龍三と七人の子分たち:北野武監督と藤竜也さんに聞く・上「ジジイという言葉が好きになった」

「龍三と七人の子分たち」について語る北野武監督(左)と藤竜也さん
1 / 6
「龍三と七人の子分たち」について語る北野武監督(左)と藤竜也さん

 北野武監督の17作目の作品「龍三と七人の子分たち」が25日に全国で公開された。引退した元ヤクザの組長が、あろうことか“オレオレ詐欺”に引っ掛かってしまったことから、昔の仲間を呼び寄せ、自分をだました詐欺集団の“ガキ”どもを成敗していくという娯楽作で、元ヤクザの組長、龍三を、今作が北野作品初出演となるベテラン俳優、藤竜也さんが演じている。北野監督の作品らしく、随所に笑いがちりばめられているが、監督自身は「ドタバタ喜劇にはなっていない」、また藤さんも「コメディーに出たつもりはない」と話す。2人に話を聞いた。

ウナギノボリ

 ◇ジイさんだけどガキ扱い

 詐欺集団のガキどもを成敗していくとはいえ、龍三をはじめとする“ジジイ”たちは元ヤクザだけあり、孫が大切にしているものを酒の肴にしたり、そば屋の客を賭けの対象にしたりと、やることは決して褒められたものではない。北野監督自身は「設定はヤクザのおじいちゃんだけど、実はもっと子供のガキ扱いで、ガキが悪いことをしているという感じ」と説明する。

 一方で、元ヤクザのジイさんたちが若者相手に体をはることから、「おじいちゃん、頑張れ」映画のようにも思えるが、「頑張って生きる必要はないし、ジイさんはジイさん。その世界にいたジイさんが集まったら、結局、(やることは)子供じみている。出てくる若いヤツらがひ弱だとも言っていないし」と、年配者へのエールを込めたつもりもないという。

 ◇お笑いはペーソスがなければつまらない

 北野監督はこの映画は基本的に、「根底にはちょっと暗く寂しい流れがある」と話す。実際、「悲しい結末」で、「それぞれのペーソスがあって、実は孫との関係なんてのは、なんか悲しくて」、そこにもの悲しさを覚える人も出てきそうだが、基本的に「お笑いっていうのは、ある程度ペーソスがなければつまらない」といい、「その悲しさが流れているからお笑い(の部分)がもっと笑えちゃうという感じがある」と“お笑い”の“あり様”を説明する。

 ただ、笑える映画だからといってそれをコメディアンがやると「(ウケを狙って)わざとらしい芝居になり」、その結果、「実につまらなくなる」と言い切る。その点、「ちゃんとした役者さんが、ちゃんとした演技をやると、本人たちが気付かないところでお笑いの方に効いてきている。台本自体が笑わせるようになっているんでね。だから、ちゃんと芝居のできる役者さんをそろえて半分以上正解だった」と、今回のキャスティングに自信を見せる。

 ◇痛快だったジジイ役

 その「ちゃんとした役者さん」として招かれたのが、藤さんはじめ、近藤正臣さん、中尾彬さん、小野寺昭さん、品川徹さん、樋浦勉さん、伊藤幸純さん、吉澤健さんといった、平均年齢70歳超えのベテラン勢だ。73歳の藤さんは龍三を演じるに当たって、「僕は現役で俳優をやらせてもらっていますが、普通は定年で、やれやれこれからは趣味でゆっくり過ごそうという人もいれば、まだやり足りないという人もいるだろうし。でも人というのは、引退した当初こそゆっくりできていいなあと思うけれど、これが5、6、7年経って、体が健康なら、もう少しやることがあるんじゃないか、平たく言えば、もうひと花咲かせたいと思うんですよ。そういうジジイを代弁できるんじゃないかと思って、僕は一生懸命やりました」と語る。そして、「『うおー』と、若い人に思い切りむちゃくちゃな言葉を投げるシーンなんてのは、内心は痛快でしたね(笑い)」と振り返った。

 ◇「ジジイはいいエクスキューズ」

 龍三たちは、若いヤツらに何度も「ジジイ」呼ばわりされるが、言われる側の藤さんは、「平気。失礼な態度をとられても忘れちゃう。俺も若い時、失礼なことをたくさんやったから、フィフティフィフティ(笑い)」とスマートに語る。ご自身は「いやあジジイですよ」と照れ笑いを浮かべ、「この映画に出てから『ジジイ』という言葉が好きになっちゃってさ」と言うが、洗いざらしのジーンズをはきこなしインタビューに応じる藤さんは実にカッコよかった。

 北野監督も「俺、ジジイっていいエクスキューズ(言い訳)だと思うんだよね。都合が悪かったらボケたふりができる(笑い)。よく俺、孫のあめを取って食っちゃって怒られたら、『知らねえよ、俺そんなこと。ジジイだもんしょうがねえよ』って言うんだけど、開き直ったジジイが一番怖い(笑い)。説得のしようがないんでね。『お前たちに明日はあるか』って言ったらないんでね。どうでもいいよそんなこと、どうせ死ぬんだからってさ(笑い)」と、今作のキャッチコピー、「俺たちに明日なんかいらない!!」を引き合いに出し、得意の毒舌を交えながら「ジジイ」論を展開した。ちなみに、北野監督がジジイを自覚するようになったのは、「残尿感」が出るようになったときだそうで、「やっぱり尿切れが悪くなったらジジイだって思うよね。いくら振っても出た感じがしない。便器にぶつけて気絶したっていう。尿が目に入った、これほど悲しいものはない……」とまたも自虐ネタで笑わせた。

 70歳を超えるジジイたちが大活躍する今作だが、決して年配の人向けの作品ではない。事実、関係者によると、試写会で見た一般、マスコミを問わず多くの若者からは上映中に笑いが起こっていたそうで、北野監督も「なんかね、若い人が喜んでいるっていうからさ、よかったなと思ってさ」とひとまず安堵(あんど)の表情を浮かべた。映画は25日より全国公開。

 <北野武監督プロフィル>

 1947年生まれ、東京都出身。主演も務めた「その男、凶暴につき」(89年)で初監督。98年製作の「HANA−BI」で第54回ベネチア国際映画祭金獅子賞を、「座頭市」(2003年)で第60回ベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞している。ほかに、「ソナチネ」(93年)、「菊次郎の夏」(99年)、芸術家としての自己を投影した三部作「TAKESHIS’」(05年)、「監督・ばんざい」(07年)、「アキレスと亀」(08年)や、「アウトレイジ」(10年)と続編「アウトレイジ ビヨンド」(12年)などがある。今作「龍三と七人の子分たち」が17作目の監督作となる。

 <藤竜也さんのプロフィル>

 1941年、北京生まれ。大学時代にスカウトされ日活に入社。62年、「望郷の海」で役者デビュー。「愛のコリーダ」(76年)で報知映画賞最優秀主演男優賞を受賞。主な映画出演作に「アカルイミライ」(2003年)、「村の写真集」(03年)、「サクラサク」「私の男」「柘榴坂の仇討」(いずれも14年)などがある。現在、主演を務めるNHK時代劇「かぶき者 慶次」が放送中。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

写真を見る全 6 枚

映画 最新記事