テレビ質問状:「キャメロン・カーペンター:サウンド・オブ・マイ・ライフ」天才オルガニストの挑戦

Photo by Thomas Grube
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Photo by Thomas Grube

 WOWOWは毎週土曜午後1時に「WOWOWオリジナルドキュメンタリー」枠として、「ノンフィクションW」と「国際共同制作プロジェクト」の2番組を両輪に、国内外のさまざまなテーマを扱ったオリジナルのドキュメンタリー番組を放送している。12月20日に放送される「国際共同制作プロジェクト キャメロン・カーペンター:サウンド・オブ・マイ・ライフ」を共同プロデュースしたWOWOWのロサンゼルス駐在員事務所の鷲尾賀代プロデューサーに、番組の魅力を聞いた。

ウナギノボリ

 −−番組の概要と魅力は?

 長い歴史を持つオルガンは楽器でありながら建造物でもあり、移動不可能なパイプオルガンとしての側面を持つ。オルガニストたちは演奏をする際に、それぞれの違ったパイプオルガンを調整し、また自らもそのオルガンに適合しなければならない。オルガンの常識を次々と塗り替えて新時代を切りひらく革命的な存在である若き天才オルガ二スト、キャメロン・カーペンターもその一人であり、その独創的なプレースタイルから人一倍調整が難しく、時にはオルガンが彼のスピードについていけず音が出ないなんてこともしばしば。

 そんな彼の長年の夢はどこでも同じオルガンで公演ができる「ツアリングオルガン」(移動式オルガン)を手に入れることであった。しかし、キャメロンの理想とするツアリングオルガンは、完璧に彼の求める“音”を奏でること。その無限の“音”をさまざまなオルガンから録音し、コンピューターで作り上げていくのは気の遠くなる作業であり、その音をパイプなしに再現するスピーカーの数もけた違いのとてつもなく大きな計画となったのである。彼は自分の求めてきた“人生の音”を手に入れることができるのだろうか、こだわり抜いた彼の夢のオルガンが今誕生する!

 −−今回のテーマを取り上げたきっかけと理由は?

 ドイツの制作会社から提案を受けた時、”オルガン奏者“のドキュメンタリーということですぐにはピンと来なかったが、ウェブサイトのリンクをクリックして、彼のオルガンを弾く姿を見て目が離せなくなった。今までのオルガンのイメージはメローなクラシックスタイル、しかし彼はまるで何かに挑んでいるような激しいプレースタイルだった。それから連絡を取り、先方と話をするうちに目指すものは同じ方向を向いていることを確信し、このプロジェクトに参加したいと心から思った。

 −−制作中、一番に心掛けたことは?

 相手はドイツの制作会社。とても英語が流暢(りゅうちょう)な方たちだったが、お互い第2外国語でのコミュニケーションなのと、彼らはずっと一緒にやってきて信頼関係がすでに出来上がっているチームなので、そこに“よそ者”が一気にとけ込まなければ受け入れられない空気も感じ、できるだけメールは単刀直入にし、時差に関係なくよく電話で話し合った。そのかいあって、撮影初日を迎えるためにベルリンに渡った時には、昔から知っている仲間のように感じることができ、早い時期に信頼関係を築くことができたと思う。

 −−番組を作る上でうれしかったこと、逆に大変だったエピソードは?

 チーム全体が信頼関係で結ばれておりファミリーのように、なんでも誰とでも直接言い合えて、コミュニケーション面でのストレスがほとんどなかった。監督、プロデューサー、制作進行、はたまたドキュメンタリーの主人公であるキャメロンや彼のマネジャーまで、個別に直接いろいろと話したり、メールで仕事のことだけでなく近況報告をし合える仲になっていたので、お互いとても協力して作業することができた。キャメロンも公式FacebookページでWOWOWのことを特別に紹介してくれたりもし(他の共同制作局にはなかったこと)、関係性を実感できることがたびたびあった。

 −−番組の見どころを教えてください。

 日本では“調和”や“協調性”がとても重んじられる文化だが、キャメロンは子供の頃からいわゆる“浮いている”子供だった。それでも両親が彼の“才能”を信じていたから自由に育ち、今もクラシック界では異端児と呼ばれながらも“天才オルガニスト”の名を欲しいままにしている。

 本当に突出するには個性が大切だということが分かる。また彼は概念にもこだわらない。パイプオルガンは建造物に設置されるもので動かせない、という概念を打ち破り、自分だけの動かせてパイプオルガンの素晴らしい音色を奏でる“移動式オルガン=ツアリングオルガン”の建造に挑戦する。固定概念に全くとらわれない彼の行動力には注目だ!

 −−視聴者へ一言お願いします。

 私がそうであったように、クラシックファンでなくても、オルガンの仕組みが分からなくても、キャメロン・カーペンターを知らなくても楽しめる作品です。子供の頃から異端児で、個性的だからこそつらい思いもしてきた彼は、常に自分に挑戦し続けており、今、新たな“ツアリングオルガン”を建造するという挑戦をしています。自分の望みは常に自分でかなえるという姿勢で、一切妥協を許さないストイックな彼のドキュメンタリーを楽しんでいただいたあとは、引き続き放送する「キャメロン・カーペンター:プライベート・コンサート」での彼の目を見張るプレースタイルを楽しんでいただきたい。

 WOWOW ロサンゼルス駐在員事務所 プロデューサー 鷲尾賀代

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