藤サクラさん”ならどういうアプローチの仕方をするのだろうかということは考えましたけれど、サワちゃんはじめ、おじいちゃん、戦争体験者の方から若者まで、ここに登場する人たちはすべて私であり、私がこれまで出会ってきたさまざまな人たちでもあります。

 −−サクラさんは、サワをどのようなイメージで演じていったのでしょう。

 安藤サクラさん:こうしようとガチガチに決めるというより、おじいちゃんごとにキャラクターが違いますし、おじいちゃんを演じる俳優さんたちもお芝居のタイプがそれぞれ異なっていたので、そのおじいちゃんとのセッションによって、サワちゃんのキャラクターができているという感じでしょうか。脚本を読んで、もともとのイメージはありました。例えば、坂田さんのところでは、サワちゃんもきっと坂田さん演じる茂さんと一緒に頑張っているんだろうなという可愛らしい一面を感じましたし、津川さんのブロックでは、サワちゃんのしたたかな感じがとても伝わってきて、(津川さんが演じる)義男先生をサワちゃんが転がしていくというイメージがありました。最後の柄本(明)さんのところに関しては、サワちゃんのもうちょっと黒い部分……暴れる感情という、また違った面が見えました。そうしたことをベースに、あとは現場でのセッションで変わっていくのではないかと思っていました。

 −−演じていて難しかったのはどういうところですか。

 サクラさん:人というのは、自分の感情が出せる相手と出せない相手がいて、そういう両方の間を“渡り歩いて”生きているのだと思います。その点、サワちゃんには感情を出せる場面がなかなかなかった。小説の段階から、サワちゃん自身のバックグラウンドが描かれていないので、そこがすごく魅力でもあるんですが、逆につかめないというか……。ですから私自身が演じていて、彼女のことを知りたいというフラストレーションがたまりました。

 桃子監督:確かにそうですね。サワちゃんは主人公なんですけど、つかみどころがない。映画には、この人がいなければその作品が成立しないキャラクターというのがあると思います。女性だったらミューズ、男性だったらヒーロー、そういう寓話(ぐうわ)的な存在は、人間らしくあり過ぎてはいけないと思っています。私自身、それをサワちゃんで描きたかった。

 −−サワちゃんはミューズだと。

 桃子監督:サワちゃんが、ある意味一番優しい人かもしれないと思うのは、決して自分の感情で、出会う老人を振り回すことはないからです。すべてにおいて冷静。だからこそプロフェッショナルだといえる。冷静だけど心で接する。この際どいラインを演じることは、とても難しいことだと私は思っていました。しかもこれだけの大先輩の俳優さんたちを相手にしたら、(演技に)力が入って当然。でも、サワちゃんにはそれがあってはいけない。サワちゃんは、大胆に見えて何よりセンシティブな役。これまで“安藤サクラ”という女優さんは、映画の中で強い印象を残していくような役をたくさんやってきたと思いますが、サワちゃんという役で私がどうしても見たかったのは、すごく薄いガラスの上を、あるときは歩き、あるときは走るという(サクラさんの)忍者並みの演技でした。

 サクラさん:そういわれてみればそうです。津川さんのところは、すごく体幹を使ったというか、体の芯の筋肉を使ったというか、それこそ、薄いガラスの上を歩くような感じで演じていました。

 ◇「のりしろが無限大の怪物」の妹と「まっすぐな光を発する」姉

 −−桃子監督にとって、女優であり妹のサクラさんはどういう存在ですか。サクラさんにとって、映画監督であり姉の桃子さんはどういう存在ですか。

 桃子監督:未確認物体といいますか(笑い)、未知の生命体の、のりしろが無限大の怪物。もしくはアメーバー。妹で一番知っているはずなのに、そんなふうに思える女優だというのが、姉として驚きなんです。女優ではなく役者ですね、男女の差もないから。ともかく、役者としてはそういう存在であって、妹としては、地球なんて規模ではなく、宇宙空間も含めとても大切な人物。サクラが生まれてきたときからそう思っています。この両方の思いがいつもあります。

 サクラさん:姉には、誰にもできないような真っすぐなものを発信する力があると思います。光は、何か混じり気があると曲がりますが、姉が発する光は真っすぐなんです。でも、きれいに乱反射させるというか、丁寧に導いてくれる。だから、大御所の俳優さんたちも、桃ちゃん、桃ちゃんとみんなが笑顔になる。どうしたら姉みたいにみんなを笑顔にさせることができるんだろうと小さい時から思っています。私はその姉の笑顔に守られてきた妹です。

 −−それぞれ印象に残った場面を教えてください。

 サクラさん:見て印象に残っているのは、ラストに映る海です。あそこには、監督の人柄や、姉の、この作品で伝えたい思いとか、いろいろな魂だったり、そういうものすべてが詰まっているような気がして、この映画を歓迎しているようで、とても印象に残っています。自分が演じていて印象に残っているのは、私は俳優ですから、シーンというより、その時に感じたおじいちゃんたちが触れた感触や温度……ぬくもりというより温度、そういうものがそれぞれ残っています。

 桃子監督:たくさんありますが、やはり一番は津川さんのワンシーンワンカットの7分間の場面です。あのときカメラはずっと津川さんをとらえていて、最後に切り替えして(向かい側で話を聞いている)サワちゃんが瞬間映ります。あのとき津川さんは、戦争の一体験者として言葉を発していますが、その背後には、亡くなった人を含めて数えきれないほどの戦争に対する思いがある人たちがいて、そのすべての思いを受け止めているのがサワちゃんなんです。そこまでの7分間を受け止めているサワちゃんの顔は、現場のスタッフと私しか見ていませんが、あのサワちゃんと津川さんの表情は忘れられません。

 −−サクラさんはそのときのことを覚えていますか。

 サクラさん:とても緊張していたことは覚えています。ただ、なんにせよこの映画は、顔も肉体も表現もすべて、姉にしか撮れない私が映っていると思います。自分でいうのはなんですが、うれしいです。ちょっと……すごくきれいな顔も映っているので(笑い)、ぜひみなさん劇場でご覧ください。

 *…インタビューのあと、「初めてはまったポップカルチャー」を2人にたずねたところ、「5歳くらいの頃、テレビの前にカメラを持って待ち構え、自分の好きな場面が出てくると写真に撮って現像していた」と安藤監督が言えば、「NHK教育テレビが大好きで……」と人形劇「のびのびノンちゃん」の主題歌を口ずさみ始めたサクラさん。それを聞いて、安藤監督が、「だったら私は……」と「みんなのうた」で放送された「メトロポリタン美術館」を歌い始めると、今度はサクラさんが「ハローおさるさん」を歌い出し、ついには2人で合唱を始めた。

 このときすでに妊娠5カ月で、おなかが少しふっくらしていた安藤監督。結婚も実は3月にしていたことを明かしてくれた。お相手について安藤監督が「農業をやっていて、業界とはかけ離れた人」と言うと、サクラさんが「すごくカッコいい人です」とコメント。すると安藤監督は、「超イケメンというのではないんですよ」と照れ笑いしつつ、「農業をやっている人はたくましいです。生きていること自体がすごくたくましい。私がおせんべいを食べたいというと、家になければ、お米からおせんべいを焼いて作ってくれるような人です」と話してくれた。そういった2人の会話から姉妹の仲のよさが伝わってきた。

 <安藤桃子監督プロフィル>

 1982年、東京都出身。高校時代から英国に留学。ロンドン大学芸術学部を次席で卒業。その後、ニューヨークで映画製作を学ぶ。2010年、自身で脚本を書いた「カケラ」で映画監督デビュー。11年に初の書き下ろし長編小説「0.5ミリ」(幻冬舎)を発表。今作の撮影をきっかけに現在は高知市に住んでいる。

 <安藤サクラさんプロフィル>

 1986年、東京都出身。父である奥田瑛二さんの監督作「風の外側」(2007年)でヒロインを務め、本格的な俳優デビューを果たす。その後も「愛のむきだし」(09年)、「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」(10年)などに出演。12年には「かぞくのくに」でブルーリボン賞主演女優賞を獲得。ほかの主な出演作に「愛と誠」(12年)、「ペタルダンス」「今日子と修一の場合」(ともに13年)、「家路」「春を背負って」(ともに14年)などに出演。12月に「百円の恋」、15年2月に「娚の一生」の公開を控えている。写真家の鈴木親さんが撮影した写真集「SAKURA!」(リトルモア)が11月25日に発売。

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