サンバ:ナカシュ監督と主演オマール・シーさんに聞く「燃え尽き症候群のヒロインに共感」

1 / 6

 全世界で驚異的なヒットを記録したフランス映画「最強のふたり」(2011年)のオリビエ・ナカシュ監督とエリック・トレダノ監督、主演のオマール・シーさんが再びタッグを組んだ映画「サンバ」が26日に公開された。映画は、シーさんが演じる国外退去を命じられたセネガル出身の移民青年のサンバが、燃え尽き症候群(バーンアウト)の女性と出会い、彼女の生き方に影響を与えながら、自身も窮地から脱しようとするヒューマン作品だ。自身の作品では常に「リアリズムを重視している」と話すナカシュ監督と、そのリアリズムのために今回は、セネガルなまりのフランス語を習得したというシーさんに、撮影時のエピソードや共演のシャルロット・ゲンズブールさんなどについて聞いた。

あなたにオススメ

 ◇前作での体験がテーマに

 ナカシュ監督は「私はいつも、観客の皆さんが見ていて楽しめるものを、その一方で、社会的問題やちょっと難しい問題を扱った映画を作りたいと思っています。とはいえ、ユーモアを交えて重苦しくせず、軽やかさを与えるように心掛けています」と映画製作の信条を語る。

 「最強のふたり」のプロモーションで世界中を飛び回っていたときは、「休憩なしの状態が続き、(各国の映画賞受賞で)ヒートアップしてワケが分からなくなった」そうだが、その一方で、「世界のあちこちに行くときに、自分たちにはパスポートがあり、5分もあれば国境を越えられる」のに対して、「何年もかけて国から国へ大変な思いをして渡る人たちのことが、ふと頭をよぎった」という。それが、今作の「移民」というテーマにつながった。

 ◇ナカシュ監督との現場は「部屋」

 シーさんは、今作の企画を両監督から聞いたときは、「感受性を強く揺さぶられ」、同時に、「サンバは社会の中に存在しているが、実は陰に隠れて周囲からは見えていない。そういう人たちに光を当てることに共感した。これまでの一般的なフランス映画がしてこなかった不法移民をヒーローにする、そういった映画作りにも共感した」ため出演を快諾したという。そして、「最強のふたり」の頃を、「いろんなところに旅行し、オーバーヒート状態でバーンアウト寸前だった」ことを認めながらも、「僕たちは忙しくても喜びがあった。自分がやった分の成果がちゃんと得られていた。でも、燃え尽き症候群の人は仕事をしても果実を受け取るのは他人」と、今作で描く燃え尽き症候群のヒロインに同情と共感を示した。

 シーさんが、ナカシュ、トレダノ両監督と組むのは短編を合わせると今作が5作目だ。直前には、「X−MEN:フューチャー&パスト」(14年/ブライアン・シンガー監督)でハリウッドデビューを果たした。その経験を踏まえ、「フランス映画は僕にとってメゾン(家)のようなもので、エリックとオリビエとの現場は部屋」と表現する。すっかり気心が知れた関係であることがうかがえるが、だからこそナカシュ監督はシーさんの、「エネルギッシュで彼独自のユーモア」と「彼が普段見せていなかったロマンチックで繊細という、もともと持っている資質を思い切り引き出す」ことができ、サンバというキャラクターが「味のある」ものになったと話す。

 ◇目指したのは“大衆作家映画”

 そのシーさんの相手役となる燃え尽き症候群の女性アリスを演じたのが、最近では「メランコリア」(11年)や「ニンフォマニアック」(13年)に出演したシャルロット・ゲンズブールさんだ。ゲンズブールさんの起用についてナカシュ監督は、「皆さんを驚かせることが、私たちが目指していたこと」と前置きした上で、「フランスでも前例がないものを見せたかった。今回のオマールとシャルロットの共演は夢のキャスティング。シャルロット・ゲンズブールは、ご存じのように、素晴らしい実績とバックグラウンドのある女優。フランスではアイコン的存在で、いろんな作家主義の映画に出ている。一方のオマールは、『最強のふたり』という大衆映画で人気者になった。この2人を組み合わせたら“大衆作家主義映画”という面白いものができるんじゃないかと思ったのです」と説明する。

 一方、シーさんはゲンズブールさんとの共演を「サンバは、僕にとってはドラマチックな部分もあるチャレンジングな役でした。でも、僕の中にあるユーモアや繊細な部分……僕にもそういう部分はあるんですよ(笑い)。それをシャルロットがうまく引き出してくれたように思います。彼女自身もすごく繊細な人で、僕が持つ不器用さだったりあやうさだったり、そういうものが、彼女と一緒に演じていると自然と出てきました」と振り返り、ゲンズブールさんを「ハイレベルなパートナーで素晴らしい女優」とたたえた。

 ◇友人と「すてきな1日」を過ごした屋根の上のシーン

 ゲンズブールさんのキャスティングに加え、意外なのはタハール・ラヒムさんの出演だ。ラヒムさんは、イラン人監督アスガー・ファルハディさんの「ある過去の行方」(13年)などに出演しているが、これまでのシリアスな役柄とはうって変わって、今回は陽気なブラジル移民ウィルソンを演じている。

 実は、シーさんとラヒムさんはプライベートでも友人同士で、今回の共演はシーさんにとって、「シリアスな役が多かった彼と、コミカルな役が多かった僕が、ちょっと衣装を交換したような雰囲気があった」という。シーさんは、ポスターに映っている屋根の上のサンバとウィルソンを指差し「すてきな1日だったなあ」としばし思いにふけったあとで、「なかなか人生でできないでしょ? パリのアパートの屋根に上るなんてね……。ネズミが出ない限りね。ハトなら大丈夫だけど」と冗談混じりに撮影を振り返った。

 ◇シーさんは監督の「ラッキーアイテム」

 ところで、前作「最強のふたり」は、11年の東京国際映画祭で最高賞サクラグランプリ(現・東京グランプリ)を受賞している。そのときナカシュ監督は、授賞トロフィーと一緒に「たいそうすてきな置き物」を贈られたそうだ。それをオフィスに飾っていたところ、実はそれはトロフィーの台だったことをあとで知り驚いたという。それを隣で聞いて大笑いしていたシーさん。そんな2人の様子からも、互いが気の置けない存在であることがうかがえた。そこでインタビューの最後に、サンバがカラフルなTシャツをラッキーアイテムにしていたことにちなんで、ナカシュ監督にとってのラッキーアイテムを尋ねてみた。すると、シーさんの方を向き、「彼だよ」と笑顔で答えた。映画は26日から全国で公開。

<オリビエ・ナカシュ監督のプロフィル>

 1973年、フランス・セーヌ生まれ。95年に短編映画「Le jour et la nuit」の監督、脚本をエリック・トレダノ監督と共同で手掛け、以来、チームを組んでいる。数本の短編を撮り、2005年初の長編映画を制作。その後、数本の長編作を手掛け、11年の「最強のふたり」が大絶賛を浴び、フランス歴代興行収入第3位を記録した。

 <オマール・シーさんのプロフィル>

 1978年、フランス、イブリーヌ生まれ。コメディアンとして活躍する一方、「ル・ブレ」(2002年)、「ミックマック」(09年)などに出演。11年の「最強のふたり」が世界的大ヒットとなり、一躍その名を知られるように。「アンタッチャブルズ」(12年)、「ムード・インディゴ うたかたの日々」(13年)の出演を経て、「X−MEN:フューチャー&パスト」(14年)でハリウッドデビューを果たす。エリック・トレダノ監督とオリビエ・ナカシュ監督とは、短編を含み今作で5本目のタッグとなる。出演作「ジュラシック・ワールド」の全米公開を15年6月に控える。

写真を見る全 6 枚

映画 最新記事