テレビ質問状:「演出に“リアル”を生む~人物デザイナー柘植伊佐夫 舞台『プルートゥ』に挑む~」

「ノンフィクションW 演出に“リアル”を生む~人物デザイナー柘植伊佐夫 舞台『プルートゥ』に挑む~」のワンシーン
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「ノンフィクションW 演出に“リアル”を生む~人物デザイナー柘植伊佐夫 舞台『プルートゥ』に挑む~」のワンシーン

 WOWOWは毎週土曜午後1時に「WOWOWオリジナルドキュメンタリー」枠として、「ノンフィクションW」と「国際共同制作プロジェクト」の2番組を両輪に、国内外のさまざまなテーマを扱ったオリジナルのドキュメンタリー番組を放送している。6月20日に放送される「ノンフィクションW 演出に“リアル”を生む~人物デザイナー柘植伊佐夫 舞台『プルートゥ』に挑む~」のプロデューサーを務めたWOWOWの制作局制作部の金山麻衣子さんに、番組の魅力を聞いた。

ウナギノボリ

 --番組の概要と魅力は?

 映像作品において、「人物デザイン」という役割で、衣装やヘアメーク、小道具など“扮装(ふんそう)”のすべてを設計する役割があります。日本で「人物デザイン」の専門家として映像作品や舞台を支える役割を、大友啓史、三池崇史、長塚圭史さんなど映画監督や演出家から高い評価を受ける柘植伊佐夫さん。この番組では、新たな舞台「プルートゥ PLUTO」に全身全霊で向き合う彼の姿を追います。この舞台で「人間によって作られ破壊されるロボットの悲劇」という難しいテーマに挑むことになります。千秋楽まで柘植さんの仕事ぶりに密着し、アーティストとして創作に懸ける奥深い人間性や情熱、哲学に迫ります。

 --今回のテーマを取り上げたきっかけと理由は?

 個人的な話になりますが、子供の頃から大河ドラマが好きでよく見ていたのですが、2010年の「龍馬伝」を見た時に、強い衝撃を受けました。リアルを超える“リアル”な映像的な表現が、時代のリアリティーを伝えていたのです。幕末という、我々が実際に目にすることのできない時代の真実を、時代を超えて寸分違わないリアルとして伝えるための、妥協のない制作陣の努力を感じたのです。このドラマはどうして今までとこれからを変えるようなドラマに仕上がったのだろうか?という純粋な驚きとともに、「人物デザイン」という役割で、ドラマに関わっていた柘植さんの存在を知りました。すぐに柘植さんの著書を買い求め、そのクリエーティビティー(創造性)の源を知りたいと思いました。その著作を読み進める中で知り得た柘植さんの人間性にさらに興味をかきたてられ、ドキュメンタリー番組の企画をできないかと考えたのです。

 --制作中、一番に心掛けたことは?

 柘植さんの関わるあまたの作品の中での役割は、一言でなかなか語りきれない多様な面をお持ちです。その役割が、日本でも珍しい役割であり、例えば映画の製作現場に根づいている役割ではないところ、日本の映像業界の現状をまず説明して、柘植さんの仕事の特異性を語らなければなりません。今回の「プルートゥ」での柘植さんの仕事の内容を伝える前に、まずその前段のストロークが大切だと考えました。

 --番組を作る上でうれしかったこと、逆に大変だったエピソードは?

 柘植さんの著作「さよならヴァニティー」を読んでどんな土地なのか想像していた、柘植さんの故郷・長野県伊那市。私にとってうれしかったのは、実際にロケで訪れた時に、その特有の山間の町の風情を感じることができた瞬間です。柘植さんの筆力によるものですが、あまりにも想像していたままの風景を目にすることができ、これは確かに柘植伊佐夫さんという唯一無二のクリエーターを生み出す、ある種のマジックアワーを有する町だと感動しました。

 --番組の見どころを教えてください。

 柘植さんが今回「人物デザイン」を担当した、舞台「プルートゥ PLUTO」。原作は手塚治虫の鉄腕アトム「地上最大のロボット」に、浦沢直樹さんとストーリー共同制作の長崎尚志さんが新しい命を吹き込んで生まれた傑作マンガ「PLUTO」です。登場人物の扮装とロボットの造形を担当する柘植さんは、関係するスタッフを仕切り、制作していきます。柘植さんの挑戦する「地上最大のロボット」に、柘植さんはどんな思いを託したのか? 柘植さんの作品には「欲望」「葛藤」など「心の闇」を表現したものが多いのですが、このドキュメンタリーでは、その「心の闇」がどこから生まれたものなのか、という深い部分に迫っています。柘植さんの非常にプライベートな心の部分に抵触してしまったのではないかという一抹の不安もありますが、番組スタッフ、私たちなりの「柘植伊佐夫」像を切り取れたのではないかと思っております。

 --視聴者へ一言お願いします。

 WOWOWの視聴者の方も、そうでない方も含めて、実は柘植伊佐夫さんが関わった作品をご覧になっている方が多いと思います。なので、この番組をまずぜひご覧いただき、「あっ! この人はこの映画の……」「この舞台の……」という発見をしていただけたらうれしいです。映像作品も舞台も、多くのスタッフの一人ずつの人生の記憶による哲学や美学、それまでの生き方によって集積して形をなしていくものだと思います。ぜひ、柘植伊佐夫さんというクリエーターの生き方を知っていただきたく、そうしていろいろな作品とのさらに深いコミュニケーションを、視聴者の皆さんにとっていただける機会になれば幸いです。

 WOWOW 制作局制作部 プロデューサー 金山麻衣子

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