妻への家路:チャン・イーモウ監督に聞く「汽車のシーンの撮影に20日間かかった」

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 監督デビュー作「紅いコーリャン」(1987年)に始まり、「あの子を探して」(99年)、「初恋のきた道」(2000年)といった市民を描いた感動作から、「HERO」(02年)や「LOVERS」(04年)といった娯楽大作まで、数多くの話題作を送り出してきた中国のチャン・イーモウ監督。記念すべき20作目の監督作は、「王妃の紋章」(06年)以来8年ぶりにタッグを組むコン・リーさん主演の「妻への家路」(6日公開)だ。米国で暮らす上海出身の作家、ゲリン・ヤンさんの同名小説を基に、中国文化大革命(1966~77年)後、拘束を解かれ家に戻った夫(チェン・ダオミンさん)と、心労のために夫の記憶だけを失ってしまった妻(コンさん)の愛の物語だ。チャン監督が、今作の撮影裏話やコンさんについて、さらに米ハリウッドに打って出る次回作について語った。

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 −−映画は、小説の最後の部分からを描いています。

 原作は、夫妻のもっと若いときからを描いています。若い頃の夫は、忙しいなどの理由で妻をないがしろにしていました。でも、自分が労働改造所というところに送られ、何十年も離ればなれになり、初めて妻に対して自分がいかに無情だったのかに気づいていくのです。一方、妻は若い頃から夫のことを思い続けていて、文革が終わりやっと夫が家に帰って来ますが、そのときには夫の記憶を失っている。映画はその部分から描いています。

 −−妻のために今度は夫が尽くそうとする。究極の夫婦愛です。

 確かにそうだと思います。さまざまな障害があって別れて暮らさなければならなかった。再会しても、また別の障害がある。愛し合っている2人がいろんな条件の下で困難にぶつかるというのは恋愛物語では世界共通、普遍的な内容だと思います。

 −−監督ご自身、文革体験があり、「活きる」(94年)や「サンザシの樹の下で」(10年)でも文革時代を描いていました。今回の作品で演出面で配慮したことは。

 「活きる」のときは、演じる俳優たちは文革について知っている世代の人たちでしたからよかったのですが、今回、夫婦の娘を演じたチャン・ホエウェンは私とは2世代違い、まったく知らなかった。ですから当時の若い人の服装や意識、生活態度などは私の経験を話して聞かせました。

 −−主人公たちが暮らす宿舎や妻が夫を待つ駅など、当時の雰囲気が出ていました。

 宿舎は、北京にある鉄鋼工場が移転して宿舎だけが残っていたので、それを使いました。駅は、河北省の唐山、唐山大地震(76年)があったところですね、そこにある今も使われている駅で撮影しました。汽車も、その駅を実際に通る汽車です。全部、時刻表を調べました。5時に昔の形の汽車が通ると分かると、その時間にエキストラを含めた何百人を駅に集合させ、その時間を狙って撮りました。

 −−大変でしたね。

 昔の形の汽車が通ることはそれほどないので、それを逃すと4、5時間待たなければならない。しかも時刻表通りに来ない。3時に来るといって、2時45分に来たりして(笑い)、みんなで一斉に走ったり。それをそのまま使った部分もあります。それに、エキストラがたくさん出ているので、一人でもカメラ目線をすると使えない(笑い)。今回の撮影期間は全部で75日間でしたが、あのわずかなシーンを撮るのに20日間かかりました。

 −−チャン監督のデビュー作「紅いコーリャン」でデビューしたコン・リーさんと組むのは、「王妃の紋章」以来8年ぶり8本目です。

 今の彼女は、女優として成熟し切った一番いい時期だと思います。感情表現も非常に豊かで、本当にいい女優になったと思います。特に、人物の把握がものすごく正確で、準備も怠りません。いろいろなアイデアも出してくれます。例えば今回、夫がピアノを弾くシーンがあります。ほとんどせりふのないシーンですが、もともとの脚本とは違います。コン・リーと(夫役の)チェン・ダオミンが相談して、映画のような複雑な演技になりました。

 −−次回作について教えてください。

 ハリウッドで今度撮るのは、「The Great Wall」という完全に英語のせりふだけの娯楽超大作です。アクション時代劇で、ハリウッドと中国の両方の役者が出演し、幻想的で視覚効果もあります。製作費も大きくなるでしょう。今年3月に撮り始めて、たぶん8月には撮影を終え、来年には完成できると思います。

 <プロフィル>

 1951年生まれ、中国・陜西省西安出身。78年、北京電影学院撮影科入学。82年に卒業後は撮影監督となり、「黄色い大地」(84年)などを手掛ける。87年の監督デビュー作「紅いコーリャン」でベルリン国際映画祭金熊賞受賞。その後、「菊豆」(90年)、「紅夢」(91年)「秋菊の物語」(92年)「活きる」(94年)、「あの子を探して」(99年)、「初恋のきた道」(2000年)を発表し、ベルリンほか、ベネチア、カンヌと名だたる映画祭で数々の賞を受賞。05年には高倉健さん主演の「単騎、千里を走る。」を監督した。ほかに「女と銃と荒野の麺屋」(09年)などがある。万里の長城にまつわる次回作「The Great Wall」は16年全米公開予定。

 (取材・文・撮影:りんたいこ)

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